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離別 ~相容れぬ二人~
モルガナ行きの列車に乗った私達は、昼過ぎにモルガナに着いてからは馬を借りてニザの山脈に向かっていた。何頭も馬を使うわけにもいかないので私はフォウさんの方に乗せて貰っている。フォウさんの方が仲がいいからとかそういうわけではなく、単純にガイアさんよりフォウさんの方が身長も体重も少なそうだったから馬の事を考えた結果での乗り合わせだ。
あとフォウさんはどうも戦闘は全然ダメらしい。相手の動きを多少読めるので出来なくはないそうなのだが、技術や体力的なもので相手に実力負けすればそれで終わりだと言っていた。確かに右ストレートでぶっとばされると分かっていてもスピードが速すぎて避けられなかったボクサーがどこかに居たような気がするので、そういう事だろう。ところで有名どころの作品とは言え、このネタ誰が分かるのだろうか。
「ねぇフォウさん、今どのあたりなんですか?」
監禁されていた場所の色が分かるのは彼だけなので、私達の馬を後ろからガイアさんが追って来ている状態である。
私は上を向いて問うと、彼は三つの目を私に向けて微笑んだ。
「ティルナノーグを過ぎないとニザフョッルには着かないから、まだまだだよー。今丁度モルガナとティルナノーグの中間くらいじゃないかなぁ」
ずっと一人旅をして来ているフォウさんはとても的確に場所を説明してくれる。地理や方向に詳しい男性は、素敵だと思います。
だんだん景色は低い草ばかりだった浅めの平原から、緑が深くなっていた。木々の間隔も狭まって来ており、これから森に入るのだろうなと何となく感じられ、少ししっとりとした空気がこの先雨が降るであろう事を告げている。
「王子様、どうしてあんな手紙を書いたんだろうね」
フォウさんの呟きに私はまた顔を上げた。
「あー、間違いなく直筆でしたものね」
「あれが複製でなければ……何となく分かったんだけどなぁ」
フォウさんの目には一体どんな風に世界が映っているのだろう、以前も思ったような気がするがやはりちょっとだけ見てみたい気がする。
木々が入り組んで来たので手綱をしっかり握り直し、彼は話を続けた。
「ダーナの姫様との婚約だなんてどう考えてもあんな理由で破棄したら不味過ぎる。脅されたとしても相当な理由が無ければ書けないよあんな事」
「そう、ですね……」
それほどあの婚約は大事なものだった、と言う事だ。分かっちゃいるけれどもやもやする。
弱くなってきた陽の光と怪しくなる雲行き。まるで私の心を映すような空はだんだん増えていく木々によって見えなくなってきた。
両手とも塞がっているフォウさんが私の頭に顎と喉元をふわりと置いて、撫でるように優しく動かす。
「ありがとう、ございます」
「んーん」
頭上から直接振動としても届いてきたフォウさんの声は、とても優しく響くヘルデンテノールだった。
幾度か馬を休ませ夜更けに着いたティルナノーグは聞いていた通りとても綺麗な湖に周囲をコの字型に囲まれるような形の村で、その湖は、あのダーナの時期巫女長の女の子の肌のように美しく透き通っている。
私達は馬を降りて手綱を引き、泊まれる場所を探そうとした。
「確か一件だけあったと思うんだけどな、宿屋」
「詳しいッスねー。俺流石にここは初めてッス」
フォウさんの言葉にその三白眼を見開いて感嘆の声をあげるガイアさん。見た事の無い植物がいっぱい生えているティルナノーグの村の道無き道を歩いていると宿屋の看板が見えて、その明かりに誘われるように私達は入って行く。……猫耳を気にしつつ。
手馴れた様子でフォウさんが部屋を取ってくれたが私は一人部屋だった。
「寂しいです……」
「三人ってのは無かったんだよ、我慢して」
ちなみに四人部屋はあったらしい。出先で一人部屋を与えられるだなんて無かったので何だか心細かったが、長い間馬に乗っていた事もあってそんな心配など無用なほどすぐに眠る事が出来た。
旅に出てまず一晩明けた朝。見かける人々の外見の年齢層の低さに驚きながら、朝食を済ませ数日分の軽い食料を買い蓄えた後にまた出発する。
時間に余裕など無い、お尻が痛いなぁと思いつつ頑張って耐えながら先を急いだ。万が一痔にでもなったらエリオットさんに責任を追及せねばなるまい。その為にも絶対助け出さなくては、と私は心に誓う。
あとフォウさんはどうも戦闘は全然ダメらしい。相手の動きを多少読めるので出来なくはないそうなのだが、技術や体力的なもので相手に実力負けすればそれで終わりだと言っていた。確かに右ストレートでぶっとばされると分かっていてもスピードが速すぎて避けられなかったボクサーがどこかに居たような気がするので、そういう事だろう。ところで有名どころの作品とは言え、このネタ誰が分かるのだろうか。
「ねぇフォウさん、今どのあたりなんですか?」
監禁されていた場所の色が分かるのは彼だけなので、私達の馬を後ろからガイアさんが追って来ている状態である。
私は上を向いて問うと、彼は三つの目を私に向けて微笑んだ。
「ティルナノーグを過ぎないとニザフョッルには着かないから、まだまだだよー。今丁度モルガナとティルナノーグの中間くらいじゃないかなぁ」
ずっと一人旅をして来ているフォウさんはとても的確に場所を説明してくれる。地理や方向に詳しい男性は、素敵だと思います。
だんだん景色は低い草ばかりだった浅めの平原から、緑が深くなっていた。木々の間隔も狭まって来ており、これから森に入るのだろうなと何となく感じられ、少ししっとりとした空気がこの先雨が降るであろう事を告げている。
「王子様、どうしてあんな手紙を書いたんだろうね」
フォウさんの呟きに私はまた顔を上げた。
「あー、間違いなく直筆でしたものね」
「あれが複製でなければ……何となく分かったんだけどなぁ」
フォウさんの目には一体どんな風に世界が映っているのだろう、以前も思ったような気がするがやはりちょっとだけ見てみたい気がする。
木々が入り組んで来たので手綱をしっかり握り直し、彼は話を続けた。
「ダーナの姫様との婚約だなんてどう考えてもあんな理由で破棄したら不味過ぎる。脅されたとしても相当な理由が無ければ書けないよあんな事」
「そう、ですね……」
それほどあの婚約は大事なものだった、と言う事だ。分かっちゃいるけれどもやもやする。
弱くなってきた陽の光と怪しくなる雲行き。まるで私の心を映すような空はだんだん増えていく木々によって見えなくなってきた。
両手とも塞がっているフォウさんが私の頭に顎と喉元をふわりと置いて、撫でるように優しく動かす。
「ありがとう、ございます」
「んーん」
頭上から直接振動としても届いてきたフォウさんの声は、とても優しく響くヘルデンテノールだった。
幾度か馬を休ませ夜更けに着いたティルナノーグは聞いていた通りとても綺麗な湖に周囲をコの字型に囲まれるような形の村で、その湖は、あのダーナの時期巫女長の女の子の肌のように美しく透き通っている。
私達は馬を降りて手綱を引き、泊まれる場所を探そうとした。
「確か一件だけあったと思うんだけどな、宿屋」
「詳しいッスねー。俺流石にここは初めてッス」
フォウさんの言葉にその三白眼を見開いて感嘆の声をあげるガイアさん。見た事の無い植物がいっぱい生えているティルナノーグの村の道無き道を歩いていると宿屋の看板が見えて、その明かりに誘われるように私達は入って行く。……猫耳を気にしつつ。
手馴れた様子でフォウさんが部屋を取ってくれたが私は一人部屋だった。
「寂しいです……」
「三人ってのは無かったんだよ、我慢して」
ちなみに四人部屋はあったらしい。出先で一人部屋を与えられるだなんて無かったので何だか心細かったが、長い間馬に乗っていた事もあってそんな心配など無用なほどすぐに眠る事が出来た。
旅に出てまず一晩明けた朝。見かける人々の外見の年齢層の低さに驚きながら、朝食を済ませ数日分の軽い食料を買い蓄えた後にまた出発する。
時間に余裕など無い、お尻が痛いなぁと思いつつ頑張って耐えながら先を急いだ。万が一痔にでもなったらエリオットさんに責任を追及せねばなるまい。その為にも絶対助け出さなくては、と私は心に誓う。
更新日:2011-07-10 14:36:50