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マドリガーレ ~交錯する思い~
「とりあえず昨日の話をしよう」
そろそろライトさん達と顔を合わせるのも慣れてきたようなレイアさんが、彼の病院内のダイニングテーブルに手をついて切り出した。
私達はあれから二日かけて王都に帰還したのだが、戻ってきた事をガイアさんに聞くなり彼女はすっ飛んできて、何を言うかと思えばこの通り。
「昨日、ですか?」
こちらとしても早くニザで何があったのか報告をしたいのだが、そうはさせないほどの大事が昨日に起こったのだろうか。
一同勢ぞろいして足りなくなった椅子は別の部屋から引っ張って持ってくるくらい、人口密度が高くなっているダイニングルーム。
フォウさんとレフトさんはあまり会話に口を挟むつもりは無いのだろう。彼らは少しテーブルから離れたところまで椅子を引いていて、テーブルにきちんと向かっているのは私とライトさんとガイアさん。それに椅子を使わず立っているレイアさんだった。
「どこからどう説明したものか……うーむ」
「早く言え」
「分かっている! えぇと、モルガナの長から文書が届いたんだ」
ライトさんに急かされ、焦りつつも順を追って説明しようとしてくれている彼女。だがその表情はとても硬い。一体その文書に何が書かれていたと言うのか、皆黙って続きを待つ。
「簡単に言うと内容はこうだ。『王子の身の安全を保障してほしくば軍を放棄せよ』と」
「……え?」
それだと、エリオットさんはモルガナに居る事になってしまうではないか。いきなりこちらの情報と辻褄が合わな過ぎるので、私は思わず聞き返してしまった。
「と言う事はエリオットはモルガナに居たのか?」
勿論コレだけ聞くとそういう事になるわけで、ライトさんが私に事実確認をしてくる。
「いいいいいや、居ませんでしたよ。ニザの渓谷の大きな建物のあたりで会いました」
「そうッス。しかも結構自由きままに動けるみたいだったッス」
私の言葉に、補足してくれたガイアさん。そのやり取りを聞きながらレイアさんの顔色はますます強張っていっていた。
「いきなり状況が噛み合わないとは……では行方不明の情報を聞き付けた上でそれを利用してのハッタリなのだろうか?」
「そう決め付けるにはまだ早計だ。次に三人が持ち帰った情報を聞いてきちんと照らし合わせればいい」
焦る鳥人の片割れを止めながら、また私に向き直る白髪の獣人。
とりあえず私とガイアさんは、先日フォウさんに説明した内容とほぼ同じ事を彼らに伝えた。途中、レイアさんがまるで力尽きたように椅子に腰を掛けて項垂れた以外は特筆すべき事もなく話が進む。
「じゃあエリオットは半分くらいは向こうに寝返っているようなものか」
眼鏡の下の瞳を半眼にして呆れたように再確認をするライトさんに、私はこくこくと何度も頷いた。帰ってきて間も無いので黒い法衣のままの為、少し暑くて手で顔をぱたぱた仰ぎながら次の言葉を紡ぐ。
「はい、だからやっぱりすぐに何か彼に危険が~みたいな感じは無かったと思います」
「恐ろしく辻褄が合わないな」
全くです。何を相談しようにも情報が錯綜し過ぎていて話にならない。しかしここは頼りになりそうな眼鏡がキラリと光る、ライトさんがそれでも何とか糸口を見つけるべく話を続けた。
「両親と神に復讐するのがエリオットの目的で寝返る理由だとして、ではそんなアイツにクリスの名前を出してまで要求する事とは何だろうか?」
「少なくとも王子と利害が一致しない、復讐とは関係の無い事になるのだと思うが……私には想像がつかないよ」
そこでまた全員が考え込む。
あの時エリオットさんは、自分の目的だけならまだ帰ってもいいような素振りだった。けれど相手の要求のせいで帰れない、とも言っていた。では、その要求は何かしら身柄を拘束されるようなものだと言う事に……
「っ、おおおおおお!!」
最近の私の名推理が光る!
閃いて思わず声を上げてしまった私に、周囲の視線が一斉注目した。私はこの閃きがどこかへ飛んでいってしまう前に急いで口に出す。
「あ、あれです! 相手の要求はモルガナの人質になれ、ってヤツですよきっと!」
「どうしてそう思う?」
「エリオットさん、何となくその要求ってのが体が自由にならないものっぽい言い方だったんです!」
ライトさんの問いに元気良く答える私。けれど彼は私の意見の矛盾点を即突いてきた。
「なるほど。で、ニザに居る連中とモルガナとの繋がりはどこから?」
「うっ」
そろそろライトさん達と顔を合わせるのも慣れてきたようなレイアさんが、彼の病院内のダイニングテーブルに手をついて切り出した。
私達はあれから二日かけて王都に帰還したのだが、戻ってきた事をガイアさんに聞くなり彼女はすっ飛んできて、何を言うかと思えばこの通り。
「昨日、ですか?」
こちらとしても早くニザで何があったのか報告をしたいのだが、そうはさせないほどの大事が昨日に起こったのだろうか。
一同勢ぞろいして足りなくなった椅子は別の部屋から引っ張って持ってくるくらい、人口密度が高くなっているダイニングルーム。
フォウさんとレフトさんはあまり会話に口を挟むつもりは無いのだろう。彼らは少しテーブルから離れたところまで椅子を引いていて、テーブルにきちんと向かっているのは私とライトさんとガイアさん。それに椅子を使わず立っているレイアさんだった。
「どこからどう説明したものか……うーむ」
「早く言え」
「分かっている! えぇと、モルガナの長から文書が届いたんだ」
ライトさんに急かされ、焦りつつも順を追って説明しようとしてくれている彼女。だがその表情はとても硬い。一体その文書に何が書かれていたと言うのか、皆黙って続きを待つ。
「簡単に言うと内容はこうだ。『王子の身の安全を保障してほしくば軍を放棄せよ』と」
「……え?」
それだと、エリオットさんはモルガナに居る事になってしまうではないか。いきなりこちらの情報と辻褄が合わな過ぎるので、私は思わず聞き返してしまった。
「と言う事はエリオットはモルガナに居たのか?」
勿論コレだけ聞くとそういう事になるわけで、ライトさんが私に事実確認をしてくる。
「いいいいいや、居ませんでしたよ。ニザの渓谷の大きな建物のあたりで会いました」
「そうッス。しかも結構自由きままに動けるみたいだったッス」
私の言葉に、補足してくれたガイアさん。そのやり取りを聞きながらレイアさんの顔色はますます強張っていっていた。
「いきなり状況が噛み合わないとは……では行方不明の情報を聞き付けた上でそれを利用してのハッタリなのだろうか?」
「そう決め付けるにはまだ早計だ。次に三人が持ち帰った情報を聞いてきちんと照らし合わせればいい」
焦る鳥人の片割れを止めながら、また私に向き直る白髪の獣人。
とりあえず私とガイアさんは、先日フォウさんに説明した内容とほぼ同じ事を彼らに伝えた。途中、レイアさんがまるで力尽きたように椅子に腰を掛けて項垂れた以外は特筆すべき事もなく話が進む。
「じゃあエリオットは半分くらいは向こうに寝返っているようなものか」
眼鏡の下の瞳を半眼にして呆れたように再確認をするライトさんに、私はこくこくと何度も頷いた。帰ってきて間も無いので黒い法衣のままの為、少し暑くて手で顔をぱたぱた仰ぎながら次の言葉を紡ぐ。
「はい、だからやっぱりすぐに何か彼に危険が~みたいな感じは無かったと思います」
「恐ろしく辻褄が合わないな」
全くです。何を相談しようにも情報が錯綜し過ぎていて話にならない。しかしここは頼りになりそうな眼鏡がキラリと光る、ライトさんがそれでも何とか糸口を見つけるべく話を続けた。
「両親と神に復讐するのがエリオットの目的で寝返る理由だとして、ではそんなアイツにクリスの名前を出してまで要求する事とは何だろうか?」
「少なくとも王子と利害が一致しない、復讐とは関係の無い事になるのだと思うが……私には想像がつかないよ」
そこでまた全員が考え込む。
あの時エリオットさんは、自分の目的だけならまだ帰ってもいいような素振りだった。けれど相手の要求のせいで帰れない、とも言っていた。では、その要求は何かしら身柄を拘束されるようなものだと言う事に……
「っ、おおおおおお!!」
最近の私の名推理が光る!
閃いて思わず声を上げてしまった私に、周囲の視線が一斉注目した。私はこの閃きがどこかへ飛んでいってしまう前に急いで口に出す。
「あ、あれです! 相手の要求はモルガナの人質になれ、ってヤツですよきっと!」
「どうしてそう思う?」
「エリオットさん、何となくその要求ってのが体が自由にならないものっぽい言い方だったんです!」
ライトさんの問いに元気良く答える私。けれど彼は私の意見の矛盾点を即突いてきた。
「なるほど。で、ニザに居る連中とモルガナとの繋がりはどこから?」
「うっ」
更新日:2011-07-11 14:24:12