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炎の剣 ~害為す魔の枝~
リャーマでの滞在はエリオットさんの言った通り短かった。そこまで大きくない街の割には遺物が結構残っていたらしく、彼は嬉しそうな顔でそれらを見ながら帰路に着く。
また、先日の夜に言ってくれた通り、エリオットさんはリズさんにあれ以上何もせずにいてくれたものの、私の心には疑問が残っていた……
彼女の記憶が必要無い、と言う事はあの別のビフレストが多分彼の、彼女への用を済ませてくれたのだと思うが、凄く知りたいそこの内容をだんまりキメ込まれていてはこちらもかなりもどかしいのである。
王都へ戻って確認したところ、フォウさんはやはりあれ以来病院に姿を見せていないようで、ライトさんも心配していた。ここで私は彼の事をエリオットさんに話す事に決める。
自室で報告書類をまとめているエリオットさんのところへ行き、思いっきり職務の邪魔だとは思いつつも切り出した。
「フォウさんが忽然と姿を消しちゃったんです」
「……ほー、いつからだ?」
話半分な感じではあるが、一応会話をしてくれるエリオットさん。その視線は机の上の文字だらけの書類。
「私が声が出なくなった日の、次の日の朝にはもう居ませんでした」
「……リャーマ行きが決まった日の次の日……二週間前のサーオィンか」
「そうですね、アルバンエイレルに出発しましたから多分」
あまり曜日の感覚は無いが大抵出発する曜日はアルバンエイレルだから、逆算すると多分そうだろう。もう二週間も彼の姿が見えないのか。そう考えるとやはり何かがあったのでは、と怖くなってくる。
「サーオィン……」
書類に目を向けたまま、顎に手をあてて何かを思い出そうと細まる翡翠の瞳。
「何か報告があった気がするな」
「え!?」
「誰かが俺の名前を使って城に用を足しに来ていた気がする。多分フォウだったような……後で調べておいてやるよ」
些細ではあるがフォウさんの手がかりが見つかったので、少しほっとする。これ以上は彼の職務の邪魔をしてはいけない、と私は軽く挨拶だけして城を後にした。
ライトさんの病院に戻っていつも通りゲームに負け、明日の洗濯物も自分かと落ち込んでいるところに、もはや院内を自由に動き回っている白いねずみのニールが私の元に寄ってきて人型に変化をする。
「その剣は?」
リャーマ行きの際に私の手に戻ってきた赤い剣。元武器の精霊である彼にとってはやはり気になるのだろうか。私は腰に携えていたその剣を、仮の鞘から抜いて彼に見せてやる。
「この剣が突然現れて、竜を倒してくれたんですよ」
「これに私達が宿る為の紋様は無いが、よく似た形状の武器を私は知っている」
捻れたグリップが特徴的な、赤い両刃の長剣。
「って事は、精霊武器に似ているって事ですか?」
「そうだ……突然、と言うがどうやって現れたのだろうか?」
「今まで使っていた剣が竜の口の中で折れたんですよ。その時にパーッと光って、その剣の代わりにこれが現れましたね」
「……竜の血肉とその場にあった剣で擬似的に己の体を創り出した、か?」
難しそうな顔をして、小難しい事を言うニール。だがその容姿は可愛いねずみの獣人の少年なので、そんな顔をしていても可愛い。
「よくやるものだ……」
そう言って彼は感嘆の溜め息を吐く。
つまりこの剣は精霊武器に似せて創られた物なのだろうか。誰がどうやってあの場で、と考えて私はハッとし、自分の体を見下ろした。
「まさか、私の中にいると言う精霊の仕業です、か?」
私の予想に、ニールが黙って頷く。
「ダインとは違う意味で特別な精霊武器だ。あいつがもしダインのような性格ならば、きっと私達は勝利している」
何に勝利しているんだろう、とよく理解出来ず首を傾げる私。今は私と繋がっていないニールは私の心を読んでくれないのでそこでその話は終わってしまう。
精霊は宿っていないが精霊武器に近い剣。これならばセオリーに対抗出来るだろうか?
私は赤い剣を窓の外から差し込む光にかざしてその刃を見つめた。
血のように赤く鈍く、炎のように紅く輝く、太陽の光に照らされたその剣はただ静かにその存在を主張している。
「精霊、か……」
私が女神の末裔であるように、同じように女神に創られた……この世界の異質なるもの。
エリオットさんみたいにそんなもの信じない、と一言で片付けられたらどんなに気が楽だろうか。しかしこの精霊達の存在がそれらを打ち消してくれなどしない。
考えるのをやめて、私は剣を鞘に収めた。
また、先日の夜に言ってくれた通り、エリオットさんはリズさんにあれ以上何もせずにいてくれたものの、私の心には疑問が残っていた……
彼女の記憶が必要無い、と言う事はあの別のビフレストが多分彼の、彼女への用を済ませてくれたのだと思うが、凄く知りたいそこの内容をだんまりキメ込まれていてはこちらもかなりもどかしいのである。
王都へ戻って確認したところ、フォウさんはやはりあれ以来病院に姿を見せていないようで、ライトさんも心配していた。ここで私は彼の事をエリオットさんに話す事に決める。
自室で報告書類をまとめているエリオットさんのところへ行き、思いっきり職務の邪魔だとは思いつつも切り出した。
「フォウさんが忽然と姿を消しちゃったんです」
「……ほー、いつからだ?」
話半分な感じではあるが、一応会話をしてくれるエリオットさん。その視線は机の上の文字だらけの書類。
「私が声が出なくなった日の、次の日の朝にはもう居ませんでした」
「……リャーマ行きが決まった日の次の日……二週間前のサーオィンか」
「そうですね、アルバンエイレルに出発しましたから多分」
あまり曜日の感覚は無いが大抵出発する曜日はアルバンエイレルだから、逆算すると多分そうだろう。もう二週間も彼の姿が見えないのか。そう考えるとやはり何かがあったのでは、と怖くなってくる。
「サーオィン……」
書類に目を向けたまま、顎に手をあてて何かを思い出そうと細まる翡翠の瞳。
「何か報告があった気がするな」
「え!?」
「誰かが俺の名前を使って城に用を足しに来ていた気がする。多分フォウだったような……後で調べておいてやるよ」
些細ではあるがフォウさんの手がかりが見つかったので、少しほっとする。これ以上は彼の職務の邪魔をしてはいけない、と私は軽く挨拶だけして城を後にした。
ライトさんの病院に戻っていつも通りゲームに負け、明日の洗濯物も自分かと落ち込んでいるところに、もはや院内を自由に動き回っている白いねずみのニールが私の元に寄ってきて人型に変化をする。
「その剣は?」
リャーマ行きの際に私の手に戻ってきた赤い剣。元武器の精霊である彼にとってはやはり気になるのだろうか。私は腰に携えていたその剣を、仮の鞘から抜いて彼に見せてやる。
「この剣が突然現れて、竜を倒してくれたんですよ」
「これに私達が宿る為の紋様は無いが、よく似た形状の武器を私は知っている」
捻れたグリップが特徴的な、赤い両刃の長剣。
「って事は、精霊武器に似ているって事ですか?」
「そうだ……突然、と言うがどうやって現れたのだろうか?」
「今まで使っていた剣が竜の口の中で折れたんですよ。その時にパーッと光って、その剣の代わりにこれが現れましたね」
「……竜の血肉とその場にあった剣で擬似的に己の体を創り出した、か?」
難しそうな顔をして、小難しい事を言うニール。だがその容姿は可愛いねずみの獣人の少年なので、そんな顔をしていても可愛い。
「よくやるものだ……」
そう言って彼は感嘆の溜め息を吐く。
つまりこの剣は精霊武器に似せて創られた物なのだろうか。誰がどうやってあの場で、と考えて私はハッとし、自分の体を見下ろした。
「まさか、私の中にいると言う精霊の仕業です、か?」
私の予想に、ニールが黙って頷く。
「ダインとは違う意味で特別な精霊武器だ。あいつがもしダインのような性格ならば、きっと私達は勝利している」
何に勝利しているんだろう、とよく理解出来ず首を傾げる私。今は私と繋がっていないニールは私の心を読んでくれないのでそこでその話は終わってしまう。
精霊は宿っていないが精霊武器に近い剣。これならばセオリーに対抗出来るだろうか?
私は赤い剣を窓の外から差し込む光にかざしてその刃を見つめた。
血のように赤く鈍く、炎のように紅く輝く、太陽の光に照らされたその剣はただ静かにその存在を主張している。
「精霊、か……」
私が女神の末裔であるように、同じように女神に創られた……この世界の異質なるもの。
エリオットさんみたいにそんなもの信じない、と一言で片付けられたらどんなに気が楽だろうか。しかしこの精霊達の存在がそれらを打ち消してくれなどしない。
考えるのをやめて、私は剣を鞘に収めた。
更新日:2012-10-21 22:15:21