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半狂乱する女性を宥めた後、私達はスーベラまで戻る事にした。しかし問題は槍。持ち帰りたいが私が意識を奪われてしまっては話にならない。
「ああいう事されると貴方を持てないんですけども、どうにかなりませんか?」
触らずに交渉する事にした。
精霊の声は直接頭に響いてくる。触らなくても近ければ会話は出来るようだ。
『むしろクリス様は何故アレを生かしておこうなどと思うのだ』
「こちらとしては殺そうとする理由が分かりかねます」
だが、彼女に対する違和感は精霊に指摘されずとも感じている。アレは自分の敵だ、と。だがその感情には敵だと示す何の確証たるものが無い……私の一方的な気持ちでしかないのだ。
「とにかく、勝手に私を動かそうとしたら今度はドブに捨てますからね」
『了解した』
私はその言葉を信じて再度槍を手にする。ご機嫌ナナメなのは伝わってくるが、それだけ。特に私自身に変化は感じられないので何とか分かってくれたようだった。
「そんな槍捨てておけばいいのに」
エリオットさんがジト目でこちらを見やる。
「そういうわけにもいかないでしょう。ちゃんと分かってくれたみたいですよ。エリオットさんと違って素直です」
「一言多いわ!」
まだ私達との会話についていけない金髪美女は、しっかりと体に布を巻いて押さえながらただただ聞く側に落ち着いている。
「とりあえず街で服を買ってから、お話しましょうね」
不安も多いであろう女性は、こくりと頷き無言で私達の後をついてきてくれたのだった。
ちなみに服のチョイスはお財布係であるエリオットさん。
「買ってきたぞー」
あれからスーベラの宿で待機していたところに戻ってきた彼は、ごそごそと紙袋から不思議なデザインの服を取り出す。様々な切り込みが入った上着とスカートに大きな帽子と、黒いストッキング。あと彼の趣味だろうか、買って来た下着は黒だった。
「どうしたんですかこれは」
「この街のお祭りに使う民族衣装らしい!」
過去最高の笑顔で元気に答えるエロ男。
「どうして普通の服買わなかったんですか」
「着たところが見たかったからに決まってんだろ!」
お金を出しているのは彼なのでこれ以上文句も言えまい。服があるだけマシか、と諦めて彼女に渡す。
「これで良ければ、着てください」
「ありがとうございます」
やはり聞くだけで心地よい声。高いには高いが、耳ざわりの良い音の高さ。甲高いとは違う、優しい綺麗な声。彼女が喋るだけで周囲に花が咲いたかのように明るくなる。細くて綺麗な明るい金髪は、窓からの日差しを受けて天使の輪を作っている。優しい眼差しのその瞳は、髪の色と同じ金色。
「では着てきますね」
と、脱衣所に歩いていく。
それを見送るとエリオットさんは私に問いかけた。
「で、何か聞けたのか?」
「それが……全く何も覚えていないそうなのです」
「それは参った」
何かの手がかりになるかも知れない、とあの場から連れて来た彼女は、事もあろうことか自分の名前から昨日の晩御飯まで、何一つ覚えていないというのだ。だからこそ私達に素直に着いて来たのだろう。
「じゃあの子はこれからどこに置いておけばいいんだか……」
「一人放っておくわけにもいきませんしね。だからといって一緒に連れて行くには危ないでしょう。誰かに預けるのが妥当かと」
「うーーーーーん」
考えこんでしまったエリオットさん。正直な話、情報も持っていないのならお荷物にしかならないからだ。
そこへ着替えて戻ってきた記憶の無い女性。
「どうでしょう?」
私達の間に来て、服を見せるように一回転。ひらひらした上着とは対照的にタイトなスカートとストッキングが彼女のスタイルを強調していて、何だかすごくけしからん事になっている。主にくびれが。
「……可愛いよ」
エリオットさんはもはや慈愛の眼差しで彼女を見つめている。その一言の感想に、彼の今の気持ちが全て込められているようだ。優しく語り掛けるかのようなその言葉の発し方も最高に気持ち悪い。
「とてもお似合いです」
私もありのままの気持ちを口にした。
「本当ですか、良かったです! こんな私に良くしてくださってありがとうございます!」
まさに天使のような微笑で、純粋無垢な言葉を述べる彼女。記憶喪失なせいもあるのだろうが、悪も穢れも知らぬような乙女の反応である。
「まぁ……コレなら連れていってもいいかもな……」
「何を言っているんですか、姉さんというものがありながら。ダメですよ」
その美しさに惑わされた情けない男の提案を、私は優しく却下した。
「ああいう事されると貴方を持てないんですけども、どうにかなりませんか?」
触らずに交渉する事にした。
精霊の声は直接頭に響いてくる。触らなくても近ければ会話は出来るようだ。
『むしろクリス様は何故アレを生かしておこうなどと思うのだ』
「こちらとしては殺そうとする理由が分かりかねます」
だが、彼女に対する違和感は精霊に指摘されずとも感じている。アレは自分の敵だ、と。だがその感情には敵だと示す何の確証たるものが無い……私の一方的な気持ちでしかないのだ。
「とにかく、勝手に私を動かそうとしたら今度はドブに捨てますからね」
『了解した』
私はその言葉を信じて再度槍を手にする。ご機嫌ナナメなのは伝わってくるが、それだけ。特に私自身に変化は感じられないので何とか分かってくれたようだった。
「そんな槍捨てておけばいいのに」
エリオットさんがジト目でこちらを見やる。
「そういうわけにもいかないでしょう。ちゃんと分かってくれたみたいですよ。エリオットさんと違って素直です」
「一言多いわ!」
まだ私達との会話についていけない金髪美女は、しっかりと体に布を巻いて押さえながらただただ聞く側に落ち着いている。
「とりあえず街で服を買ってから、お話しましょうね」
不安も多いであろう女性は、こくりと頷き無言で私達の後をついてきてくれたのだった。
ちなみに服のチョイスはお財布係であるエリオットさん。
「買ってきたぞー」
あれからスーベラの宿で待機していたところに戻ってきた彼は、ごそごそと紙袋から不思議なデザインの服を取り出す。様々な切り込みが入った上着とスカートに大きな帽子と、黒いストッキング。あと彼の趣味だろうか、買って来た下着は黒だった。
「どうしたんですかこれは」
「この街のお祭りに使う民族衣装らしい!」
過去最高の笑顔で元気に答えるエロ男。
「どうして普通の服買わなかったんですか」
「着たところが見たかったからに決まってんだろ!」
お金を出しているのは彼なのでこれ以上文句も言えまい。服があるだけマシか、と諦めて彼女に渡す。
「これで良ければ、着てください」
「ありがとうございます」
やはり聞くだけで心地よい声。高いには高いが、耳ざわりの良い音の高さ。甲高いとは違う、優しい綺麗な声。彼女が喋るだけで周囲に花が咲いたかのように明るくなる。細くて綺麗な明るい金髪は、窓からの日差しを受けて天使の輪を作っている。優しい眼差しのその瞳は、髪の色と同じ金色。
「では着てきますね」
と、脱衣所に歩いていく。
それを見送るとエリオットさんは私に問いかけた。
「で、何か聞けたのか?」
「それが……全く何も覚えていないそうなのです」
「それは参った」
何かの手がかりになるかも知れない、とあの場から連れて来た彼女は、事もあろうことか自分の名前から昨日の晩御飯まで、何一つ覚えていないというのだ。だからこそ私達に素直に着いて来たのだろう。
「じゃあの子はこれからどこに置いておけばいいんだか……」
「一人放っておくわけにもいきませんしね。だからといって一緒に連れて行くには危ないでしょう。誰かに預けるのが妥当かと」
「うーーーーーん」
考えこんでしまったエリオットさん。正直な話、情報も持っていないのならお荷物にしかならないからだ。
そこへ着替えて戻ってきた記憶の無い女性。
「どうでしょう?」
私達の間に来て、服を見せるように一回転。ひらひらした上着とは対照的にタイトなスカートとストッキングが彼女のスタイルを強調していて、何だかすごくけしからん事になっている。主にくびれが。
「……可愛いよ」
エリオットさんはもはや慈愛の眼差しで彼女を見つめている。その一言の感想に、彼の今の気持ちが全て込められているようだ。優しく語り掛けるかのようなその言葉の発し方も最高に気持ち悪い。
「とてもお似合いです」
私もありのままの気持ちを口にした。
「本当ですか、良かったです! こんな私に良くしてくださってありがとうございます!」
まさに天使のような微笑で、純粋無垢な言葉を述べる彼女。記憶喪失なせいもあるのだろうが、悪も穢れも知らぬような乙女の反応である。
「まぁ……コレなら連れていってもいいかもな……」
「何を言っているんですか、姉さんというものがありながら。ダメですよ」
その美しさに惑わされた情けない男の提案を、私は優しく却下した。
更新日:2011-08-12 08:59:23