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「……反論してこないな」
「そりゃそうでしょ!!」
私の突っ込みたかったところを、フォウさんが彼の後ろから突っ込んでくれた。エリオットさんはぽりぽりと頭を掻いてから、その手をそのままこちらに向けてきて、
「じゃあこうしてみるとか」
今度は私のわき腹を思いっきりくすぐる。
私はくすぐったくて笑っているはずなのだが、それでも声は出ない。ただ笑っているような口の開け方と悶え方をしているだけで、喉の奥からは一切音が出なかったのだ。
多分声が出ていればそろそろひぃひぃ言い始めるくらいの間くすぐったさに悶えたと思う頃、ようやくくすぐり地獄から解放される。
「……これもだめか」
「折角連れてきたのに驚くほど見当違いの事してるよね!?」
フォウさんがそう叫んで、エリオットさんのポニーテールを後ろから思いっきり引っ張った。
「いだい!!」
「真面目にやってよ! 少なくとも最近のクリスの悩みの原因なんて、王子様しか思い当たらないんだから!」
なるほど、それでエリオットさんが連れて来られたのか……笑いすぎて涙が出てきた瞳をごしごし擦りながら、彼等の会話をただ聞く。
「んー……一体どういう状況でこいつに怯えの色とやらが見えたんだよ。お前との会話の最中なんだろ? むしろお前が原因なんじゃないのか?」
「え゙っ」
原因を自分に押し付けられて、変な声をあげるフォウさん。しばらくあの時の状況を思い出すように悩み考え込んで、彼は黙ってしまった。
私も一緒になってあの時の状況を思い出してみる。タオルを破ってしまい、それをフォウさんに見られて、その後彼が何故か重い表情を見せ……
だめだ、気持ち、悪、い。
「……!」
私はそこで思考を停止させた。これ以上は考えたくないと頭と体が言っている。
吐き気がしてきて口を思わず抑えると、すかさずレフトさんが私の背中をさすってくれた。
「エリオット様の指摘、遠からずってところですわね~」
「おおおお俺のせい!?」
「急に拒否反応示してるんだ、やっぱり何かあったんだろ」
「ええええええええ!?」
叫んでからフォウさんは、額に片手を当てながら記憶を探るように一つずつ言葉を紡いでいく。
「……クリスが、洗濯物を干すのを失敗していたんだ」
「干すのをどうやって失敗するのか、その時点でもう理解不能だぞ」
半眼で呆れ顔をこちらに見せるエリオットさん。仰る通り過ぎて恥ずかしいので、私は彼から顔を思わず背けた。
「それで、クリスが力を制御出来てない事を知ったんだ」
「どういう事だそれは」
エリオットさんが怪訝な表情で問いかけ、それに対してフォウさんは少し一呼吸置いてからその続きを話し始めた。
「クリス、タオルを間違って引き千切っちゃってたんだよ。つまり……分かるよね」
彼のその言葉に、エリオットさんが驚いた様子のまま固まっている。知られたくなかった事を話されて顔を歪めた私の頭を、レフトさんは何も言わずに撫でていた。
そしてエリオットさんはようやく動き出したかと思うと、こちらを凄い形相で睨んでくる。
「何でそんな大事な事を黙ってたんだ……!」
低く震える声で、責めるように。
「王子様、ストップ……」
「これが止まれるか!! 力が制御出来ない!? いつからだ!! やっぱり異常が出てきてるんじゃないか!! 他には無いのか!?」
私の両肩を揺すって捲くし立ててくるが、答えられない私はただ揺すられるがまま、彼の瞳を見つめる事しか出来ない。
そこへレフトさんが割って入ってきて、エリオットさんから私を庇うように抱きとめる。
「エリオット様」
レフトさんは、彼女にしては強い語尾で名前だけを呼んで窘めた。
「……っ」
私から離された彼は、まだ何か言いたそうであったが歯を食いしばってそれを飲み込む。怒り、悔しさ、悲しみ、色んな感情が織り交ざったような彼の目に、私は口唇を噛んだ。
皆が押し黙ったところでフォウさんが先程の続きを話し始める。
「この数年で、らしいよ。それを聞いて大丈夫かなって心配したんだけど、そしたらクリスが自分の力に対して苛むような事を言ったんだ」
「苛む?」
「うん。こんな力気持ち悪いよね、みたいに。その時の色が怯えた色だったんだよ……って」
そこまで言って、エリオットさんとフォウさんの目が合う。
「それ、俺が原因には思えないんだが」
「ち、違うかも……」
「そりゃそうでしょ!!」
私の突っ込みたかったところを、フォウさんが彼の後ろから突っ込んでくれた。エリオットさんはぽりぽりと頭を掻いてから、その手をそのままこちらに向けてきて、
「じゃあこうしてみるとか」
今度は私のわき腹を思いっきりくすぐる。
私はくすぐったくて笑っているはずなのだが、それでも声は出ない。ただ笑っているような口の開け方と悶え方をしているだけで、喉の奥からは一切音が出なかったのだ。
多分声が出ていればそろそろひぃひぃ言い始めるくらいの間くすぐったさに悶えたと思う頃、ようやくくすぐり地獄から解放される。
「……これもだめか」
「折角連れてきたのに驚くほど見当違いの事してるよね!?」
フォウさんがそう叫んで、エリオットさんのポニーテールを後ろから思いっきり引っ張った。
「いだい!!」
「真面目にやってよ! 少なくとも最近のクリスの悩みの原因なんて、王子様しか思い当たらないんだから!」
なるほど、それでエリオットさんが連れて来られたのか……笑いすぎて涙が出てきた瞳をごしごし擦りながら、彼等の会話をただ聞く。
「んー……一体どういう状況でこいつに怯えの色とやらが見えたんだよ。お前との会話の最中なんだろ? むしろお前が原因なんじゃないのか?」
「え゙っ」
原因を自分に押し付けられて、変な声をあげるフォウさん。しばらくあの時の状況を思い出すように悩み考え込んで、彼は黙ってしまった。
私も一緒になってあの時の状況を思い出してみる。タオルを破ってしまい、それをフォウさんに見られて、その後彼が何故か重い表情を見せ……
だめだ、気持ち、悪、い。
「……!」
私はそこで思考を停止させた。これ以上は考えたくないと頭と体が言っている。
吐き気がしてきて口を思わず抑えると、すかさずレフトさんが私の背中をさすってくれた。
「エリオット様の指摘、遠からずってところですわね~」
「おおおお俺のせい!?」
「急に拒否反応示してるんだ、やっぱり何かあったんだろ」
「ええええええええ!?」
叫んでからフォウさんは、額に片手を当てながら記憶を探るように一つずつ言葉を紡いでいく。
「……クリスが、洗濯物を干すのを失敗していたんだ」
「干すのをどうやって失敗するのか、その時点でもう理解不能だぞ」
半眼で呆れ顔をこちらに見せるエリオットさん。仰る通り過ぎて恥ずかしいので、私は彼から顔を思わず背けた。
「それで、クリスが力を制御出来てない事を知ったんだ」
「どういう事だそれは」
エリオットさんが怪訝な表情で問いかけ、それに対してフォウさんは少し一呼吸置いてからその続きを話し始めた。
「クリス、タオルを間違って引き千切っちゃってたんだよ。つまり……分かるよね」
彼のその言葉に、エリオットさんが驚いた様子のまま固まっている。知られたくなかった事を話されて顔を歪めた私の頭を、レフトさんは何も言わずに撫でていた。
そしてエリオットさんはようやく動き出したかと思うと、こちらを凄い形相で睨んでくる。
「何でそんな大事な事を黙ってたんだ……!」
低く震える声で、責めるように。
「王子様、ストップ……」
「これが止まれるか!! 力が制御出来ない!? いつからだ!! やっぱり異常が出てきてるんじゃないか!! 他には無いのか!?」
私の両肩を揺すって捲くし立ててくるが、答えられない私はただ揺すられるがまま、彼の瞳を見つめる事しか出来ない。
そこへレフトさんが割って入ってきて、エリオットさんから私を庇うように抱きとめる。
「エリオット様」
レフトさんは、彼女にしては強い語尾で名前だけを呼んで窘めた。
「……っ」
私から離された彼は、まだ何か言いたそうであったが歯を食いしばってそれを飲み込む。怒り、悔しさ、悲しみ、色んな感情が織り交ざったような彼の目に、私は口唇を噛んだ。
皆が押し黙ったところでフォウさんが先程の続きを話し始める。
「この数年で、らしいよ。それを聞いて大丈夫かなって心配したんだけど、そしたらクリスが自分の力に対して苛むような事を言ったんだ」
「苛む?」
「うん。こんな力気持ち悪いよね、みたいに。その時の色が怯えた色だったんだよ……って」
そこまで言って、エリオットさんとフォウさんの目が合う。
「それ、俺が原因には思えないんだが」
「ち、違うかも……」
更新日:2012-10-05 14:10:56