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絵本 ~始まりの始まり~
「さ、流石に体中が痛いな……」
「私も腕がパンパンです……」
フィルに戻ってきてへろへろしながら街中を歩く私達。長時間の変身で腕以外にも疲労が激しい上に、折角の旅がまた振り出しに戻ってしまった。いや、収穫は無い事も無いか。
人ゴミを掻き分け進む先は、
勿論図書館。
「おいルフィーナ、どういう事だ」
「あらおかえり」
飄々とした顔のハイエルフに、怒りを露にした王子。エリオットさんはダンッと机を叩きつけて詰め寄った。
「俺達の情報を流したの、お前だろ」
「何のことかしらね?」
フフッと笑うルフィーナさん。
「隠す気もねぇってか」
怒ってはいるものの、怒っても仕方ないと判断したようだ。エリオットさんはそれ以上問いただすわけでもなくきしむ椅子に腰掛けた。長年の付き合いだからこそ、か。見極め、諦めるのも早いのだろう。
私は戸惑いつつもエリオットさんの隣に座り、二人の様子を伺う。するとルフィーナさんのほうから切り出した。
「私は知っているだけよ。そしてどちらの味方でも無いだけなの」
「なに?」
「エリ君の結果次第じゃ味方になってあげても良かったんだけどね。ダメだったみたいだから残念でした」
そしてまたフフッと笑い、紅茶を飲み干す。
「少しは情報も入ったでしょう? まずは傷を治すことね。その後貴方が出した結果に応じて教えてあげるわ」
「ちっ、最初から全部話せば早いものを」
ごもっともだ。何をそんなに勿体つけているのやら。短い付き合いである私には到底理解出来ない。渋い顔をしたエリオットさんは、これ以上は無駄だと判断したようだ。出されていた紅茶には手もつけず席を立ち、
「あと何日もつと思う?」
「一週間もつとは思わないわ」
とんでもない内容の会話のやり取りをして図書館を後にした。
「エリオットさんの師匠はエリオットさんの体がどうなってもいいと思っているんですかね……」
行くアテもよく分からないまま人ごみの中、彼についていき疑問を口にする。
「そうだな、どうかなってしまったらそれまでの価値しか無いのさ」
彼はさらりととても淋しい事を言ったような気がした。前を歩いているエリオットさんの表情は見えないが、私にはその背中がとても孤独に見えた。大国の王子でありながら盗賊業に身を堕とし、何を想い己の道を歩んでいるのだろうか。
そんな事を考えながら着いて行っていると、前を歩くその背中がゆらりと沈んでいった。
「エリオットさん!?」
倒れた彼を中心に、人ごみが退く。ざわついた街が更にどよめいた。
いつも軽い口しか叩かないから心配も何もしていなかったが、彼には腐敗の呪いがかかっている。辛いのならちゃんと口に出せばいいものを、倒れるまでずっと顔にすら出さずにいたのだ。
倒れたエリオットさんを膝に抱え、焦りを抑えて問う。
「……簡潔に、どうすればいいですか? たまには言ってください」
いつもいつも、何を考えてどうしようとしているのか言いもせずに前を進む彼への、心からの言葉。
「王都へ、シヴァンフォードという、医者がいる、そいつに診せる、つもりだった」
「わかりました」
意識が朦朧としているのだろう、宙を見ながら途切れ途切れに話す。
「それで無理なら、お手上げだな、はは」
歪む口元、自らを嘲笑うエリオットさん。
「正直どうでもいいですけど、目の前で死なれるのも目覚めが悪いですからね。飛んでいいですか?」
「む、むり……」
わがままな。まぁ抱きかかえながら飛ぶのはエリオットさんの体にも負担がかかるようなので馬車でも借りるしかない。王都は近いとはいえ馬車では丸一日はかかる。ルフィーナさんは「一週間はもたない」と言っていたが……一日なら大丈夫だろうか。
こんな男に心配をする優しい私は、急いで馬車を借りてフィルを出た。
「私も腕がパンパンです……」
フィルに戻ってきてへろへろしながら街中を歩く私達。長時間の変身で腕以外にも疲労が激しい上に、折角の旅がまた振り出しに戻ってしまった。いや、収穫は無い事も無いか。
人ゴミを掻き分け進む先は、
勿論図書館。
「おいルフィーナ、どういう事だ」
「あらおかえり」
飄々とした顔のハイエルフに、怒りを露にした王子。エリオットさんはダンッと机を叩きつけて詰め寄った。
「俺達の情報を流したの、お前だろ」
「何のことかしらね?」
フフッと笑うルフィーナさん。
「隠す気もねぇってか」
怒ってはいるものの、怒っても仕方ないと判断したようだ。エリオットさんはそれ以上問いただすわけでもなくきしむ椅子に腰掛けた。長年の付き合いだからこそ、か。見極め、諦めるのも早いのだろう。
私は戸惑いつつもエリオットさんの隣に座り、二人の様子を伺う。するとルフィーナさんのほうから切り出した。
「私は知っているだけよ。そしてどちらの味方でも無いだけなの」
「なに?」
「エリ君の結果次第じゃ味方になってあげても良かったんだけどね。ダメだったみたいだから残念でした」
そしてまたフフッと笑い、紅茶を飲み干す。
「少しは情報も入ったでしょう? まずは傷を治すことね。その後貴方が出した結果に応じて教えてあげるわ」
「ちっ、最初から全部話せば早いものを」
ごもっともだ。何をそんなに勿体つけているのやら。短い付き合いである私には到底理解出来ない。渋い顔をしたエリオットさんは、これ以上は無駄だと判断したようだ。出されていた紅茶には手もつけず席を立ち、
「あと何日もつと思う?」
「一週間もつとは思わないわ」
とんでもない内容の会話のやり取りをして図書館を後にした。
「エリオットさんの師匠はエリオットさんの体がどうなってもいいと思っているんですかね……」
行くアテもよく分からないまま人ごみの中、彼についていき疑問を口にする。
「そうだな、どうかなってしまったらそれまでの価値しか無いのさ」
彼はさらりととても淋しい事を言ったような気がした。前を歩いているエリオットさんの表情は見えないが、私にはその背中がとても孤独に見えた。大国の王子でありながら盗賊業に身を堕とし、何を想い己の道を歩んでいるのだろうか。
そんな事を考えながら着いて行っていると、前を歩くその背中がゆらりと沈んでいった。
「エリオットさん!?」
倒れた彼を中心に、人ごみが退く。ざわついた街が更にどよめいた。
いつも軽い口しか叩かないから心配も何もしていなかったが、彼には腐敗の呪いがかかっている。辛いのならちゃんと口に出せばいいものを、倒れるまでずっと顔にすら出さずにいたのだ。
倒れたエリオットさんを膝に抱え、焦りを抑えて問う。
「……簡潔に、どうすればいいですか? たまには言ってください」
いつもいつも、何を考えてどうしようとしているのか言いもせずに前を進む彼への、心からの言葉。
「王都へ、シヴァンフォードという、医者がいる、そいつに診せる、つもりだった」
「わかりました」
意識が朦朧としているのだろう、宙を見ながら途切れ途切れに話す。
「それで無理なら、お手上げだな、はは」
歪む口元、自らを嘲笑うエリオットさん。
「正直どうでもいいですけど、目の前で死なれるのも目覚めが悪いですからね。飛んでいいですか?」
「む、むり……」
わがままな。まぁ抱きかかえながら飛ぶのはエリオットさんの体にも負担がかかるようなので馬車でも借りるしかない。王都は近いとはいえ馬車では丸一日はかかる。ルフィーナさんは「一週間はもたない」と言っていたが……一日なら大丈夫だろうか。
こんな男に心配をする優しい私は、急いで馬車を借りてフィルを出た。
更新日:2011-06-20 17:53:53