• 141 / 565 ページ

挿絵 400*400

 そこから添削された書類に目を通す事しばらくして、またノックの音がする。
 今度こそレイアだろうな、と腹を括って返事をするとこれまた予想通りレイアだった。
 最近の国内は争いも無く穏やかで、彼女はその武術の腕を揮う事なく城内にて書類整理を務めている。それでも、その天性のカリスマ性とそれに伴う実力が、彼女に出世の道を軽快に歩ませていた。
 レイアは相変わらず綺麗にまとめられたポニーテールを靡かせながら、俺の座っている机の目の前までやってくると、背表紙の厚さ二センチ程度のハードカバーの本を沢山机の上に並べる。

「これは……?」

 いつもの提出書類絡みの物では無い。

「お見合い写真です。王子に強く言える人が少ないので、こんな物まで私が持ってくる事になっているのですよ」

「そりゃどうも」

 それだけ言って、俺は並べられたお見合い写真を丁寧に一冊ずつ右手に重ねて束ね、席を立つ。そしてそれをゴミ箱へぽいっと……しようとした手をレイアががっちりと止めた。

「せめて中を見るなりして頂きたいのですがね、お、う、じ!!」

 力任せにお見合い写真を取り上げると、彼女はまたそれを机の上に並べる。

「仕方ねーなぁ」

 体裁だけは繕ってやるか、と俺は一冊ずつ流し見ていった。
 大体、令嬢なんてのは本っ当に俺の好みの女が少ないんだ。大抵が若いうちに嫁ぐから、どれもガキみたいな女ばかり。世間は若い女を持て囃すかも知れないが、俺は心身共に成熟したお姉様が好きなの。あ、別に年上じゃなくてもいいんだぜ、そういう雰囲気があるなら年下でも問題無い。
 と、何冊か開いたところで写真がむさくるしく……

「おい、これ男じゃねーのか」

 何で俺が男とお見合いしなきゃならんのだ。どうせ間違えて混ざったのだろう。呆れ顔でレイアに突き返すと彼女は何故かそれを押し戻す。

「そちらもご覧になってください」

「意味わかんねえ!」

「王子ではなくクリス宛の縁談ですよ。あの子は身寄りが無いので少々王子の名前を借りて取り付けましたがね」

 な、何て言ったコイツ?
 突然の事に開いた口が塞がらない俺に、彼女は続けた。

「クリスは先日成人したはずでしょう。一応それを見計らって以前から話を進めていました。良い噂を聞かない者は既に除外してありますので安心してください」

 ……そういや先の訪問先で『今日で十六になりましたー!』とか騒いでた気がしなくもない。どうでもいいから適当におめでとうとだけ言って、それ以後はスルーした記憶が蘇ってくる。
 ほっとんど成長の兆しが見られないアイツだけど、一応成人したんだな。縁談なんて言う話が浮上してきたおかげで改めて俺は事実を再確認した。

「しかし、何でそんな事までしてくれてるんだ?」

「いつまでも王子に保護者で居られては困る、という事です」

 淡々と話されるその言葉に、俺はグッと押し黙る。
 ローズの遺言を遂行するのにこの四年間、俺の王子としての立場は便利なものだった。だが、しがらみもこの通り多いってワケだ。
 今に始まった事じゃないが不愉快な気分になり、自然と出てしまった舌打ちを誤魔化すように、俺は顔をレイアから背ける。
 彼女は深く溜め息を吐いて、聞きたくも無い話を再開した。

「八日後に晩餐会があります。今回はクリスもお連れください。その時にその写真に載っている方々もいらっしゃいますので、その後また返答をよろしくお願い致します」

「八日後? って事は次の訪問はその分延ばされるって事か」

「そうですよ、縛ってでも参加させますから逃げようなどと思わないでください……ねっ!」

 ガシッと俺の肩を掴んで、正面から見据えるレイア。凛々しい琥珀の瞳が、俺を映す。

「ところで王子、そのスカーフお似合いですよ」

 それは眉間に皺を寄せながら言う台詞じゃないんだぜ。何でそんな顔をして俺を見るんだ。

「だ、だろ?」

 声が上擦りそうになるのを必死に抑えながら答える俺。
 彼女はにっこりと口元だけ笑ってまた口を開く。目は笑っていない。

「えぇ、特に表に出るような公務があるわけでも無いのにキチンとスカーフを締めるだなんて、珍しくて目を引きます」

「あれだ、朝ちょっと寒かったから……」

 と、そんな言い訳をした直後にレイアが俺のスカーフを即座に解いた。空気に晒される首元に、彼女の視線が集中する。

「失敬、解けてしまいました。巻き直して差し上げましょう」

「じ、自分でや……ぐぇっ!」

 思いっきり締められたスカーフに圧迫されて、俺はその先の言葉を発する事は適わなかったのだった。

更新日:2012-09-14 14:53:26

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook