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決闘 ~愛は強くして死の如く~
◇◇◇ ◇◇◇
レイアをクリスに追わせた後、しばらく重たい空気が流れていたこの場で、一番最初にアクションを起こしたのはクラッサだった。
「職務に戻らせて頂きます」
俺の横を通り過ぎて書室を出ると、彼女はまたいつもの無表情で颯爽と立ち去っていく。さっきまでの喧騒も情事も全て彼女の気には留まらないらしい。
俺は部屋の外に残った男と、自然とまた目を合わせた。額のもう一つの目が印象的な、青褐の髪の青年。
「てめぇが余計な事口走るからこうなったんだぞ、フォウ」
恨み言をぶつけてやると、フォウは半眼になって俺に言う。
「いやどう考えても自己責任でしょ」
「ゴメンナサイ」
あっさりと謝る俺に面食らった顔を見せたが、フォウはすぐに気を取り直したようで、廊下の壁に背を寄り掛かって座り直してから話し掛けて来た。
「……折角来たのに何かもう聞く気も萎えちゃったよ」
そういえばコイツは何をしに来たのだろう。ただ挨拶に来たわけではなさそうな口ぶりに、俺は問いかける。
「何か聞きたかったのか?」
「まぁ、ね。でもこんな人に聞くのも馬鹿らしい」
「来るなり失礼な奴だな!」
俺の周りはこんな奴ばっかりだ! 少しだけ声のトーンを上げて叫ぶと、表情は呆れ顔のまま肩だけを竦めるフォウ。
「クリスの事を聞きたかったんだ」
「何だ? あいつのスリーサイズは興味が湧かないから把握してないぞ?」
「そんな事じゃないから!! って言うか興味が湧くと調べるの!?」
俺は腕を組み大きく頷いてやった。大きく溜め息を吐くとフォウは、口にするのも憚られると言った表情でそれでも口を開く。
「王子様は……クリスをどうするつもりなのかなーって」
「どうって、どういうこっちゃ」
何となく察せてはいるが、ここは敢えて気付かぬ振りで問い返した。ライトやレイアもそうだが、クリスを気に掛けている奴はこぞって俺のアイツの扱いに疑問を抱くらしい……こっちの気も知らないで。まぁ言ってないから仕方ないんだが。
「分かってるんでしょ? 一番大事な時期に血生臭そうな事ばかりさせて、他の普通の事を見る機会も与えてあげてないだなんて酷いよ。何なのさ竜殺しって」
「それを言われると反論出来ないな」
コイツの言う通り、昔とあまり見た目は変わってないとはいえ普通ならば青春真っ只中のはずの少女にさせる事では無い。
反論も出来ないがもうすぐそれも終わるかも知れないし、それまでは目的を中断する事も出来ないので、俺はただ黙した。
「クリスがちょっと他と違うのは分かるよ。けれど普通の女の子に戻る事だって出来るはずなんだ。別に戦う事に生きがいを感じてるってタイプじゃ無さそうだし、今日だって劇を本当に嬉しそうに観てたんだから」
「劇ね……アイツ何でも素直に楽しみそうだしな」
何でクリスはコイツと劇を観ていたんだろう、という疑問には触れず、俺は一つだけ反論する。
「でも、アイツはまだ普通には戻れない」
何故なら、クリスに施されたチェンジリングはまだ解除出来ていない。それが終わってから、初めてアイツは本来の自分に戻る事が出来るのだ。
俺の言っている事の意図が汲み取れないのだろう。フォウは少しだけ首を傾げる。
「……一人で何抱えてるの?」
半端に人の考えを読みやがって、ウザイ能力の持ち主だ。
「クリスの姉の遺言なんだ。クリスの中で混在している……多分、精霊。それを直せとな」
「!!」
フォウが驚いて目を丸くした。そしてその後口元に手をあてて、何か考え込むような仕草で黙ってしまう。
コイツなら何か視えていたのかも知れない、と俺はそのまましばらくフォウが次に口を開くのを待った。
「王子様が言っているのは、どの精霊の事?」
「ど、どの!?」
待ってくれ、複数居るだなんて聞いてない。
「実は昨日ライト先生と一緒に、不安定だった二体の精霊は剥離させたんだ」
俺に何も言わずにそんな大それた事やるとか酷くない? ……と、俺は俺で周囲に言わずに同じような事をやろうとしていたわけだが。
既にチェンジリングを解除出来たと言うのならば、色々と話が変わってくる。けれど、フォウは渋い顔で続ける。
「けどね、その二体の精霊は出てきてから『もう一人居た』って言うんだ。でも俺にもライト先生にも、そのもう一人は存在すら感じ取れなくて何もやりようが無い状態なワケ」
「……全部で、三体居たのか……」
知らんがな、そんな事。
レイアをクリスに追わせた後、しばらく重たい空気が流れていたこの場で、一番最初にアクションを起こしたのはクラッサだった。
「職務に戻らせて頂きます」
俺の横を通り過ぎて書室を出ると、彼女はまたいつもの無表情で颯爽と立ち去っていく。さっきまでの喧騒も情事も全て彼女の気には留まらないらしい。
俺は部屋の外に残った男と、自然とまた目を合わせた。額のもう一つの目が印象的な、青褐の髪の青年。
「てめぇが余計な事口走るからこうなったんだぞ、フォウ」
恨み言をぶつけてやると、フォウは半眼になって俺に言う。
「いやどう考えても自己責任でしょ」
「ゴメンナサイ」
あっさりと謝る俺に面食らった顔を見せたが、フォウはすぐに気を取り直したようで、廊下の壁に背を寄り掛かって座り直してから話し掛けて来た。
「……折角来たのに何かもう聞く気も萎えちゃったよ」
そういえばコイツは何をしに来たのだろう。ただ挨拶に来たわけではなさそうな口ぶりに、俺は問いかける。
「何か聞きたかったのか?」
「まぁ、ね。でもこんな人に聞くのも馬鹿らしい」
「来るなり失礼な奴だな!」
俺の周りはこんな奴ばっかりだ! 少しだけ声のトーンを上げて叫ぶと、表情は呆れ顔のまま肩だけを竦めるフォウ。
「クリスの事を聞きたかったんだ」
「何だ? あいつのスリーサイズは興味が湧かないから把握してないぞ?」
「そんな事じゃないから!! って言うか興味が湧くと調べるの!?」
俺は腕を組み大きく頷いてやった。大きく溜め息を吐くとフォウは、口にするのも憚られると言った表情でそれでも口を開く。
「王子様は……クリスをどうするつもりなのかなーって」
「どうって、どういうこっちゃ」
何となく察せてはいるが、ここは敢えて気付かぬ振りで問い返した。ライトやレイアもそうだが、クリスを気に掛けている奴はこぞって俺のアイツの扱いに疑問を抱くらしい……こっちの気も知らないで。まぁ言ってないから仕方ないんだが。
「分かってるんでしょ? 一番大事な時期に血生臭そうな事ばかりさせて、他の普通の事を見る機会も与えてあげてないだなんて酷いよ。何なのさ竜殺しって」
「それを言われると反論出来ないな」
コイツの言う通り、昔とあまり見た目は変わってないとはいえ普通ならば青春真っ只中のはずの少女にさせる事では無い。
反論も出来ないがもうすぐそれも終わるかも知れないし、それまでは目的を中断する事も出来ないので、俺はただ黙した。
「クリスがちょっと他と違うのは分かるよ。けれど普通の女の子に戻る事だって出来るはずなんだ。別に戦う事に生きがいを感じてるってタイプじゃ無さそうだし、今日だって劇を本当に嬉しそうに観てたんだから」
「劇ね……アイツ何でも素直に楽しみそうだしな」
何でクリスはコイツと劇を観ていたんだろう、という疑問には触れず、俺は一つだけ反論する。
「でも、アイツはまだ普通には戻れない」
何故なら、クリスに施されたチェンジリングはまだ解除出来ていない。それが終わってから、初めてアイツは本来の自分に戻る事が出来るのだ。
俺の言っている事の意図が汲み取れないのだろう。フォウは少しだけ首を傾げる。
「……一人で何抱えてるの?」
半端に人の考えを読みやがって、ウザイ能力の持ち主だ。
「クリスの姉の遺言なんだ。クリスの中で混在している……多分、精霊。それを直せとな」
「!!」
フォウが驚いて目を丸くした。そしてその後口元に手をあてて、何か考え込むような仕草で黙ってしまう。
コイツなら何か視えていたのかも知れない、と俺はそのまましばらくフォウが次に口を開くのを待った。
「王子様が言っているのは、どの精霊の事?」
「ど、どの!?」
待ってくれ、複数居るだなんて聞いてない。
「実は昨日ライト先生と一緒に、不安定だった二体の精霊は剥離させたんだ」
俺に何も言わずにそんな大それた事やるとか酷くない? ……と、俺は俺で周囲に言わずに同じような事をやろうとしていたわけだが。
既にチェンジリングを解除出来たと言うのならば、色々と話が変わってくる。けれど、フォウは渋い顔で続ける。
「けどね、その二体の精霊は出てきてから『もう一人居た』って言うんだ。でも俺にもライト先生にも、そのもう一人は存在すら感じ取れなくて何もやりようが無い状態なワケ」
「……全部で、三体居たのか……」
知らんがな、そんな事。
更新日:2012-10-02 09:27:27