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奪還せよ ~囚われの王子様~
突然入ってくるなり、何かとんでもない事を聞いた気がする。
「も、もう一回言って頂けますか?」
「……駆け落ちしたんだ、王子が」
再度しっかり耳に入れる事で、ようやく思考が追いついてきた。こっちはセオリーの出現に頭を悩ませていたところだと言うのに、あの馬鹿王子は駆け落ちをしたと言うのか。
「な、何で今……ていうか駆け落ちするくらいなら最初から婚約に踏み切らなければいいのに……」
頭が痛い。色々考えすぎて知恵熱が出そうなほど熱い額を、私は手の甲で拭う。そこで、周囲の視線が全て私に向いている事に気がつき、私は驚いて肩をびくつかせた。
「な、何ですか?」
「……有り得なくない?」
最初に言葉を発したのはフォウさん。彼はそう言いながら視線を私からレイアさんへと移行させる。
「そう、有り得ないんだよ……」
泣きそうな顔で彼女はそれを肯定した。
今日は私服らしく、その赤いキルトウェアの間から彼女は一枚の紙切れを取り出して中央のテーブルの上に広げて言う。
「これは王子の手紙の複製だ。ダーナの姫が来訪した翌朝に発見されて、間違いなく彼の筆跡で書かれている」
「えーと」
私達は各々でそれを読んでいく。
内容を簡単に言うと、やっぱり結婚嫌だから駆け落ちしますハッハー☆って内容だった。やや乱暴に殴り書きされているが、紛れも無くエリオットさんの字。
フォウさんもレイアさんも有り得ないと言っているが、あの人の事だから有り得ると言えば有り得る気もするのだが……
「で、相手は誰なんです?」
そう、この手紙にはその相手は書かれていない。
私が聞くとやっぱり皆の視線は私一点に集中してくるので、落ち着かない私はきょろきょろと皆を見渡した。
「え、聞いちゃまずかったですか?」
レイアさんは半ば投げやりな様子で、口端をげんなりと下げながら答える。
「いや、いいよ。目撃情報からは私の部下……クラッサがその相手だろう、と上は勝手に決め付けているんだ」
「!!」
私達はお互いの顔を見合わせて、ここでその名前が出てきた事に焦りを隠せなかった。
確かに仲が良さそうだったけれど、まさか彼女と駆け落ちまでしてしまうだなんて。そこまで彼はあの女性にのめりこんでいたのか……いや、そうなるように彼女が何かしらの考えがあって誘惑しまくっていたのかも知れない。
「全く女性の色香に惑わされすぎですよあの人は……」
本当は凄く心配だけれど、それを誤魔化すように悪態を吐く。しかしまたしても皆は私をじーっと見つめて呆れた顔をしている。
「何なんですかさっきから!?」
凄く視線が痛い! 私はその視線から身を守るように自分の体を両手で抱き締めてぷるぷる震えた。
もはや彼らは私に何も言わず、何かもう私をスルーして会話を再開し始める。
「クラッサって人と駆け落ちだなんてやっぱり有り得ないよ。何でそう上が決め付けちゃってるの?」
フォウさんの問いに、苦虫を噛み潰したような表情でレイアさんが首を振ってその理由を話した。
「前日の晩、王子が食堂でクラッサを呼びつけていたんだ。そして彼女は王子同様にその時から行方をくらましている」
「なるほど。普通に考えたらそのお前の部下が駆け落ち相手にしか聞こえないな。普通に考えたら、だが」
ライトさんがそう言って、皆大きく頷く。頷かないのは私一人だけ。
「そうなんだ。王子の事をそれなりに知っている私達ならば、例えそれなりに仲が良かろうが前の晩に会っていようが、彼女と駆け落ちするだなんて有り得ないと分かるんだ」
な、何でだ。あの人すっごくそういう事しそうじゃないか。なのに彼らはそうは思っていないようだった。
何で私は彼らと同じように有り得ないと思えないのだろう。やはりライトさんが先日言っていたように、私は全然エリオットさんの事を察する事が出来ていないのか……
ライトさんは彼女の言葉を受けて、
「つい今しがた、ずっと行方知れずだったそこの三つ目が『クラッサに監禁されていた』と言って戻ってきたところなんだ。まぁ間違いなく駆け落ちでは無いだろう」
と、彼女にこちらの情報を的確に伝えるべきところだけサッと伝える。
レイアさんはそれを聞いて、信じたくない、と頭を抱え苦痛に歪んだ表情で小さく小さく呟いた。
「も、もう一回言って頂けますか?」
「……駆け落ちしたんだ、王子が」
再度しっかり耳に入れる事で、ようやく思考が追いついてきた。こっちはセオリーの出現に頭を悩ませていたところだと言うのに、あの馬鹿王子は駆け落ちをしたと言うのか。
「な、何で今……ていうか駆け落ちするくらいなら最初から婚約に踏み切らなければいいのに……」
頭が痛い。色々考えすぎて知恵熱が出そうなほど熱い額を、私は手の甲で拭う。そこで、周囲の視線が全て私に向いている事に気がつき、私は驚いて肩をびくつかせた。
「な、何ですか?」
「……有り得なくない?」
最初に言葉を発したのはフォウさん。彼はそう言いながら視線を私からレイアさんへと移行させる。
「そう、有り得ないんだよ……」
泣きそうな顔で彼女はそれを肯定した。
今日は私服らしく、その赤いキルトウェアの間から彼女は一枚の紙切れを取り出して中央のテーブルの上に広げて言う。
「これは王子の手紙の複製だ。ダーナの姫が来訪した翌朝に発見されて、間違いなく彼の筆跡で書かれている」
「えーと」
私達は各々でそれを読んでいく。
内容を簡単に言うと、やっぱり結婚嫌だから駆け落ちしますハッハー☆って内容だった。やや乱暴に殴り書きされているが、紛れも無くエリオットさんの字。
フォウさんもレイアさんも有り得ないと言っているが、あの人の事だから有り得ると言えば有り得る気もするのだが……
「で、相手は誰なんです?」
そう、この手紙にはその相手は書かれていない。
私が聞くとやっぱり皆の視線は私一点に集中してくるので、落ち着かない私はきょろきょろと皆を見渡した。
「え、聞いちゃまずかったですか?」
レイアさんは半ば投げやりな様子で、口端をげんなりと下げながら答える。
「いや、いいよ。目撃情報からは私の部下……クラッサがその相手だろう、と上は勝手に決め付けているんだ」
「!!」
私達はお互いの顔を見合わせて、ここでその名前が出てきた事に焦りを隠せなかった。
確かに仲が良さそうだったけれど、まさか彼女と駆け落ちまでしてしまうだなんて。そこまで彼はあの女性にのめりこんでいたのか……いや、そうなるように彼女が何かしらの考えがあって誘惑しまくっていたのかも知れない。
「全く女性の色香に惑わされすぎですよあの人は……」
本当は凄く心配だけれど、それを誤魔化すように悪態を吐く。しかしまたしても皆は私をじーっと見つめて呆れた顔をしている。
「何なんですかさっきから!?」
凄く視線が痛い! 私はその視線から身を守るように自分の体を両手で抱き締めてぷるぷる震えた。
もはや彼らは私に何も言わず、何かもう私をスルーして会話を再開し始める。
「クラッサって人と駆け落ちだなんてやっぱり有り得ないよ。何でそう上が決め付けちゃってるの?」
フォウさんの問いに、苦虫を噛み潰したような表情でレイアさんが首を振ってその理由を話した。
「前日の晩、王子が食堂でクラッサを呼びつけていたんだ。そして彼女は王子同様にその時から行方をくらましている」
「なるほど。普通に考えたらそのお前の部下が駆け落ち相手にしか聞こえないな。普通に考えたら、だが」
ライトさんがそう言って、皆大きく頷く。頷かないのは私一人だけ。
「そうなんだ。王子の事をそれなりに知っている私達ならば、例えそれなりに仲が良かろうが前の晩に会っていようが、彼女と駆け落ちするだなんて有り得ないと分かるんだ」
な、何でだ。あの人すっごくそういう事しそうじゃないか。なのに彼らはそうは思っていないようだった。
何で私は彼らと同じように有り得ないと思えないのだろう。やはりライトさんが先日言っていたように、私は全然エリオットさんの事を察する事が出来ていないのか……
ライトさんは彼女の言葉を受けて、
「つい今しがた、ずっと行方知れずだったそこの三つ目が『クラッサに監禁されていた』と言って戻ってきたところなんだ。まぁ間違いなく駆け落ちでは無いだろう」
と、彼女にこちらの情報を的確に伝えるべきところだけサッと伝える。
レイアさんはそれを聞いて、信じたくない、と頭を抱え苦痛に歪んだ表情で小さく小さく呟いた。
更新日:2012-11-05 17:33:08