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「……う」
私は今も杖がわりにして持っていた槍に視線をやる。どこからといえば、脳の奥で響くようで。いつからといえば、この槍を持ってからな気がした。
「あの時、その槍から発していた空気が、あの男が現れた際、それがそのままあの男から発せられていた」
事実を淡々と述べる、薄い唇。彼の緑の瞳が視る先も、今はその槍に向けられていた。エリオットさんは足を止め、訝しげに槍を見始める。勿論触れないので見るだけ。
「何か分かります?」
「さっぱり」
もしエリオットさんの言う事が真実ならばあの青年をもう一度出現させる事が出来るはずなのだが……
「あのー、出てこれますかー?」
とりあえず私は槍に声をかけてみた。
「お前なぁ、いくらなんでもソレは三才児の発想だろうが……」
呆れるエリオットさんの後ろにフッと音もなく現れる影。そしてその後頭部に振り下ろされる、握られた拳。
ゴッッと金属バットで叩いたような鈍い音がしたかと思うと、その衝撃に耐え切れずエリオットさんはよろめいた。
「いてぇ!!」
私はただエリオットさんの背後に釘付けになる。
エリオットさんは何事か、と後ろを振り返ってから硬直し、先程の発言を撤回する事となった。
「な……」
そう、あの銀髪の青年が突然現れたのだ。
肩にぎりぎり掛からない程度にストレートに伸ばされた銀の髪に赤と緑のオッドアイ。ラフな皮の上着を着て、その下には白いシャツ。シャツの丈は彼の身長に合わないのか、ズボンとシャツの間に形の良いおへそがちらりと見えていたりする。
しかし、彼の特徴は何と言ってもその頭の上のツノだろう。私のツノとは違う、悪魔というよりは鬼のような一本角。銀の髪も相まって、ユニコーンを思い出させる。
「さ、先程はどうもありがとうございました」
私は慌てて彼に御礼をした。私の会釈に合わせて、銀髪の青年も会釈をし言葉を続ける。
「礼を言うのは私の方だ。だがとりあえず、貴方の名前が知りたい」
ぶっきらぼうな物言いのはずなのに、何故か敬いを感じられる音。何となく悪い気はせず、素直に私は返答した。
「あ……私はクリスです、そこの人はエリオットさんです」
「そっちの男はどうでもいいな」
どキッパリと放たれた青年の言葉に、マントの下で頭を抑えていたエリオットさんがピクリと反応する。
「お前な、俺の事いきなり殴ったかと思えばその扱い、失礼にも程があるぞ!」
「先にクリス様を馬鹿にしたのはお前だ」
「ちょ、いきなりそっちのガキは様付けで、俺の扱いはコレかよ!」
何やら討論を続ける、大の大人二人。それらを無視して、私は手元の槍を再度確認した。
確かに今私の手にある槍は、今はただの槍でしか無い気がする。ただの武器でありながら存在だけで威圧を感じていたその槍は、その威圧感がそのままあの銀髪の青年に移動してしまっていた。
「とりあえず、進みませんか?」
一通り槍を確認し終えた後、大人げない二人に声をかける。
「私は構わない、が、私を呼んだ理由は? まだ何も指示されていない。この男をどうにかすればいいのであれば、今すぐこなすが」
「持ち主に似て一言多いなオイ!!」
日差しなんて気にする余裕も無いくらい憤慨している彼は、頭に被っていたマントを銀髪の青年に振り回して怒っていた。冷めた目であしらっている分、銀髪の青年の方が大人かも知れない。
ともかく、理由もなく呼んでしまった事を詫びなければならない。
「すみません、呼んで出るのか試しただけなのです。特別用事はありません、ありがとうございました」
私の言葉に少し引っかかったような素振りを見せる銀髪の青年。少し首をかしげてから、言葉をつむぎ始めた。
「……まさかと思うが、何も知らずに私を手にしているのか?」
その問いかけに、私は無言で頷く。
私の反応を受けて、何から説明するのか悩んだ風に宙を見上げたかと思うと、彼は実に簡潔に説明をしてくれた。
私は今も杖がわりにして持っていた槍に視線をやる。どこからといえば、脳の奥で響くようで。いつからといえば、この槍を持ってからな気がした。
「あの時、その槍から発していた空気が、あの男が現れた際、それがそのままあの男から発せられていた」
事実を淡々と述べる、薄い唇。彼の緑の瞳が視る先も、今はその槍に向けられていた。エリオットさんは足を止め、訝しげに槍を見始める。勿論触れないので見るだけ。
「何か分かります?」
「さっぱり」
もしエリオットさんの言う事が真実ならばあの青年をもう一度出現させる事が出来るはずなのだが……
「あのー、出てこれますかー?」
とりあえず私は槍に声をかけてみた。
「お前なぁ、いくらなんでもソレは三才児の発想だろうが……」
呆れるエリオットさんの後ろにフッと音もなく現れる影。そしてその後頭部に振り下ろされる、握られた拳。
ゴッッと金属バットで叩いたような鈍い音がしたかと思うと、その衝撃に耐え切れずエリオットさんはよろめいた。
「いてぇ!!」
私はただエリオットさんの背後に釘付けになる。
エリオットさんは何事か、と後ろを振り返ってから硬直し、先程の発言を撤回する事となった。
「な……」
そう、あの銀髪の青年が突然現れたのだ。
肩にぎりぎり掛からない程度にストレートに伸ばされた銀の髪に赤と緑のオッドアイ。ラフな皮の上着を着て、その下には白いシャツ。シャツの丈は彼の身長に合わないのか、ズボンとシャツの間に形の良いおへそがちらりと見えていたりする。
しかし、彼の特徴は何と言ってもその頭の上のツノだろう。私のツノとは違う、悪魔というよりは鬼のような一本角。銀の髪も相まって、ユニコーンを思い出させる。
「さ、先程はどうもありがとうございました」
私は慌てて彼に御礼をした。私の会釈に合わせて、銀髪の青年も会釈をし言葉を続ける。
「礼を言うのは私の方だ。だがとりあえず、貴方の名前が知りたい」
ぶっきらぼうな物言いのはずなのに、何故か敬いを感じられる音。何となく悪い気はせず、素直に私は返答した。
「あ……私はクリスです、そこの人はエリオットさんです」
「そっちの男はどうでもいいな」
どキッパリと放たれた青年の言葉に、マントの下で頭を抑えていたエリオットさんがピクリと反応する。
「お前な、俺の事いきなり殴ったかと思えばその扱い、失礼にも程があるぞ!」
「先にクリス様を馬鹿にしたのはお前だ」
「ちょ、いきなりそっちのガキは様付けで、俺の扱いはコレかよ!」
何やら討論を続ける、大の大人二人。それらを無視して、私は手元の槍を再度確認した。
確かに今私の手にある槍は、今はただの槍でしか無い気がする。ただの武器でありながら存在だけで威圧を感じていたその槍は、その威圧感がそのままあの銀髪の青年に移動してしまっていた。
「とりあえず、進みませんか?」
一通り槍を確認し終えた後、大人げない二人に声をかける。
「私は構わない、が、私を呼んだ理由は? まだ何も指示されていない。この男をどうにかすればいいのであれば、今すぐこなすが」
「持ち主に似て一言多いなオイ!!」
日差しなんて気にする余裕も無いくらい憤慨している彼は、頭に被っていたマントを銀髪の青年に振り回して怒っていた。冷めた目であしらっている分、銀髪の青年の方が大人かも知れない。
ともかく、理由もなく呼んでしまった事を詫びなければならない。
「すみません、呼んで出るのか試しただけなのです。特別用事はありません、ありがとうございました」
私の言葉に少し引っかかったような素振りを見せる銀髪の青年。少し首をかしげてから、言葉をつむぎ始めた。
「……まさかと思うが、何も知らずに私を手にしているのか?」
その問いかけに、私は無言で頷く。
私の反応を受けて、何から説明するのか悩んだ風に宙を見上げたかと思うと、彼は実に簡潔に説明をしてくれた。
更新日:2011-06-20 17:49:39