- 148 / 565 ページ
女神の末裔 ~目覚めた内なる刃~
◇◇◇ ◇◇◇
ピリピリとしたその雰囲気に落ち着かず、私は数人だけが集まるには少し広すぎる室内をうろうろと歩いていた。
聞き間違いでなければ目の前に居るこの男の人達は、私の縁談相手、という事らしい。そういう気が全く無いのにそういう目で見ざるを得ない状況で、更に彼等を見る表情が強張るのが分かる。
エリオットさんのせいで見事に皆が口を噤んでいる今、早くレイアさんが戻ってきてくれないかと私は切実に願っていた。
そこへ、ようやく食事が届けられる。続いてレイアさんも入ってきた。一同ほっと胸を撫で下ろす瞬間だったのではないだろうか。
レイアさんはメイドさんが食事を並べる様を見届けた後に、やっとこちらの空気がとんでもなく重い事に気がついてくれたようだった。
「……あまり打ち解けられてはいないようですね」
あまり、どころじゃありません。
「そりゃまぁ、初対面ですし仕方ないかと……」
苦笑いでフォローを入れる私。
彼女は少しの間を置いてから、テキパキと私とその相手方の紹介をしていってくれた。相手は全部で五人。家柄とかも説明されたけど覚えられなかったので、とりあえず私の中で一致しているのは辛うじて顔と名前程度である。でも多分一週間後に会ったら名前が出てこない気がする。
一通りの紹介を終えて貰った後、エリオットさんは、彼は彼で縁談の女性のお相手をしてこないといけないらしく、部屋を出て行った。ずっと張り詰めていた空気がここでようやく和らぐ。
「はぁ……」
大きく溜め息を吐いたのは最初にエリオットさんにガン飛ばされていた金髪碧眼の美男子。何故か男性陣の間には同志のような雰囲気が漂っていて、その右隣に居た人がトパーズのような瞳を細くして彼の肩をぽんぽん、と優しく叩いていた。
その光景を見て流石にレイアさんも疑問を持ったようで、私の傍に寄ってきてそっと耳打ちする。
「何かあったのかい?」
「うーん……エリオットさんが、爵位や家柄はどーでもいいから面白い事言えって無茶振りしてたんですよ」
「……何をしているんだ、あの人は」
げんなりした表情で脱力するレイアさん。そうもなりますよね。
と、それはさておき、私だって自分の事を考えなくてはいけない。寝耳に水と言った縁談の話に、正直ついていけてないのだから。
とりあえず皆で席に着き、飲み物や食事に手を出し始めた頃に、私は思い切って切り出してみた。
「ところで、本当に何も聞かずに連れて来られたんですけど、縁談って事はそろそろ結婚しなさいよーって事です?」
傍で立って見守っていたレイアさんが、少し戸惑いながらもそれに答える。
「まぁそういう事だよ。今回のエリザ王女のようなケースもあるけれど、普通はそろそろ決めておかないと嫁に行き遅れるものだからね」
「ははぁ」
そんなものなのか、と思いつつ目の前の鶏肉を豪快にフォークで刺す。それを見ながら縁談相手である男性の一人が少し咳き込んだ。他の人も少し呆気に取られているようだが、気にせず堂々と私はお肉にかぶりついた。美味しいです。
「クリス、その、もう少し上品に……」
レイアさんが困った顔で私に静かに忠告をする。が、
「取り繕ってもボロ出ちゃいますから。それに結婚するのであれば子供も作らないといけないでしょう? 無理ですよ私」
私は口の周りについたソースをぺろりと舐めて、縁談をぶち壊す気でそれを発言した。
「そ、それはどう言った意味で……」
深い紺の瞳を曇らせて向かいの一人が私に恐る恐る声を掛けてくる。
「試した事はありませんが、同種族以外とは子供を授かれないと聞いています。見た目は変わりませんけど皆さんと私の種族は違いますよ」
その場に居た誰もが絶句する。
そういう表情を向けられるのはいつも失礼なエリオットさんで慣れっこだけれど、折角予め言ってあげたのにここまで衝撃的な顔をしなくても、と私は思った。
特に一番酷い顔をしていたのは、お相手候補だった男の人達よりも、隣に立っていたレイアさん。
昔から私を知っている分ビックリしたのかも知れないけれど、それにしては少し様子がおかしいな、と感じる。
まぁどちらにしても私に結婚なんて無縁なものなのだ。
ハッキリ言っておけばもう話は来ないだろう、と考えながら彼等をスルーして、大きなハムをぱくんと口の中に突っ込んだ。
ピリピリとしたその雰囲気に落ち着かず、私は数人だけが集まるには少し広すぎる室内をうろうろと歩いていた。
聞き間違いでなければ目の前に居るこの男の人達は、私の縁談相手、という事らしい。そういう気が全く無いのにそういう目で見ざるを得ない状況で、更に彼等を見る表情が強張るのが分かる。
エリオットさんのせいで見事に皆が口を噤んでいる今、早くレイアさんが戻ってきてくれないかと私は切実に願っていた。
そこへ、ようやく食事が届けられる。続いてレイアさんも入ってきた。一同ほっと胸を撫で下ろす瞬間だったのではないだろうか。
レイアさんはメイドさんが食事を並べる様を見届けた後に、やっとこちらの空気がとんでもなく重い事に気がついてくれたようだった。
「……あまり打ち解けられてはいないようですね」
あまり、どころじゃありません。
「そりゃまぁ、初対面ですし仕方ないかと……」
苦笑いでフォローを入れる私。
彼女は少しの間を置いてから、テキパキと私とその相手方の紹介をしていってくれた。相手は全部で五人。家柄とかも説明されたけど覚えられなかったので、とりあえず私の中で一致しているのは辛うじて顔と名前程度である。でも多分一週間後に会ったら名前が出てこない気がする。
一通りの紹介を終えて貰った後、エリオットさんは、彼は彼で縁談の女性のお相手をしてこないといけないらしく、部屋を出て行った。ずっと張り詰めていた空気がここでようやく和らぐ。
「はぁ……」
大きく溜め息を吐いたのは最初にエリオットさんにガン飛ばされていた金髪碧眼の美男子。何故か男性陣の間には同志のような雰囲気が漂っていて、その右隣に居た人がトパーズのような瞳を細くして彼の肩をぽんぽん、と優しく叩いていた。
その光景を見て流石にレイアさんも疑問を持ったようで、私の傍に寄ってきてそっと耳打ちする。
「何かあったのかい?」
「うーん……エリオットさんが、爵位や家柄はどーでもいいから面白い事言えって無茶振りしてたんですよ」
「……何をしているんだ、あの人は」
げんなりした表情で脱力するレイアさん。そうもなりますよね。
と、それはさておき、私だって自分の事を考えなくてはいけない。寝耳に水と言った縁談の話に、正直ついていけてないのだから。
とりあえず皆で席に着き、飲み物や食事に手を出し始めた頃に、私は思い切って切り出してみた。
「ところで、本当に何も聞かずに連れて来られたんですけど、縁談って事はそろそろ結婚しなさいよーって事です?」
傍で立って見守っていたレイアさんが、少し戸惑いながらもそれに答える。
「まぁそういう事だよ。今回のエリザ王女のようなケースもあるけれど、普通はそろそろ決めておかないと嫁に行き遅れるものだからね」
「ははぁ」
そんなものなのか、と思いつつ目の前の鶏肉を豪快にフォークで刺す。それを見ながら縁談相手である男性の一人が少し咳き込んだ。他の人も少し呆気に取られているようだが、気にせず堂々と私はお肉にかぶりついた。美味しいです。
「クリス、その、もう少し上品に……」
レイアさんが困った顔で私に静かに忠告をする。が、
「取り繕ってもボロ出ちゃいますから。それに結婚するのであれば子供も作らないといけないでしょう? 無理ですよ私」
私は口の周りについたソースをぺろりと舐めて、縁談をぶち壊す気でそれを発言した。
「そ、それはどう言った意味で……」
深い紺の瞳を曇らせて向かいの一人が私に恐る恐る声を掛けてくる。
「試した事はありませんが、同種族以外とは子供を授かれないと聞いています。見た目は変わりませんけど皆さんと私の種族は違いますよ」
その場に居た誰もが絶句する。
そういう表情を向けられるのはいつも失礼なエリオットさんで慣れっこだけれど、折角予め言ってあげたのにここまで衝撃的な顔をしなくても、と私は思った。
特に一番酷い顔をしていたのは、お相手候補だった男の人達よりも、隣に立っていたレイアさん。
昔から私を知っている分ビックリしたのかも知れないけれど、それにしては少し様子がおかしいな、と感じる。
まぁどちらにしても私に結婚なんて無縁なものなのだ。
ハッキリ言っておけばもう話は来ないだろう、と考えながら彼等をスルーして、大きなハムをぱくんと口の中に突っ込んだ。
更新日:2012-09-20 23:34:46