- 202 / 565 ページ
恋と愛 ~それは常に不意打ちの形で~
次の日の朝。
洗濯物を干していると朝だと言うのにいつも以上に通りが賑わっているのが分かった。王都の最南西に位置するこの病院にまで中央の通りの騒がしい様子が伝わってくる。
「何なんでしょう?」
大きなシーツまで干し終わったところで、私は気になって院内に入ってライトさんとレフトさんに聞いてみた。
「何か外、騒がしくないですか?」
「あぁ、これだろう」
そう言ってライトさんが新聞を手渡してくる。一面のトップ記事は……エリオットさんの婚約の事だった。
ぷるぷると手が震えてくるのが分かる。お見合いするとは聞いていたけど、決定したなんてまだ聞いていない。ぐいっとのめりこむように新聞に目を通していくと、どうもこう言う事らしい。
「政略結婚……?」
お見合いはこれからするけれどほぼそのまま婚約は確実だろう、と書いてある。相手はモルガナに次ぐ東の勢力であるダーナの民の次期巫女長で、東との関係緩和が狙いか、と記者の予想がつらつらと綴られていた。
「どうせ好きでもない相手と結婚するなら、と考えたのかも知れん」
「ふぇあおぉあぁぁ……」
何かもう、何を言ったらいいのかよく分からない。
「これからその相手がこちらに着くらしい。それで一目見ようと皆が通りで待っているのだろうな」
「み、みみみ」
「見たいんだな」
コクコクと頷いてライトさんに意志表示。
み、巫女長ですと。そんな人が結婚していいのだろうか? と思ったが、一応私の属する宗教のルールでも司祭になる前に結婚するならば可能だったので、ダーナの巫女もその様な感じなのかも知れない。巫女長に就く前に婚約と結婚を済ませておく、と言う事か。
ライトさんは一服終えてからさっと椅子を立ち、
「さっさと着替えて行くか」
と、言って自室に歩いて行った。レフトさんもそれに続き、私も急いで部屋に走った。
城に続く大通りは朝だと言うのに既に凄い人混み。強い日差しを遮るようにブリムの広い、黒のソフト帽を被っているライトさんの顔を下から見上げつつ待機する。
「馬車の中から顔を出してくれたりするんですかねぇ」
顔が見えないと、来ている意味が無い。
私の疑問にライトさんがこちらを少しだけ見て答えた。
「トゥエルとエリザも政略結婚だったが、その時も相手は敢えて顔を出してここを通っていたからな。多分今回もそうだろう」
「敢えて、ですか……」
「国民アピールだな」
ちなみにトゥエルさんと言うのはエリオットさんの下のお兄さんの名前である。何でもツィバルドの富豪のところにさっさと婿に行ったらしいが、富豪側がごねて色々大変らしい……とエリオットさんに愚痴を聞かされた事がある。
エリザさんは西側の人とだった気がするが街名を覚えていないので忘れた。トゥエルさんの行き先を覚えていたのは、行った事がある街だったからに過ぎない。
「上の二人より注目されるのは、アイツが一番注目を浴びている王子だからと言うのもあるだろうが……相手が東の民だから、と言うのも大きいだろうな」
「そうですよね……」
自分が先日彼に言った事を思い出す。東が反乱しないように、とは言ったがまさかここまで彼が考えていたとは思っていなかったし、そもそもそんな素振り一切私に見せなかったのに。
「ダーナの民だなんて素敵なところを選びますわね~」
「確かに」
こちらも日よけに白いショールを被っているレフトさんがほわほわと言った。
「ダーナの民って、どういう種族なんですか?」
「エルフに近いですわ~。寿命はエルフのように長くありませんが、不老の民と呼ばれるほど美しいまま生きて死すと言いますの。ダーナの民の住むティルナノーグの水は綺麗で美味しいんですのよ~。不老の秘訣は水とも言われてますわ~」
「ほえええええ」
ずっと若いままとか、やっぱり政略結婚じゃなくて趣味なんじゃないだろうか。
私も帽子を持ってこれば良かったかも知れない。暑い時期では無いがこれだけ晴天だと日差しを浴びて頭がじりじりする。
朝から待っていたと言うのにお見合い相手さんの到着は結局昼前だった。
洗濯物を干していると朝だと言うのにいつも以上に通りが賑わっているのが分かった。王都の最南西に位置するこの病院にまで中央の通りの騒がしい様子が伝わってくる。
「何なんでしょう?」
大きなシーツまで干し終わったところで、私は気になって院内に入ってライトさんとレフトさんに聞いてみた。
「何か外、騒がしくないですか?」
「あぁ、これだろう」
そう言ってライトさんが新聞を手渡してくる。一面のトップ記事は……エリオットさんの婚約の事だった。
ぷるぷると手が震えてくるのが分かる。お見合いするとは聞いていたけど、決定したなんてまだ聞いていない。ぐいっとのめりこむように新聞に目を通していくと、どうもこう言う事らしい。
「政略結婚……?」
お見合いはこれからするけれどほぼそのまま婚約は確実だろう、と書いてある。相手はモルガナに次ぐ東の勢力であるダーナの民の次期巫女長で、東との関係緩和が狙いか、と記者の予想がつらつらと綴られていた。
「どうせ好きでもない相手と結婚するなら、と考えたのかも知れん」
「ふぇあおぉあぁぁ……」
何かもう、何を言ったらいいのかよく分からない。
「これからその相手がこちらに着くらしい。それで一目見ようと皆が通りで待っているのだろうな」
「み、みみみ」
「見たいんだな」
コクコクと頷いてライトさんに意志表示。
み、巫女長ですと。そんな人が結婚していいのだろうか? と思ったが、一応私の属する宗教のルールでも司祭になる前に結婚するならば可能だったので、ダーナの巫女もその様な感じなのかも知れない。巫女長に就く前に婚約と結婚を済ませておく、と言う事か。
ライトさんは一服終えてからさっと椅子を立ち、
「さっさと着替えて行くか」
と、言って自室に歩いて行った。レフトさんもそれに続き、私も急いで部屋に走った。
城に続く大通りは朝だと言うのに既に凄い人混み。強い日差しを遮るようにブリムの広い、黒のソフト帽を被っているライトさんの顔を下から見上げつつ待機する。
「馬車の中から顔を出してくれたりするんですかねぇ」
顔が見えないと、来ている意味が無い。
私の疑問にライトさんがこちらを少しだけ見て答えた。
「トゥエルとエリザも政略結婚だったが、その時も相手は敢えて顔を出してここを通っていたからな。多分今回もそうだろう」
「敢えて、ですか……」
「国民アピールだな」
ちなみにトゥエルさんと言うのはエリオットさんの下のお兄さんの名前である。何でもツィバルドの富豪のところにさっさと婿に行ったらしいが、富豪側がごねて色々大変らしい……とエリオットさんに愚痴を聞かされた事がある。
エリザさんは西側の人とだった気がするが街名を覚えていないので忘れた。トゥエルさんの行き先を覚えていたのは、行った事がある街だったからに過ぎない。
「上の二人より注目されるのは、アイツが一番注目を浴びている王子だからと言うのもあるだろうが……相手が東の民だから、と言うのも大きいだろうな」
「そうですよね……」
自分が先日彼に言った事を思い出す。東が反乱しないように、とは言ったがまさかここまで彼が考えていたとは思っていなかったし、そもそもそんな素振り一切私に見せなかったのに。
「ダーナの民だなんて素敵なところを選びますわね~」
「確かに」
こちらも日よけに白いショールを被っているレフトさんがほわほわと言った。
「ダーナの民って、どういう種族なんですか?」
「エルフに近いですわ~。寿命はエルフのように長くありませんが、不老の民と呼ばれるほど美しいまま生きて死すと言いますの。ダーナの民の住むティルナノーグの水は綺麗で美味しいんですのよ~。不老の秘訣は水とも言われてますわ~」
「ほえええええ」
ずっと若いままとか、やっぱり政略結婚じゃなくて趣味なんじゃないだろうか。
私も帽子を持ってこれば良かったかも知れない。暑い時期では無いがこれだけ晴天だと日差しを浴びて頭がじりじりする。
朝から待っていたと言うのにお見合い相手さんの到着は結局昼前だった。
更新日:2012-10-28 23:25:47