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誰か成功するナンパの秘訣を教えてくれ。
「結婚するなら君しか居ない」
王都より西、山峡の街スーベラの酒場に着くなり俺はまず彼女に声を掛けた。
「え?」
可愛らしいその唇で問い返す彼女の栗色の短い髪が、店の明かりを受けて輝いている。ふわりと揺れるエプロンの上ですらりとした細くて白い指がかすかに震え、不審者か、と怖がられている気がしないでもない。
で、も!
「俺と結婚してください」
めげずに真剣な表情で言ってやる。ちなみに俺は彼女の名前すら知らないし、彼女も俺の名前など知らない。出会って三秒、電撃プロポーズ。三枚目の俺にはまずインパクトが大事だからな!
呆気に取られている彼女の手を取り、自分で出来る限りの凛々しい眼差しを作ってその瞳を見つめた。
……しかし彼女のその表情はとにかくどん引き。どうやら今日も俺の作戦は失敗したらしい、マジで誰か秘訣を教えてくれよ。
「まぁとりあえずオススメのアルコールを適当にお願い」
彼女がヒいてしまったのでとりあえず普通に注文する。お姉さんは一瞬ぽかんとしていたがすぐに調理場の方へ小走りで向かい、何やらカウンターに居るマスターにオススメを聞いているようだった。
俺は席を立って同じようにカウンター側に向かう。
いや、別にお姉さんのお尻を追いかけているわけじゃない。俺は人探しをしているからそれについてマスターに尋ねたいだけ。
ポケットから紙切れを取り出し、マスターに聞いてみた。
「なぁ、この女知らないか?」
「……うーん、名前は知ってるけどね、ここらでは聞いてないよ」
「そっか、あんがと」
残念な返答に肩を落としつつ、俺はすごすごと元居た席に戻り紙切れを見つめる。
それは写真ではなくただの手配書と似顔絵で、そこに描かれているのは流れる空の様な透き通る髪と水晶のような水色の瞳を持つ女性。白い肌に鮮やかな口紅が目立つこの似顔絵はよく出来ている。本物そっくりだ、あぁ今すぐにでも抱きしめたい。
『怪盗ローズ』
それがその手配書の絵の彼女の呼び名だ。フルネームは表沙汰には出ていないがローズ・セリオルと言う。現れ方はまさに怪盗、一国の城にまで忍び込んで盗みを働くその腕から懸賞額も並ではない。
俺の相方だ。
色々あってひとめ惚れして追いかけて、どうにか相方という鞘に納まる事が出来たのだが今は離れ離れ。それで俺は毎晩枕を濡らす生活をしながら探し歩いてるってわけ。
しばらくその手配書を眺めているとさっきの店員のお姉さんが机の上にグラスとボトルを置いた。どうやらオススメは地ワインらしい。
「こちら、当店オススメの……」
「あぁ、そんなのいいからいいから」
ワインの説明をしようとする可愛いお姉さんの話を断ち切って、俺は自分の隣の椅子をポンポンと叩く。
「さ、座って」
「え!? いえ、お客様、そういうわけには……」
手をぶんぶん振って拒否をする彼女。しかし問答無用でその手首を取って引き寄せてやった。
勿論困る店員さん。
「お客様、本っ当にそういうわけには……」
接客慣れしているのだろう、俺の無茶振りにも口調は丁寧であるが流石に目は笑っていない。怒った顔も可愛いじゃないか、ちょっと強気な方が刺激的なんだ。
「挙式はどこでする? 大きな教会もいいけどこの街みたいな小さなところでひっそりやるのもいいねぇ」
更に何段階もすっ飛ばして語りかけると彼女の開いた口が塞がらなくなる。色々突っ込んでやりたくなる可愛い口だ、なんて自主規制せざるを得ない事を考える俺。
しかし、そんなとっても貴重な時間が一瞬にして壊された。
楽しい会話をしている最中によくわからんガキが彼女の肩を叩いて後ろに下がらせ、かわりにソイツが俺の前に進み出てきた。
一丁前に『困っている女性を助けた』つもりにでもなっているのか? 冷めた表情で少年は俺を黙ってじっと見据える。
「…………」
うざい、うざすぎる。
容姿端麗、と言う言葉が似合いそうな少年は、見たところ宗教かぶれな白い法衣を着ていて、ムカつく事にそれがまたお姉さんのハートを鷲掴みするような、そんな印象を受けた。
モデル顔負けの大きな水縹の瞳に、男にしては少し長めの丸みを帯びたショートカットで、耳元や襟元の髪は無造作にハネている。その細くて綺麗な水色の髪が何となくローズを思い出させるが、水色の髪なんて珍しいわけじゃない。
「お話中のところを割り込んで申し訳ありません、この人の情報を知りませんか?」
少年は、まだ声がわりもしていない声で聞いてきた。
……手には、俺の持っている物と同じ手配書を持って。
「結婚するなら君しか居ない」
王都より西、山峡の街スーベラの酒場に着くなり俺はまず彼女に声を掛けた。
「え?」
可愛らしいその唇で問い返す彼女の栗色の短い髪が、店の明かりを受けて輝いている。ふわりと揺れるエプロンの上ですらりとした細くて白い指がかすかに震え、不審者か、と怖がられている気がしないでもない。
で、も!
「俺と結婚してください」
めげずに真剣な表情で言ってやる。ちなみに俺は彼女の名前すら知らないし、彼女も俺の名前など知らない。出会って三秒、電撃プロポーズ。三枚目の俺にはまずインパクトが大事だからな!
呆気に取られている彼女の手を取り、自分で出来る限りの凛々しい眼差しを作ってその瞳を見つめた。
……しかし彼女のその表情はとにかくどん引き。どうやら今日も俺の作戦は失敗したらしい、マジで誰か秘訣を教えてくれよ。
「まぁとりあえずオススメのアルコールを適当にお願い」
彼女がヒいてしまったのでとりあえず普通に注文する。お姉さんは一瞬ぽかんとしていたがすぐに調理場の方へ小走りで向かい、何やらカウンターに居るマスターにオススメを聞いているようだった。
俺は席を立って同じようにカウンター側に向かう。
いや、別にお姉さんのお尻を追いかけているわけじゃない。俺は人探しをしているからそれについてマスターに尋ねたいだけ。
ポケットから紙切れを取り出し、マスターに聞いてみた。
「なぁ、この女知らないか?」
「……うーん、名前は知ってるけどね、ここらでは聞いてないよ」
「そっか、あんがと」
残念な返答に肩を落としつつ、俺はすごすごと元居た席に戻り紙切れを見つめる。
それは写真ではなくただの手配書と似顔絵で、そこに描かれているのは流れる空の様な透き通る髪と水晶のような水色の瞳を持つ女性。白い肌に鮮やかな口紅が目立つこの似顔絵はよく出来ている。本物そっくりだ、あぁ今すぐにでも抱きしめたい。
『怪盗ローズ』
それがその手配書の絵の彼女の呼び名だ。フルネームは表沙汰には出ていないがローズ・セリオルと言う。現れ方はまさに怪盗、一国の城にまで忍び込んで盗みを働くその腕から懸賞額も並ではない。
俺の相方だ。
色々あってひとめ惚れして追いかけて、どうにか相方という鞘に納まる事が出来たのだが今は離れ離れ。それで俺は毎晩枕を濡らす生活をしながら探し歩いてるってわけ。
しばらくその手配書を眺めているとさっきの店員のお姉さんが机の上にグラスとボトルを置いた。どうやらオススメは地ワインらしい。
「こちら、当店オススメの……」
「あぁ、そんなのいいからいいから」
ワインの説明をしようとする可愛いお姉さんの話を断ち切って、俺は自分の隣の椅子をポンポンと叩く。
「さ、座って」
「え!? いえ、お客様、そういうわけには……」
手をぶんぶん振って拒否をする彼女。しかし問答無用でその手首を取って引き寄せてやった。
勿論困る店員さん。
「お客様、本っ当にそういうわけには……」
接客慣れしているのだろう、俺の無茶振りにも口調は丁寧であるが流石に目は笑っていない。怒った顔も可愛いじゃないか、ちょっと強気な方が刺激的なんだ。
「挙式はどこでする? 大きな教会もいいけどこの街みたいな小さなところでひっそりやるのもいいねぇ」
更に何段階もすっ飛ばして語りかけると彼女の開いた口が塞がらなくなる。色々突っ込んでやりたくなる可愛い口だ、なんて自主規制せざるを得ない事を考える俺。
しかし、そんなとっても貴重な時間が一瞬にして壊された。
楽しい会話をしている最中によくわからんガキが彼女の肩を叩いて後ろに下がらせ、かわりにソイツが俺の前に進み出てきた。
一丁前に『困っている女性を助けた』つもりにでもなっているのか? 冷めた表情で少年は俺を黙ってじっと見据える。
「…………」
うざい、うざすぎる。
容姿端麗、と言う言葉が似合いそうな少年は、見たところ宗教かぶれな白い法衣を着ていて、ムカつく事にそれがまたお姉さんのハートを鷲掴みするような、そんな印象を受けた。
モデル顔負けの大きな水縹の瞳に、男にしては少し長めの丸みを帯びたショートカットで、耳元や襟元の髪は無造作にハネている。その細くて綺麗な水色の髪が何となくローズを思い出させるが、水色の髪なんて珍しいわけじゃない。
「お話中のところを割り込んで申し訳ありません、この人の情報を知りませんか?」
少年は、まだ声がわりもしていない声で聞いてきた。
……手には、俺の持っている物と同じ手配書を持って。
更新日:2011-07-30 20:09:34