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自分でやる身支度と食事を済ませてから、俺は欠伸をしつつ報告書類のダメ出しを貰いに行く。
聞く前からダメ出しされると分かっているのは、今まで一度たりとも一発OKになった事が無いからだ。レイアの書類添削は本当に鬼である。どこかで紛争でも起きてアイツを戦闘要員として駆り出してくれないものか……
まだ少し朝は早く、もう居るのかなぁと思いながら執務室に行くと、そこにはレイアでは無い別の人物が居た。
「おはようございます、王子」
鋭い目元と漆黒の髪に瞳。短くも自然な流れで切られたショートカットは彼女にとても良く似合っていて、普通サイズのその胸はシングルのウエストコートと黒いレギュラーカラーのシャツにさり気ない曲線を作っていた。体のラインを出しつつも品良く着こなしたその下には、太ももにぴったりと合った白いトラウザーズ。これがまた格好いい。
彼女はレイア直属の部下なのだが、今や二人はツートップとしてメイド達の憧れの的である。
「流石に早いなクラッサは」
「レイア准将がいらっしゃる前に準備をしなくてはいけませんから」
俺に失礼が無いようにだろう、手をきちんと止めてこちらに体を向けながらも淡々と話す彼女。
「そっか。まだ報告書は返ってきて無いのか?」
「はい、申し訳ございません」
うーん、微妙に時間が空いてしまうな。
少し頬を掻いて考える。仕方ない、先に今回の訪問先で得た遺物の照合をしてしまおう。
「分かった、ありがとさん」
準備をしている最中の彼女の時間を割いてもいけない。さっさとこの場を立ち去ろうと俺は手をあげて立ち去ろうとした。
「あ」
そこへクラッサが短く声をあげる。
「ん、どうした?」
「書類が戻り次第お持ち致しますので、行き先をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、じゃあ自分の部屋に居る。よろしく頼む」
本当は機密書の保管された書室に篭もる予定だったが、書類を持ってきてくれるのなら彼女が来られるように少しだけ本を持ってきて自室で作業する事にしよう。本当は持ち出し禁止なんだけど、誰もそんな事を気にしたりなんかしない。
軽く挨拶だけしてその場を後にし、俺は書室から何冊か本を持ってきて自室で遺物と睨めっこ。
遺物照合の何が一番しんどいって、古代文字の翻訳がキツイのなんの。どうにかコレはコレかな? とあたりをつける事が出来ても、その後にコレ結局何なんだ? とまたその続きを翻訳しなくてはいけない。こんな手書きの古い本に翻訳書があるわけもなく、城での教育の範疇に無かったその慣れない字に俺は毎回手間取っていた。
「あー、休憩しよ」
椅子の背もたれに寄りかかって顔を天井へ向け、口を開けてだらだらする。
そんな気を抜きまくった瞬間に、部屋にノックの音が響いた。少しビクッとしつつ、俺は返事をする。
「はいはーい」
「失礼致します」
それは予想通り、添削書類を持ってきたクラッサだった。
「書類をお持ち致しました。今のうちに目を通した方が賢明かと思われますよ。後ほどレイア准将が直接指摘されるそうです」
「そ、そうか」
まーたくどくど言われるのかと思うと、今から気が重い。折角胸も大きいし美人なのに、あの性格だけはどうにかならないものか。
俺の表情を見てクラッサは少しだけその無表情を涼しげな笑みに変えて言う。
「お察し致します」
「ありがと……」
「それと、レイア准将が来られる前にスカーフか何かを首に巻く事をお勧め致します」
俺は彼女の言葉の意図が一瞬理解できず、その先の説明を求めるように首を傾げ、それを受けてクラッサが付け加えた。
「昨晩の情事の痕跡と思われる痣がございますよ」
ちょんちょん、と彼女は自分の首の左側を人差し指でつついて俺に指し示す。
やっぱり一瞬理解出来ず、でも一秒後には頭が働いてきて、理解したと同時にさぁっと血の気が引くのが自分でも分かった。
あのメイド、やってくれる。気を遣って痣を隠す服を着付けさせるのではなく、敢えてそれが見える服を選びやがったな……!
もしクラッサが指摘してくれなかったら、と思うとそれだけで色んな物が縮み上がりそうである。彼女の勇気ある突っ込みに感謝しなくてはいけない。
「本当に助かった、適当に巻くよ」
「お役に立てて何よりです」
フッ、と目を細める彼女を見ながら、うーんそういう表情されると堪らんなぁ、なんて全く懲りていない浮ついた事を思った。
聞く前からダメ出しされると分かっているのは、今まで一度たりとも一発OKになった事が無いからだ。レイアの書類添削は本当に鬼である。どこかで紛争でも起きてアイツを戦闘要員として駆り出してくれないものか……
まだ少し朝は早く、もう居るのかなぁと思いながら執務室に行くと、そこにはレイアでは無い別の人物が居た。
「おはようございます、王子」
鋭い目元と漆黒の髪に瞳。短くも自然な流れで切られたショートカットは彼女にとても良く似合っていて、普通サイズのその胸はシングルのウエストコートと黒いレギュラーカラーのシャツにさり気ない曲線を作っていた。体のラインを出しつつも品良く着こなしたその下には、太ももにぴったりと合った白いトラウザーズ。これがまた格好いい。
彼女はレイア直属の部下なのだが、今や二人はツートップとしてメイド達の憧れの的である。
「流石に早いなクラッサは」
「レイア准将がいらっしゃる前に準備をしなくてはいけませんから」
俺に失礼が無いようにだろう、手をきちんと止めてこちらに体を向けながらも淡々と話す彼女。
「そっか。まだ報告書は返ってきて無いのか?」
「はい、申し訳ございません」
うーん、微妙に時間が空いてしまうな。
少し頬を掻いて考える。仕方ない、先に今回の訪問先で得た遺物の照合をしてしまおう。
「分かった、ありがとさん」
準備をしている最中の彼女の時間を割いてもいけない。さっさとこの場を立ち去ろうと俺は手をあげて立ち去ろうとした。
「あ」
そこへクラッサが短く声をあげる。
「ん、どうした?」
「書類が戻り次第お持ち致しますので、行き先をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、じゃあ自分の部屋に居る。よろしく頼む」
本当は機密書の保管された書室に篭もる予定だったが、書類を持ってきてくれるのなら彼女が来られるように少しだけ本を持ってきて自室で作業する事にしよう。本当は持ち出し禁止なんだけど、誰もそんな事を気にしたりなんかしない。
軽く挨拶だけしてその場を後にし、俺は書室から何冊か本を持ってきて自室で遺物と睨めっこ。
遺物照合の何が一番しんどいって、古代文字の翻訳がキツイのなんの。どうにかコレはコレかな? とあたりをつける事が出来ても、その後にコレ結局何なんだ? とまたその続きを翻訳しなくてはいけない。こんな手書きの古い本に翻訳書があるわけもなく、城での教育の範疇に無かったその慣れない字に俺は毎回手間取っていた。
「あー、休憩しよ」
椅子の背もたれに寄りかかって顔を天井へ向け、口を開けてだらだらする。
そんな気を抜きまくった瞬間に、部屋にノックの音が響いた。少しビクッとしつつ、俺は返事をする。
「はいはーい」
「失礼致します」
それは予想通り、添削書類を持ってきたクラッサだった。
「書類をお持ち致しました。今のうちに目を通した方が賢明かと思われますよ。後ほどレイア准将が直接指摘されるそうです」
「そ、そうか」
まーたくどくど言われるのかと思うと、今から気が重い。折角胸も大きいし美人なのに、あの性格だけはどうにかならないものか。
俺の表情を見てクラッサは少しだけその無表情を涼しげな笑みに変えて言う。
「お察し致します」
「ありがと……」
「それと、レイア准将が来られる前にスカーフか何かを首に巻く事をお勧め致します」
俺は彼女の言葉の意図が一瞬理解できず、その先の説明を求めるように首を傾げ、それを受けてクラッサが付け加えた。
「昨晩の情事の痕跡と思われる痣がございますよ」
ちょんちょん、と彼女は自分の首の左側を人差し指でつついて俺に指し示す。
やっぱり一瞬理解出来ず、でも一秒後には頭が働いてきて、理解したと同時にさぁっと血の気が引くのが自分でも分かった。
あのメイド、やってくれる。気を遣って痣を隠す服を着付けさせるのではなく、敢えてそれが見える服を選びやがったな……!
もしクラッサが指摘してくれなかったら、と思うとそれだけで色んな物が縮み上がりそうである。彼女の勇気ある突っ込みに感謝しなくてはいけない。
「本当に助かった、適当に巻くよ」
「お役に立てて何よりです」
フッ、と目を細める彼女を見ながら、うーんそういう表情されると堪らんなぁ、なんて全く懲りていない浮ついた事を思った。
更新日:2012-09-21 11:34:56