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そして朝日が私の意識を自然と起こしてくれる。朝の光は澄んでいて好きだ、気持ちがいい。まだ少しだけだるい体を起こし、なるべく音を立てないように洗面所まで歩いていきその扉を開けると、洗面所は何故か随分と湯気が立っていて、湿っぽかった。
「あれ?」
その湯気の理由を確認しようと洗面所に入る。そこに居たのは髪の毛をタオルで拭いているフォウさんが居た。どうやら洗面所に隣接している浴室で朝から湯でも浴びていたらしい。
「ちょっと洗面台貸してくださいね、顔を洗いたいです」
それだけ告げて私はのそのそと洗面台に向かい、水を出した。
「え、あの」
冷たい水を手ですくったところで、フォウさんが何やら後ろでもごもご言っている。
「どうしました?」
顔を洗いたいけれど放っておくのも可哀想なので振り返って尋ねると、彼は顔を真っ赤にして涙目になっていた。その表情を見て、何だかんだで変わっていない顔もあるじゃないか、と心の中で私は呟く。
「いや、だって、俺……は、裸……」
「そうですね」
特筆すべき事では無いのでスルーしていたが、お風呂上がりの彼は勿論裸だった。今は髪を拭いていたタオルで隠す物を隠しているが、先程は一切隠されていなかったと思う。直視していないので確信は無い。
「年頃の女の子の反応じゃないよクリス!!」
「えっ? 何か問題でもありましたか!?」
「それは、その……何だろうこの複雑な心境は……」
がっくりと肩を落として、フォウさんが項垂れた。それを見てから私はさっさとまた洗面台に向かって顔を洗い、スッキリしたところで再度彼の方に振り向いて言う。
「っと、そのタオル貸してください」
「ええっ!?」
彼がわざわざ下半身を隠していたタオルをさっと取って、私はそれで顔を拭いてからまた彼に返した。わざわざ片手だけで心許無く局部を隠している彼は、それを受け取りながら口をぱくぱくさせている。
「こ、これで顔拭いちゃうとか……」
「何枚もタオル使うとその分洗濯する量が増えるでしょう」
「そう……そうだね……クリスの当番だもんね……」
そして、はははは、とフォウさんの乾いた笑い。泣きそうな顔をしているのに笑っている彼の顔は、何だか不思議な感じだった。
体を拭いていたタオルで顔を拭かれるのがそんなに嫌だったのだろうか。気持ちは全く分からないけれどそこまで嫌だったのなら、と少し申し訳ないので一応詫びておく。
「ごめんなさい、そんなに嫌でした?」
すると三つの目をぱちくりさせて、彼は首を横に振った。
「いや、いいんだよ!? そういう事じゃないから! そういう事じゃ……」
それだけ言って、また笑う。楽しくも無さそうに。
「……それならいいんですけど。しかし、こんな時間にお風呂入ってどこか出かけるんです?」
「ううん、俺基本的に朝風呂派で……っじゃなくて! クリス!!」
「はい?」
私の問いに自然に返答していた彼だったが、急に声を荒げて私の体を外へ押し出してこう叫んだ。
「落ち着かないから一旦出て!!」
洗面所の外にぐいっと出されて、私は一人でキョトンとしてしまう。
「フォウさんって、女の人みたいだなぁ……」
エリオットさんやライトさん、それに何度か入れ替わっている護衛の人達も裸を見られて恥ずかしがるような事は無かったし堂々と目の前で脱ぐので気にも留めていなかったけれど、男の人でも裸を見られるのを恥ずかしがる人が一応は居るらしい。
私の周囲でそれは女性以外に出会った事が無かったので、今私の中での彼の扱いが限りなく女性側のラインへ近づいた。男性と思わずにもう少し丁重に扱うべきだ、と。
そんな事を考えていたら浴室のドアが開いて、服を着たフォウさんが出てくる。
「あ、今度から気をつけますね! 配慮が足りなくてすみません!」
「ううう、全力で勘違いされてるけど、訂正する気力も出ない……」
ほんのりまだ湿っている頭を抱えて、困った顔を見せる彼。
「勘違い、ですか?」
「……何でもない……」
何でもないとは全く思えない表情なのに、フォウさんはそれ以上その事について喋ってはくれなかった。
「あれ?」
その湯気の理由を確認しようと洗面所に入る。そこに居たのは髪の毛をタオルで拭いているフォウさんが居た。どうやら洗面所に隣接している浴室で朝から湯でも浴びていたらしい。
「ちょっと洗面台貸してくださいね、顔を洗いたいです」
それだけ告げて私はのそのそと洗面台に向かい、水を出した。
「え、あの」
冷たい水を手ですくったところで、フォウさんが何やら後ろでもごもご言っている。
「どうしました?」
顔を洗いたいけれど放っておくのも可哀想なので振り返って尋ねると、彼は顔を真っ赤にして涙目になっていた。その表情を見て、何だかんだで変わっていない顔もあるじゃないか、と心の中で私は呟く。
「いや、だって、俺……は、裸……」
「そうですね」
特筆すべき事では無いのでスルーしていたが、お風呂上がりの彼は勿論裸だった。今は髪を拭いていたタオルで隠す物を隠しているが、先程は一切隠されていなかったと思う。直視していないので確信は無い。
「年頃の女の子の反応じゃないよクリス!!」
「えっ? 何か問題でもありましたか!?」
「それは、その……何だろうこの複雑な心境は……」
がっくりと肩を落として、フォウさんが項垂れた。それを見てから私はさっさとまた洗面台に向かって顔を洗い、スッキリしたところで再度彼の方に振り向いて言う。
「っと、そのタオル貸してください」
「ええっ!?」
彼がわざわざ下半身を隠していたタオルをさっと取って、私はそれで顔を拭いてからまた彼に返した。わざわざ片手だけで心許無く局部を隠している彼は、それを受け取りながら口をぱくぱくさせている。
「こ、これで顔拭いちゃうとか……」
「何枚もタオル使うとその分洗濯する量が増えるでしょう」
「そう……そうだね……クリスの当番だもんね……」
そして、はははは、とフォウさんの乾いた笑い。泣きそうな顔をしているのに笑っている彼の顔は、何だか不思議な感じだった。
体を拭いていたタオルで顔を拭かれるのがそんなに嫌だったのだろうか。気持ちは全く分からないけれどそこまで嫌だったのなら、と少し申し訳ないので一応詫びておく。
「ごめんなさい、そんなに嫌でした?」
すると三つの目をぱちくりさせて、彼は首を横に振った。
「いや、いいんだよ!? そういう事じゃないから! そういう事じゃ……」
それだけ言って、また笑う。楽しくも無さそうに。
「……それならいいんですけど。しかし、こんな時間にお風呂入ってどこか出かけるんです?」
「ううん、俺基本的に朝風呂派で……っじゃなくて! クリス!!」
「はい?」
私の問いに自然に返答していた彼だったが、急に声を荒げて私の体を外へ押し出してこう叫んだ。
「落ち着かないから一旦出て!!」
洗面所の外にぐいっと出されて、私は一人でキョトンとしてしまう。
「フォウさんって、女の人みたいだなぁ……」
エリオットさんやライトさん、それに何度か入れ替わっている護衛の人達も裸を見られて恥ずかしがるような事は無かったし堂々と目の前で脱ぐので気にも留めていなかったけれど、男の人でも裸を見られるのを恥ずかしがる人が一応は居るらしい。
私の周囲でそれは女性以外に出会った事が無かったので、今私の中での彼の扱いが限りなく女性側のラインへ近づいた。男性と思わずにもう少し丁重に扱うべきだ、と。
そんな事を考えていたら浴室のドアが開いて、服を着たフォウさんが出てくる。
「あ、今度から気をつけますね! 配慮が足りなくてすみません!」
「ううう、全力で勘違いされてるけど、訂正する気力も出ない……」
ほんのりまだ湿っている頭を抱えて、困った顔を見せる彼。
「勘違い、ですか?」
「……何でもない……」
何でもないとは全く思えない表情なのに、フォウさんはそれ以上その事について喋ってはくれなかった。
更新日:2012-10-02 09:59:56