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「くぬぁぁぁぁぁぁぁ」
私はその竜の巨体を渾身の力を振り絞って振り投げた。
火事場の馬鹿力か。私、こんなに力あったんですね、と自分で自分にびっくりしてしまう。
竜は屋根から中庭へと落ちていった。それを追って私は広いその庭で再度竜にしがみつく。背中ではなく、口へ。両腕では回りきらない竜の口を、力だけで引くように閉じさせてから大声で助けを呼んだ。
「誰か竜を止められる騎乗者は居ないんですかっ!!」
普通の兵士は遠巻きに見ているか、壊れた豪邸の火を消しているか。出て来る者は居なかった。
口を閉じられて不快だったのだろう、口を掴んでいる私の腹を、竜が思いっきり爪で裂いて引き剥がしてくる。
「うあっ」
人間の手では傷もつかない変化中の私の体は、その爪には成す術も無く裂かれた。
人間ならそのまま二分割されていたかも知れない。太い剣で斬られたような傷を負うだけで済んだのは私だからだろう。
しかしそれで再度竜の口は自由となる。火炎を吐いて再びその場は火の海と化した。到着した魔法使いや魔術師が必死にそれを止めようとするが、焼け石に水。
「こんな手に余るものを、戦争の道具として使おうだなんて……」
愚かにも、程がある。
深く抉るような痛みに耐え、私は剣を杖がわりにして立ち上がると哀れな竜を見据えた。こんなところに居るべきではない、巨大生物の頂点を。
暴れ狂っていたはずの竜は、私の視線に気付いたかのようにこちらに顔を向けてピタリと止まる。互いに様子を伺って、動きは無い。
刹那、先に動いた竜が大きな口を開けて私に突進してきた。地響きを轟かせながら向かってくる竜に、私は通じるかも分からない剣先を向けて構え挑む。
この身を喰われるか否かの瀬戸際、辛うじて先に口の中に突き刺さる剣。竜は悲鳴のような叫びを上げたが、口の中といえど竜の硬さに負けて折角貰った名剣が折れた瞬間だった。
痛みに暴れ、口を閉じようとする竜。その中に深く入り込んだ私の右腕が食いちぎられそうになるが、それを拒むように竜の口の中に現れる光の剣。
「オオオオオオオオオ!!!!」
突如体内に出現した剣に内側から頭を突き破られ、竜はその雄叫びの後に、ずしんと体を沈ませて絶命する。
何が起こったのか、その場に居た誰もが分からなかっただろう。私はよろよろと目の前の竜の口に手をあてて無理やり開き、中にあった剣を引き抜いた。
それは炎のように赤い剣。
捻れるようなデザインのグリップに、ほとんど用を成さない柄頭。私の腰くらいまでの長さの刃は、燃えるような色の金属で出来ていた。比較的シンプルなデザインのそれは、持った瞬間に体に馴染む、と言うよりは自分の手足のような感覚だった。
「精霊武器……?」
と思ったが、精霊の声も聞こえないし、不思議な剣ではあるが精霊の力を帯びているような感覚は伝わってこない。
しかしこの剣は、私を護るようにあの場に現れた。どこから、と考えながら私は自分の手と体を見回すが、考えてもわかるはずなど無い。
ドッと押し寄せる痛みと疲労感からその場に膝を突くと、ヨシュアさんがこちらにやってきた。
「竜を……倒した、か……」
「ぎりぎりで、倒せちゃいました」
息切れしながら彼に答える。遅れて、エリオットさんをおんぶした状態でガウェインも掛けてきた。
「ううおおっ、すんげー!!」
倒れている竜を見て叫ぶガウェイン。
事態は収束したようだ、力が抜けると同時に私は失血からか、意識を失ってその場に倒れてしまう。
静かに目を覚ますと、どうやら宿のような一室に私は居た。板張りの天井がまず視界に入り、次に横を見るとエリオットさん。
目が合うと彼は握っていた私の右手を慌てて振り解いて、自分の手を背に引っ込める。
「お、おはようさん」
「……何日寝ていました?」
手を握って付き添うだなんて、彼のこの心配していた様子からすると、一晩では無いように思う。
「今は五日目の昼だ。後始末が大変な時にお前はぜーーんぶ寝てたわけだよ、いいご身分だな!」
「それは申し訳ないです」
体を起こして動こうとするが、久々の大怪我は思っていたよりも深いらしい、動かした痛みに顔が歪んだ。
「お前の傷は治せないんだから、大人しくしてろよ」
私はその竜の巨体を渾身の力を振り絞って振り投げた。
火事場の馬鹿力か。私、こんなに力あったんですね、と自分で自分にびっくりしてしまう。
竜は屋根から中庭へと落ちていった。それを追って私は広いその庭で再度竜にしがみつく。背中ではなく、口へ。両腕では回りきらない竜の口を、力だけで引くように閉じさせてから大声で助けを呼んだ。
「誰か竜を止められる騎乗者は居ないんですかっ!!」
普通の兵士は遠巻きに見ているか、壊れた豪邸の火を消しているか。出て来る者は居なかった。
口を閉じられて不快だったのだろう、口を掴んでいる私の腹を、竜が思いっきり爪で裂いて引き剥がしてくる。
「うあっ」
人間の手では傷もつかない変化中の私の体は、その爪には成す術も無く裂かれた。
人間ならそのまま二分割されていたかも知れない。太い剣で斬られたような傷を負うだけで済んだのは私だからだろう。
しかしそれで再度竜の口は自由となる。火炎を吐いて再びその場は火の海と化した。到着した魔法使いや魔術師が必死にそれを止めようとするが、焼け石に水。
「こんな手に余るものを、戦争の道具として使おうだなんて……」
愚かにも、程がある。
深く抉るような痛みに耐え、私は剣を杖がわりにして立ち上がると哀れな竜を見据えた。こんなところに居るべきではない、巨大生物の頂点を。
暴れ狂っていたはずの竜は、私の視線に気付いたかのようにこちらに顔を向けてピタリと止まる。互いに様子を伺って、動きは無い。
刹那、先に動いた竜が大きな口を開けて私に突進してきた。地響きを轟かせながら向かってくる竜に、私は通じるかも分からない剣先を向けて構え挑む。
この身を喰われるか否かの瀬戸際、辛うじて先に口の中に突き刺さる剣。竜は悲鳴のような叫びを上げたが、口の中といえど竜の硬さに負けて折角貰った名剣が折れた瞬間だった。
痛みに暴れ、口を閉じようとする竜。その中に深く入り込んだ私の右腕が食いちぎられそうになるが、それを拒むように竜の口の中に現れる光の剣。
「オオオオオオオオオ!!!!」
突如体内に出現した剣に内側から頭を突き破られ、竜はその雄叫びの後に、ずしんと体を沈ませて絶命する。
何が起こったのか、その場に居た誰もが分からなかっただろう。私はよろよろと目の前の竜の口に手をあてて無理やり開き、中にあった剣を引き抜いた。
それは炎のように赤い剣。
捻れるようなデザインのグリップに、ほとんど用を成さない柄頭。私の腰くらいまでの長さの刃は、燃えるような色の金属で出来ていた。比較的シンプルなデザインのそれは、持った瞬間に体に馴染む、と言うよりは自分の手足のような感覚だった。
「精霊武器……?」
と思ったが、精霊の声も聞こえないし、不思議な剣ではあるが精霊の力を帯びているような感覚は伝わってこない。
しかしこの剣は、私を護るようにあの場に現れた。どこから、と考えながら私は自分の手と体を見回すが、考えてもわかるはずなど無い。
ドッと押し寄せる痛みと疲労感からその場に膝を突くと、ヨシュアさんがこちらにやってきた。
「竜を……倒した、か……」
「ぎりぎりで、倒せちゃいました」
息切れしながら彼に答える。遅れて、エリオットさんをおんぶした状態でガウェインも掛けてきた。
「ううおおっ、すんげー!!」
倒れている竜を見て叫ぶガウェイン。
事態は収束したようだ、力が抜けると同時に私は失血からか、意識を失ってその場に倒れてしまう。
静かに目を覚ますと、どうやら宿のような一室に私は居た。板張りの天井がまず視界に入り、次に横を見るとエリオットさん。
目が合うと彼は握っていた私の右手を慌てて振り解いて、自分の手を背に引っ込める。
「お、おはようさん」
「……何日寝ていました?」
手を握って付き添うだなんて、彼のこの心配していた様子からすると、一晩では無いように思う。
「今は五日目の昼だ。後始末が大変な時にお前はぜーーんぶ寝てたわけだよ、いいご身分だな!」
「それは申し訳ないです」
体を起こして動こうとするが、久々の大怪我は思っていたよりも深いらしい、動かした痛みに顔が歪んだ。
「お前の傷は治せないんだから、大人しくしてろよ」
更新日:2012-09-22 01:37:19