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そうやってしばらく撫でていた後、彼女はそっと私の隣に腰掛けて、私の頭をぎゅっとその胸に沈めさせる。優しく抱きしめて貰って、私はその心地よさに目を閉じた。
「皆様クリスさんをいっぱい気に掛けてくれていますわね~」
私の頭に頬を置いて、今度は背中を撫でてくれるレフトさん。
レフトさんは、普段作っているお菓子の匂いだろうか? 蜂蜜みたいな甘い匂いがして、しかもふかふかしていて凄く気持ちがいい。
「でもクリスさんは、皆のそんな気持ちが不安なのでしょう~」
そしてまた肩から背中にかけて撫でる。
「周囲の殿方は揃って感情表現が下手ですから~、たまにはきちんと好意を表に出してほしいと思いますわよね。女の子ですもの~」
『こんな風に』と、レフトさんはまた両手でぎゅーっと私を抱きしめてくれた。確かにこんな風に愛情を示されたら怖いものなんて何も無いや、と思う。
私もレフトさんをぎゅっと抱きしめ返して、その気持ちを肯定した。
「クリスさんはよく強がりばかりを口にしていらしてますから~。ほんのちょっと心がお休みしたいのかも知れませんね~」
んんー、強がっているつもりは無いんだけれど、以前にも似たような事を誰かに言われたような気がする。
そう見えるのだろうか、それとも私自身が気付いていないだけで自然と強がってしまっているのか。比較的素直なほうだと思うんだけどなぁ……と自分では思っているのに、そうは周囲からは見えないらしい。
ちょっと腑に落ちないけれど、物理的に反論出来ない私は黙って彼女に包まれていた。
と、そこへガチャリとドアノブが回ったかと思うとライトさんが入ってくる。
「…………」
珍しく気の抜けたような顔をしている彼は、黙ってこちらを見ていた。
「あらお兄様、フォウ様と鉢合わせでもしましたか~?」
「その通りだ」
返事を聞いてふふふ、と笑うレフトさん。どういう事なのか説明してほしいけれど問う言葉は私の口から出てこない。これでは不便で仕方が無い。
治らなかったらどうしよう、とふと思ったその途端、何かが込み上げてくる。
「……、……!」
声にならないくらいの擦れたような風の音だけを喉で鳴らす私を、彼女はまた強く抱きしめて撫でてくれた。宥めるように、落ち着かせるように、あやすように。
しばらく撫でて貰っていると激しかった動悸も落ち着いてきて、私は彼女を見上げる。
視線に気がついたレフトさんはにっこり笑いかけて言った。
「わたくしも食べちゃいたいくらい可愛いと思っておりますわ~」
にぱっと大きく口を開けて笑った彼女のその台詞は、ちょっと本気っぽくて笑えない。いや、冗談だとは思うけれど。
「しばらく任せておいて良さそうだな」
「食べないように気をつけます~」
……これほどツッコミを入れられない事をもどかしいと思った事は、無い。
気付いたらうたた寝してしまっていたらしい。目を覚ますと私はレフトさんの膝枕に頭を乗せていた。ここはベッドで枕もあるのに、わざわざ彼女はずっと膝を貸していてくれたようだった。
ありがとうございます、と口パクでどうにか礼を伝えようとする私。察しのいい彼女には伝わったみたいで、
「どういたしまして~」
と返事をしてくれる。
「お夕飯の準備、してきましょうかしらね~」
そう言って彼女が立つ。
何となくレフトさんに離れて欲しくなくて、私も一緒にベッドを降りて立った。口がきけなくても手伝いくらいは出来るのだから。しかし、
「あら?」
レフトさんがその獣耳をぴこんと動かして、足の動きを止める。
『ったく何やってんだお前等』
『ちょ、ちょっと! 乱暴な扱いはしちゃダメだからね!?』
『頭でも叩けば治んだろ!』
この声はエリオットさんとフォウさんだ。どったどったと周囲を気にしない足音を立てて、その音はどんどんこちらに近づいてきて……
「おー、声が出なくなったとか言う細い神経したガキはここかー?」
バタン! と勢いよくドアが開いたと思うと憎たらしい笑みを浮かべてやってきたエリオットさん。後ろには焦り顔のフォウさんがついてきている。
エリオットさんはつかつかと私の前に歩み出てきて、にやにや笑いながら言い放った。
「そのまま喋らない方が可愛げがあっていいんじゃねーの」
人の不幸をこうも笑えるものか。声は出ないけれど食って掛かるように私は彼を見上げて鋭く睨む。
「皆様クリスさんをいっぱい気に掛けてくれていますわね~」
私の頭に頬を置いて、今度は背中を撫でてくれるレフトさん。
レフトさんは、普段作っているお菓子の匂いだろうか? 蜂蜜みたいな甘い匂いがして、しかもふかふかしていて凄く気持ちがいい。
「でもクリスさんは、皆のそんな気持ちが不安なのでしょう~」
そしてまた肩から背中にかけて撫でる。
「周囲の殿方は揃って感情表現が下手ですから~、たまにはきちんと好意を表に出してほしいと思いますわよね。女の子ですもの~」
『こんな風に』と、レフトさんはまた両手でぎゅーっと私を抱きしめてくれた。確かにこんな風に愛情を示されたら怖いものなんて何も無いや、と思う。
私もレフトさんをぎゅっと抱きしめ返して、その気持ちを肯定した。
「クリスさんはよく強がりばかりを口にしていらしてますから~。ほんのちょっと心がお休みしたいのかも知れませんね~」
んんー、強がっているつもりは無いんだけれど、以前にも似たような事を誰かに言われたような気がする。
そう見えるのだろうか、それとも私自身が気付いていないだけで自然と強がってしまっているのか。比較的素直なほうだと思うんだけどなぁ……と自分では思っているのに、そうは周囲からは見えないらしい。
ちょっと腑に落ちないけれど、物理的に反論出来ない私は黙って彼女に包まれていた。
と、そこへガチャリとドアノブが回ったかと思うとライトさんが入ってくる。
「…………」
珍しく気の抜けたような顔をしている彼は、黙ってこちらを見ていた。
「あらお兄様、フォウ様と鉢合わせでもしましたか~?」
「その通りだ」
返事を聞いてふふふ、と笑うレフトさん。どういう事なのか説明してほしいけれど問う言葉は私の口から出てこない。これでは不便で仕方が無い。
治らなかったらどうしよう、とふと思ったその途端、何かが込み上げてくる。
「……、……!」
声にならないくらいの擦れたような風の音だけを喉で鳴らす私を、彼女はまた強く抱きしめて撫でてくれた。宥めるように、落ち着かせるように、あやすように。
しばらく撫でて貰っていると激しかった動悸も落ち着いてきて、私は彼女を見上げる。
視線に気がついたレフトさんはにっこり笑いかけて言った。
「わたくしも食べちゃいたいくらい可愛いと思っておりますわ~」
にぱっと大きく口を開けて笑った彼女のその台詞は、ちょっと本気っぽくて笑えない。いや、冗談だとは思うけれど。
「しばらく任せておいて良さそうだな」
「食べないように気をつけます~」
……これほどツッコミを入れられない事をもどかしいと思った事は、無い。
気付いたらうたた寝してしまっていたらしい。目を覚ますと私はレフトさんの膝枕に頭を乗せていた。ここはベッドで枕もあるのに、わざわざ彼女はずっと膝を貸していてくれたようだった。
ありがとうございます、と口パクでどうにか礼を伝えようとする私。察しのいい彼女には伝わったみたいで、
「どういたしまして~」
と返事をしてくれる。
「お夕飯の準備、してきましょうかしらね~」
そう言って彼女が立つ。
何となくレフトさんに離れて欲しくなくて、私も一緒にベッドを降りて立った。口がきけなくても手伝いくらいは出来るのだから。しかし、
「あら?」
レフトさんがその獣耳をぴこんと動かして、足の動きを止める。
『ったく何やってんだお前等』
『ちょ、ちょっと! 乱暴な扱いはしちゃダメだからね!?』
『頭でも叩けば治んだろ!』
この声はエリオットさんとフォウさんだ。どったどったと周囲を気にしない足音を立てて、その音はどんどんこちらに近づいてきて……
「おー、声が出なくなったとか言う細い神経したガキはここかー?」
バタン! と勢いよくドアが開いたと思うと憎たらしい笑みを浮かべてやってきたエリオットさん。後ろには焦り顔のフォウさんがついてきている。
エリオットさんはつかつかと私の前に歩み出てきて、にやにや笑いながら言い放った。
「そのまま喋らない方が可愛げがあっていいんじゃねーの」
人の不幸をこうも笑えるものか。声は出ないけれど食って掛かるように私は彼を見上げて鋭く睨む。
更新日:2012-10-05 14:08:26