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挿絵 400*400

「私はその槍の精霊だ」

 とても分かりやすく、それでいて不満足。私の表情からそれだけでは足りない事を察してくれたらしい。その後に言葉が続く。

「持ち主が適合者であれば、私は持ち主の力を吸って力を出せる」

 私としっかり目を合わせながら腕を軽く折り、拳を握る彼。
 なるほど、この精霊は私が持たないと力を出せないのか……じゃあ今放したらどうなるのかな、と思ったけれど、それで彼が消えてしまっても困るのでそれは一旦心の中に仕舞っておく。

「この様に人型として具現化したり、具現化していなければ槍本体に精霊としての力を宿せる」

「あー、だから今この槍に力のようなものを感じないんですね」

「その通りだ」

 槍と彼とを見比べて、私は改めてその言葉の意味を頭で受け止めた。
 エリオットさんもそーっと覗くように私の手元の槍を見つめて、でも精霊に対しては顔を向けたくないのだろう、そちらは横目で見やるだけで視線を流している。
 そんな視線に少し気付いたらしい精霊は、エリオットさんと同じように、顔は私に向けているにも関わらず視線だけエリオットさんにちらりと向け、

「ただ、具現化している間は常に力を外へ向けて出しているわけであまりオススメはしない。緊急時のみがいいだろう」

 そう言うと彼は振り向き様にエリオットさんの頭をポカッと叩いてから姿を消した。

「何しやがんだ! 出て来い!!」

 勿論怒らないわけがない。叩かれた頭を撫でながら私の持つ槍に向かって吼えるエリオットさん。

「何で叩いたりするんですか?」

 そっと槍に声をかけてみると、返事は私の頭の中に直接響くように聞こえた。

『その男とは気が合いそうにない、なるべくなら一緒に居たくない』

 物凄~く、先が思いやられる返答。気が合わないという理由で手が出てしまう槍の精霊に、大人げない王子と、これから一時的とはいえ行動しなくてはいけないのかと思うと正直げんなりした。
 エリオットさんは彼の声を聞こえないようで、諦めたように槍に背を向ける。

「とりあえず……どうにか砂漠を抜けましょうか」

 私は、スッと腹の奥に力を込め、

「おい! ずるいぞ!!」

 エリオットさんの怒声を無視し、悪魔に変化して黒い翼を広げた。
 そんな私を睨みつけている緑髪の王子に、この姿には全く合わないであろう笑顔を作って見せる。

「ちゃんと運んであげますよ、方角だけ教えて貰っていいですか?」

「ん、それならまぁ……太陽の高さ的に太陽の反対方向が北だろう」

「ありがとうございます」

 私より身長の高い彼を運ぶには、彼の胸に両手を回し掴む形を取るのがいいだろう。ちょっとだけ浮いて彼の体を掴み、

「落としてしまったらすみません」

 一応先に謝っておいた。

「すみませんで済むか!!」

 何やら腕の中で喚いているが、無視してふわりと飛び立ち一気に高くまで昇る。
 見渡す限り、砂の地平線。あちらが北か……

「とりあえずまたフィルまで戻りますよー」

「おう、頼む」

 返事を聞くや否や、私はフィルめがけて猛飛行したのだった。

【第二章 女神の遺産 ~凸凹な彼と私の素性~ 完】

更新日:2011-08-11 23:16:22

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