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挿絵 400*400

 その琥珀の瞳は真剣な眼差しでこちらを見つめていた。本当に超が付くくらい不器用な奴。こんな事でしか感情にケリをつけられないのか。
 だが俺も人の事は言えない。ローズが死んだおかげで自分で自分の気持ちにケリをつけられず、未だに縛られたまま。

「……似た者同士だな」

 付き合ってやろう。
 俺は部屋の壁に掛けてあった飾り物のサーベルを手に取った。デザイン重視の宝剣に近い物だが、それでも俺の部屋に飾るくらいなので悪い物じゃない。
 お互いに切っ先を向けて静かに片手で構える。しかし正直な話、剣だけでは常に鍛錬しているレイアに勝てるとは思えなかった。

「手や足も使っていいか?」

「剣だけでは私に分がありすぎますから構いません。魔法や銃は私が使えませんので無しでお願いします」

「分かってるよ」

 単純な武術での実力差は、剣ならばレイアが上。体術ならば俺の方が上だろう。それらを交えて戦うならば、結果は正直俺にも予想がつかない。本気の手合わせだなんて何年ぶりになるか。
 先に仕掛けてきたのはレイア。右足を擦るように低くも勢い良く出して踏み込んでくると、体を俺に対して垂直に向けてそれと一線になるように剣を振り下ろす。薙ぎ払った後のこちらの反撃をやりにくくさせる綺麗な構えだ。
 だがスタンダードのフォームで彼女は終わらない。俺が刃を受ける事を見越した上で一撃目の振りは弱かった。即座に剣を引いて、今度は振り下ろすのではなく、突く。
 俺の体に剣先が当たる前に急いでそれを下から上へ払うが、一瞬だけ空いた俺の体の左側をめがけて横払い。逃げるように体だけを後ろに引いて、自然とレイアと同じように体と剣の線が対面から見て縦一直線となった。

 そう易々と体術を使えるくらいの距離には入らせて貰えないらしい。息をするのも忘れるくらい、目の前の女剣士だけを見つめていた。一瞬でも気を抜けば負ける、そして近づかなくては勝てない。
 俺は低く構えて彼女の腰くらいの位置を横一線に剣を振るう。受け止めにくい位置だが斜めに刃をうまく当てて剣戟を止められた。とはいえこちらもそれは見越してのこと。そのまま払おうとする力に沿って、こちらの刃も動かしてやる。
 刃が重なったままそこに力を入れて押し、間合いを縮めたところで大きく薙ぎ払った。そこへ右から回し蹴りを入れるが肘打ちでそれを止められる。しかし肘打ちの瞬間はレイアの体勢もどうしても崩れてしまうので、それを狙って、

「ぐっ!」

 レイアの右太腿を俺のサーベルが突いた。痛みに、低く短く漏れる声。俺の右足も肘を落とされて鈍く痛みを感じるが、どちらの方がダメージがでかいかは明らかである。

「まだやるのか?」

「自分で負けを認めるなら死んだ方がマシです」

 うまく踏み出せなくなった右足で、全ての攻撃の踏み込みが鈍るレイア。この分なら勝てるだろう、と一瞬気が緩んだ瞬間だった。
 攻防の最中にレイアは左腕を、俺の刃を受ける事に使ったのだ。

「!?」

 斬り落とせと言わんばかりに割って入ってきたその左腕に、俺は慌てて剣を引く。そんな無駄な動きをした俺の右手から、レイアの剣は無情にもサーベルを払い落としてくれた。
 カラン、と床に落ちるサーベル。その切っ先は、右足と左腕とで二度も彼女の血を吸っている。

「私の……勝ちです」

 左腕を肩からだらんと下げながら、俺の首筋にそっと長剣をあてる。彼女はうまく、俺に大きな傷を負わせる事無く勝利したのだ。この流れ全てが策略だったかどうかは分からないが、もしかしてそうなんじゃないかと勘繰ってしまうくらい出来すぎた筋書き。

「卑怯だぞ……」

 後で治療すればいいとしても、お前の腕を意識して斬り落とせるわけが無い。

「卑怯ではありません。勝負に徹する事が出来なかった貴方が悪い。私は勝つ為ならばこの場で腕を落とすくらい耐えられると考えただけです」

 想いの差が勝敗を分けた、ってか。
 レイアの出した勝利後の条件は、レイア自身の気持ちを整理させるだけでなく、俺の気持ちをも無理やり整理せざるを得ないものだった。

「け、結婚……」

 しなきゃいけないのか。
 口約束とは言え、これを破れるほど俺は嫌な奴になれない。どんなにその条件を飲むのが辛くても、真剣勝負の約束を反故にするなど出来るものか。

「あぁ、さっさと結婚してしまえ!!」

 敗北により突きつけられた現実に呆然とする俺を見て、レイアは敬語を使うのも忘れて高らかに叫び、笑っていた。

   ◇◇◇   ◇◇◇

更新日:2012-10-02 09:42:48

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