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相変わらず手厳しかった。何のオブラートにも包んでくれない、棘のような言葉。
俺はどうせ喋ってもまた遮られると思ったのでライトの次の発言を待つ。
ライトは額に手をあててテーブルに肘をつくと、視線だけ俺から外して話し出した。
「……気付いていないとでも思ったか。お前は度々クリスに落胆の表情を見せている。子どもだって馬鹿じゃない、特に大人の顔色ってのには敏感なんだぞ」
俺はちび、とジョッキに口をつけて乾いた喉を僅かに潤す。
流石にこの状況では勢いよく飲むなんて出来なくて、酒が最高に進まない。逆にライトは酒を煽る事で切り出しにくい話を話そうとしているようだった。
ライトの言う通り、確かに指摘されたそれは否定する事など出来ない、事実。
幼さを残したまま大人にならないアイツに、勝手に期待をして、勝手にがっかりと肩を落としている。ローズの妹、というアイツの肩書きが、俺にどうしてもそんな期待を寄せさせてしまうのだ。
「お前の好みには成長しなかったかも知れないし、がっかりしてしまう気持ちも分からないでも無い。だがそこへそんな話が舞い込んできたらどうだ? 長い間面倒を見てくれていた保護者が、成人すると同時に自分を捨てた。やはり自分は邪魔だったのか。そう思ってしまうとは考えないのか」
「言われてみれば……確かにそうかもな」
「先を考えれば縁談自体は悪い事では無い。だが捨てられたと感じないように、もう少しうまく接してやってくれないか」
ほんっと、柄にも無い事を言っている。ライトの口からそんな台詞を聞かされたらむず痒くて仕方ない。
けれど、そんなコイツにここまで言わせたのだから、俺ももう少しクリスに気を遣ってやらないと申し訳が無いとも思う。
「分かったよ、善処する」
俺はその夜、言い合いをしながらも一生付き合っていくであろう親友と、久々に朝まで飲み明かした。
そして晩餐会当日。悲しいかな、俺も縁談があるわけで。そのお嬢様方のお相手をせにゃならんので渋々だが身なりをいつもよりは整えて望んだ。
襟の内側にレースの施されたテイルコートに、あまり好きじゃないホワイトタイを着用し白蝶貝のカフリンクスとスタッドを留め、窮屈だけど我慢をする。
「お似合いですよ」
会場の護衛に臨む一人のレイアも、流石にこの場では鎧は着ずに腰に剣だけ携えてディナージャケットを着ていた。それはお前の正装じゃないはずなんだが、どうしてそれを着る。
会場である広間に入ると大勢の人。少し遅れて来たにも関わらず周囲はこちらを見るなり席を立って挨拶をして出迎えてくれた。と言っても今日の主賓は実は姉上。長年我侭を言っていたが、ようやく貰い手が決まったらしく、その挨拶があったらしい。
らしい、というのは面倒だったからそのあたりは体調が悪い、とサボっていたのだ。レイアが引っ張り出さなければもう少し遅れて入場していたと思う。
「クリスはどこだろうな……」
「左奥手のテーブルで多分黙々と食事を頬張っているかと。王子が来られないので落ち着かないようでしたよ」
「そりゃそーだわな」
人が多くてよく見えない。が、とりあえず俺には俺の割り当てられた席があるはずなのでそちらに着席し、会が進むのをぼーっと待った。
やがてある程度自由に動ける時間になると、俺は先に一応お見合い相手のお嬢さん達に挨拶だけして回る。この後このうちの誰か一人とは踊っておかないといけないから品定めをしつつ、な。
そろそろクリスのところに行ってやらないと、アイツ一人で固まってるんじゃないだろうか。そう思って周囲と挨拶をかわしつつもクリスの席の方へゆっくりと近づく。
しかしそこは俺の思っていた状況とは随分違っていた。妙に人の視線が集まっているその中心部には、数人の男に話しかけられて戸惑っている水色の髪の少女が一人。目の前のご馳走を食べたいのに、話しかけられて食べる手を止めざるをえない、そんな感じでキョロキョロしている。
ここまではいつものクリスと変わらないが、その存在感で周囲の目を集めていた。俺はただ驚いて、開いた口が塞がらない。
俺はどうせ喋ってもまた遮られると思ったのでライトの次の発言を待つ。
ライトは額に手をあててテーブルに肘をつくと、視線だけ俺から外して話し出した。
「……気付いていないとでも思ったか。お前は度々クリスに落胆の表情を見せている。子どもだって馬鹿じゃない、特に大人の顔色ってのには敏感なんだぞ」
俺はちび、とジョッキに口をつけて乾いた喉を僅かに潤す。
流石にこの状況では勢いよく飲むなんて出来なくて、酒が最高に進まない。逆にライトは酒を煽る事で切り出しにくい話を話そうとしているようだった。
ライトの言う通り、確かに指摘されたそれは否定する事など出来ない、事実。
幼さを残したまま大人にならないアイツに、勝手に期待をして、勝手にがっかりと肩を落としている。ローズの妹、というアイツの肩書きが、俺にどうしてもそんな期待を寄せさせてしまうのだ。
「お前の好みには成長しなかったかも知れないし、がっかりしてしまう気持ちも分からないでも無い。だがそこへそんな話が舞い込んできたらどうだ? 長い間面倒を見てくれていた保護者が、成人すると同時に自分を捨てた。やはり自分は邪魔だったのか。そう思ってしまうとは考えないのか」
「言われてみれば……確かにそうかもな」
「先を考えれば縁談自体は悪い事では無い。だが捨てられたと感じないように、もう少しうまく接してやってくれないか」
ほんっと、柄にも無い事を言っている。ライトの口からそんな台詞を聞かされたらむず痒くて仕方ない。
けれど、そんなコイツにここまで言わせたのだから、俺ももう少しクリスに気を遣ってやらないと申し訳が無いとも思う。
「分かったよ、善処する」
俺はその夜、言い合いをしながらも一生付き合っていくであろう親友と、久々に朝まで飲み明かした。
そして晩餐会当日。悲しいかな、俺も縁談があるわけで。そのお嬢様方のお相手をせにゃならんので渋々だが身なりをいつもよりは整えて望んだ。
襟の内側にレースの施されたテイルコートに、あまり好きじゃないホワイトタイを着用し白蝶貝のカフリンクスとスタッドを留め、窮屈だけど我慢をする。
「お似合いですよ」
会場の護衛に臨む一人のレイアも、流石にこの場では鎧は着ずに腰に剣だけ携えてディナージャケットを着ていた。それはお前の正装じゃないはずなんだが、どうしてそれを着る。
会場である広間に入ると大勢の人。少し遅れて来たにも関わらず周囲はこちらを見るなり席を立って挨拶をして出迎えてくれた。と言っても今日の主賓は実は姉上。長年我侭を言っていたが、ようやく貰い手が決まったらしく、その挨拶があったらしい。
らしい、というのは面倒だったからそのあたりは体調が悪い、とサボっていたのだ。レイアが引っ張り出さなければもう少し遅れて入場していたと思う。
「クリスはどこだろうな……」
「左奥手のテーブルで多分黙々と食事を頬張っているかと。王子が来られないので落ち着かないようでしたよ」
「そりゃそーだわな」
人が多くてよく見えない。が、とりあえず俺には俺の割り当てられた席があるはずなのでそちらに着席し、会が進むのをぼーっと待った。
やがてある程度自由に動ける時間になると、俺は先に一応お見合い相手のお嬢さん達に挨拶だけして回る。この後このうちの誰か一人とは踊っておかないといけないから品定めをしつつ、な。
そろそろクリスのところに行ってやらないと、アイツ一人で固まってるんじゃないだろうか。そう思って周囲と挨拶をかわしつつもクリスの席の方へゆっくりと近づく。
しかしそこは俺の思っていた状況とは随分違っていた。妙に人の視線が集まっているその中心部には、数人の男に話しかけられて戸惑っている水色の髪の少女が一人。目の前のご馳走を食べたいのに、話しかけられて食べる手を止めざるをえない、そんな感じでキョロキョロしている。
ここまではいつものクリスと変わらないが、その存在感で周囲の目を集めていた。俺はただ驚いて、開いた口が塞がらない。
更新日:2012-09-21 11:06:51