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挿絵 400*400

「何で?」

 俺はコイツを床に叩き伏せたい衝動を抑えながら聞いた。
 ローズを探すヤツなんて十中八九は賞金稼ぎだからだ。要するに俺の敵。

「情報があるのでしたら詳しく説明致しますが」

 少年は丁寧な口調の割に、声の質がだんだんトゲっぽくなっている。
 まだまだお子様なようだし俺の無愛想さにカチンとでもきたのだろうが、こちらの情報を賞金稼ぎに言うわけにはいかない。

「まずはその事情を聞いてからだ」

 俺は髪を掻きあげて窓の外を見る。ここで暴れるのはよろしくないのでどうやって誘い出すかな、と考えていたら向こうから切り出してきた。

「ではここでは何ですし、外でお願いします」

 その言葉を聞いてから、席に金だけ置いて無言で立つ。外に出るまでにチラリと再度少年を流し見たが、やはり顔の整い方がローズに似てるなと思わなくもない。
 でもその時俺は既に、そのガキに永遠に相容れない何かを感じていて、とてもそれ以上の事は考えられなかったのだった。



 その後は二人で店を出て街はずれまで無言でただ歩いていく。
 少年が俺の前をスタスタと歩き、俺がそれに着いて行く形だ。
 少年の荷物は多いようで少ない。
 旅人には違いないが、生活に必要な荷物は少なく、ただその代わりにやたらと長い……多分槍か斧、棍棒のような物を担いでいる。
 何にしても刃の先と思われる部分に布がぐるぐる巻きにしてあって、そのうちのどれだかは分からない。少年の身長をその武器のリーチで補うようなところか。百八十ちかくある俺の身長を越える大きさの得物だ。
 整備された道が途切れ始め足元が悪くなり、街はずれに着く頃。
 どうせコイツと一戦するハメになるのならさっさと後ろから不意打ちをかけた方が早いんだよな……そんな事を思いながら様子を伺いつつ歩いていると、ふと少年の足が踵を返した。
 そのまま少年の腕が振りかぶって、ビュンッと掠れるように風を切る音。

「あぶねっ!」

 俺は少年の打ってきた氷の魔法を紙一重でかわした。それはそのまま俺の背後にあった岩を易々と破壊する。
 やってくれた少年を睨むと、思っていたよりも涼しい顔で呟かれた。

「面倒くさいですね、避けないでくださいよ」

 うおおおこいつむかつくうううぅぅぅ

「お前な、何を考え……」

「そのままです、どうせ貴方も不意打ちでもしようと考えていたでしょう?」

 俺の言葉を遮って聞き捨てならない発言をしたかと思うと、少年は背中に担いでいた武器の布を手馴れた様子で解く。その間、一秒も無い。それは斧に近い、槍。
 間髪入れずに槍を振り回してきたので、俺はその槍を思いっきり受け止めてやった。
 白羽取りでは無い。
 片手で、刃を掴む。
 少年はその掴んだ俺の手ごと斬ろうと力を入れたのだろうが、そんなの俺には通じない。

「っ!」

 少年は異変を感じたのか、すぐに後ろに飛んだ。まぁ賢明な判断だな。
 少年の武器の刃は、既に俺の手によって少し壊れている。
 説明すると長いがこれが俺の特技の一つ。触れさえすれば後はもう壊してしまえばいいだけだ。初撃のように飛び道具で来られるとキツイわけだが。

「魔術か何かですか、溶け方が少し変ですね」

 刃を見ながら少年が問いかける。そりゃそうだな、正確には溶けたのではなく分解されて崩れたのだから。

「答えてやる義理はねぇよ」

 俺は手に残った、少年の槍の一部を小さいナイフに変化させると、ヒョイ、と少年の顔めがけて投げてやった。勿論、かわされたが。
 人とは少し違う俺の魔力は、一般的な魔法のように火や水などは生み出せない代わりに、最初からその場に存在する物に対してなら今のように魔力を通して対象を特定の物質に作り変える事が出来る。応用して壊すのも容易。
 人より魔力が硬質だ、と言う表現が適切らしい。師匠談。

「さぁガキ。その武器は俺には通用しないぞ、どうする?」

 俺が勝ち誇った笑みを浮かべて一歩進むと、少年は一見諦めたかのように何もせずただ黙って俯く……が、何もしないにしては様子がおかしかった。

「いいです、貴方には近寄らない事にしておきます」

 一言喋ったかと思うと少年の周りの空気が揺らめいて一瞬濃くなる。
 まずい、これは何かされる前にトドメを刺さないといけない。
 嫌な予感にすぐさま右の腰元の銃を抜き、引き金を確かに引いたのだが、

「ふふ、気付くのが遅いです」

更新日:2012-10-05 14:35:59

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