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「な、何を食べる気で……?」
恐る恐る尋ねると、フォウさんは首を傾げて昔よりもほんの少しだけ伸ばされた青褐の髪をさらりと動かす。その動きは疑問からくるものではなく、視線を穏やかにこちらへ流すような自然なもの。
「クリスは天然の魔術紋様、きっと無いよね」
「え、えぇ、それが?」
「無いのに無理やり力を溜め込んじゃってるんだ。中身がどろどろしてる。だからコレを食べられないかなーって見てた」
そう言って、私の体を指差す。
と言う事は私の体の中身を食べる気、と?
ふっとあのネックレスを取り込もうとした場景が脳裏に過ぎる。あれはそのまままさに食べる仕草だった。つまり私も美味しくもぐもぐと……
「私のお腹、そんな食べるほどの贅肉なんてありませんよ!?」
ついでに言うと、胸にも無い。
「いやいやいや」
私の訴えに、ぶんぶんと手を振って否定する彼。想像したら怖くてちょっぴり涙目になっている私を、くすくす笑いながらその後も続けた。
「今のところ体に異常が無いなら無理して食べないよ。それにこの場合は本当に直接食べたりもしないって」
「そ、それならいいんですけど……」
体に入っていた力をゆっくり抜いて、私はほっと胸を撫で下ろす。
私の返答を聞いてから、フォウさんはスッと椅子から立ち上がって大きく背伸びをした。
こうして見ると本当に背が伸びたものである。私も今頃はエリオットさんの身長を越している予定だったと言うのに……少し悔しい。
背伸びの後に彼はまた私と視線を合わせて言う。
「本当はクリスが元気なら城下街を案内して欲しかったんだけど……怪我してるしあんまりお邪魔しちゃ悪いからもう行くね」
とても名残惜しそうに言うその姿に、何となく昔の彼の背中が重なった。
「あぁ、案内しましょうか?」
「ええぇ!?」
三つの目を丸くして、驚く彼。
「歩くくらいなら全然平気ですよ、スポーツとかはちょっと無理ですけど。毎日こうして寝てると体も鈍りますし、丁度動きたかったんで」
よっこらしょ、とベッドから足を下ろすと私は自然に立ち上がってとことこ歩いてやる。その様子をフォウさんは真剣な目で見て、
「嘘の色は無い……ほんとに大丈夫みたいだね。じゃあお願いしようかな!」
にこっと嬉しそうにこちらに向けられた笑顔は、少しだけ以前のように幼く見えた。
こちらとしてもフォウさんとはもう少し話したかった、と言うのも実はある。彼との約束を守れなかった事を、どう伝えようかな、と私は考えていた。
「一応外出許可貰ってきますね」
「一緒に行くよ」
そして廊下へ出て二つ離れた部屋に向かってノックを二回。
返事はライトさんはいつもしないので、それを待たずにドアを開けると床でトトトトーッと何か白い物が走っていったのが視界に入る。
「ああああああああ」
間違いなくライトさんの声なのだが、彼がこんな風に叫ぶのは珍しい。
「ご、ごめんなさい、お邪魔でしたか?」
「いや……いい。捕まえてくれれば」
「えっ?」
その言葉の意味をうまく理解出来なかった私は疑問符を投げかけた。が、フォウさんがそれにさらっと返答してくれる。
「コレだね? とりあえず掴んだけど」
彼のその手には、白くふわふわした小さなねずみ。こ、これはまさか動物実験中とかそういうアレだろうか。
フォウさんは私より先にライトさんの部屋に入ってそのねずみを彼に手渡した。
「助かった」
一言簡潔な礼を述べて、ライトさんはそのねずみを、先住のねずみが既に一匹いる籠に仕舞う。
「随分いじってあるねずみだけど、何に使うの?」
「! 分かるのか」
フォウさんの問いかけに驚くライトさん。やはり動物実験なのか……この人は診療もせずにこんな事ばかりしている気がする。
ライトさんは少し黙っていたが、意を決したように話し出した。
「丁度いいからクリスも聞け。俺はこのねずみに精霊を宿らせようと思っている」
衝撃の一言。
聞き間違えでは無いのか。彼は何と言った?
呆気に取られている私に、何故か二人の視線が集まる。
「このねずみの細胞の一部はクリス、お前から拝借している。そのままじゃ全然うまくいかなかったから最終的にあの時の呪いを繋ぎとして使っているがな」
「な、何それ……」
じゃあそのねずみさんは、私の弟分みたいな、そんな感じ?
すんごい嫌なんですけど。
恐る恐る尋ねると、フォウさんは首を傾げて昔よりもほんの少しだけ伸ばされた青褐の髪をさらりと動かす。その動きは疑問からくるものではなく、視線を穏やかにこちらへ流すような自然なもの。
「クリスは天然の魔術紋様、きっと無いよね」
「え、えぇ、それが?」
「無いのに無理やり力を溜め込んじゃってるんだ。中身がどろどろしてる。だからコレを食べられないかなーって見てた」
そう言って、私の体を指差す。
と言う事は私の体の中身を食べる気、と?
ふっとあのネックレスを取り込もうとした場景が脳裏に過ぎる。あれはそのまままさに食べる仕草だった。つまり私も美味しくもぐもぐと……
「私のお腹、そんな食べるほどの贅肉なんてありませんよ!?」
ついでに言うと、胸にも無い。
「いやいやいや」
私の訴えに、ぶんぶんと手を振って否定する彼。想像したら怖くてちょっぴり涙目になっている私を、くすくす笑いながらその後も続けた。
「今のところ体に異常が無いなら無理して食べないよ。それにこの場合は本当に直接食べたりもしないって」
「そ、それならいいんですけど……」
体に入っていた力をゆっくり抜いて、私はほっと胸を撫で下ろす。
私の返答を聞いてから、フォウさんはスッと椅子から立ち上がって大きく背伸びをした。
こうして見ると本当に背が伸びたものである。私も今頃はエリオットさんの身長を越している予定だったと言うのに……少し悔しい。
背伸びの後に彼はまた私と視線を合わせて言う。
「本当はクリスが元気なら城下街を案内して欲しかったんだけど……怪我してるしあんまりお邪魔しちゃ悪いからもう行くね」
とても名残惜しそうに言うその姿に、何となく昔の彼の背中が重なった。
「あぁ、案内しましょうか?」
「ええぇ!?」
三つの目を丸くして、驚く彼。
「歩くくらいなら全然平気ですよ、スポーツとかはちょっと無理ですけど。毎日こうして寝てると体も鈍りますし、丁度動きたかったんで」
よっこらしょ、とベッドから足を下ろすと私は自然に立ち上がってとことこ歩いてやる。その様子をフォウさんは真剣な目で見て、
「嘘の色は無い……ほんとに大丈夫みたいだね。じゃあお願いしようかな!」
にこっと嬉しそうにこちらに向けられた笑顔は、少しだけ以前のように幼く見えた。
こちらとしてもフォウさんとはもう少し話したかった、と言うのも実はある。彼との約束を守れなかった事を、どう伝えようかな、と私は考えていた。
「一応外出許可貰ってきますね」
「一緒に行くよ」
そして廊下へ出て二つ離れた部屋に向かってノックを二回。
返事はライトさんはいつもしないので、それを待たずにドアを開けると床でトトトトーッと何か白い物が走っていったのが視界に入る。
「ああああああああ」
間違いなくライトさんの声なのだが、彼がこんな風に叫ぶのは珍しい。
「ご、ごめんなさい、お邪魔でしたか?」
「いや……いい。捕まえてくれれば」
「えっ?」
その言葉の意味をうまく理解出来なかった私は疑問符を投げかけた。が、フォウさんがそれにさらっと返答してくれる。
「コレだね? とりあえず掴んだけど」
彼のその手には、白くふわふわした小さなねずみ。こ、これはまさか動物実験中とかそういうアレだろうか。
フォウさんは私より先にライトさんの部屋に入ってそのねずみを彼に手渡した。
「助かった」
一言簡潔な礼を述べて、ライトさんはそのねずみを、先住のねずみが既に一匹いる籠に仕舞う。
「随分いじってあるねずみだけど、何に使うの?」
「! 分かるのか」
フォウさんの問いかけに驚くライトさん。やはり動物実験なのか……この人は診療もせずにこんな事ばかりしている気がする。
ライトさんは少し黙っていたが、意を決したように話し出した。
「丁度いいからクリスも聞け。俺はこのねずみに精霊を宿らせようと思っている」
衝撃の一言。
聞き間違えでは無いのか。彼は何と言った?
呆気に取られている私に、何故か二人の視線が集まる。
「このねずみの細胞の一部はクリス、お前から拝借している。そのままじゃ全然うまくいかなかったから最終的にあの時の呪いを繋ぎとして使っているがな」
「な、何それ……」
じゃあそのねずみさんは、私の弟分みたいな、そんな感じ?
すんごい嫌なんですけど。
更新日:2012-09-26 23:26:52