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こんな事を考えても仕方ないけれど、後悔ばかりが積もる。
私達は、お互いの足を引っ張り合いながら、本当に失敗ばかりしていた。目的を同じとしていながら、何ていう様なのだろう。
「ようやく見出せた光も目の前で消えた。馬鹿馬鹿しい話だよな、俺の生きてきた道には今何も残って無いんだぜ」
「そんな事……」
無い、と言いたい。けれど言えない。残っていないわけでは無いが、その残った物は彼にとって全く価値の無い物なのだと思う。それはきっと、残っていないのと同意だ。
風を遮るような大きな建物の無い墓地は、強く風が吹き荒れる。備えてあった花の花弁が少しずつ宙へ散って行った。
「これじゃ俺は、生きてたのに死んでたのと変わらないじゃないか」
そう、乾いた声で吐き捨てる。
「そ、それは違いますよ!」
「そうか? 俺はそうは思えない」
そう言って彼は短剣を懐から取り出した。綺麗な装飾のなされた鞘と柄が太陽の光で輝いている。エリオットさんが短剣なんて持っていた記憶は無いけれど、何故ここでそれを出す……と思った瞬間脳裏に最悪の考えが過ぎった。
私は思わず彼の手から短剣を取り上げていた。
「なっ!」
驚くエリオットさんに次の言葉を投げかける。
「今止めても結局後で自殺されては困ります。それならいっそ……」
短剣を鞘からスッと抜き、私は溢れる涙を必死に堪えて、波打った剣身を彼に向け構えた。
「大罪を犯させるくらいなら、私の手で楽にしてあげましょう……っ!」
「何かよく分からないけど、殺される!?」
猛ダッシュで逃げ出したエリオットさんを、私は刃物片手に追いかける。ちょこまかと逃げ回る彼に大きな声で呼びかけた。
「一瞬で済みますから!!」
「いや、待てよ! 誰が自殺するんだよ! 逃げてんだろ俺!!」
と、あれ?
「……それもそうですね、何で逃げるんです?」
「むしろ俺はどうしてお前がそんな事をしようとしてるのか聞きたいわ!」
散々追いかけられて息を切らすエリオットさん。私も少し疲れて、逆に頭が冴えてきた。
あの状況で刃物が出てきたから思わず行動に出てしまったけれど、じゃあ自殺する気では無いとしたらコレは?
「えーっと、この短剣は何ですか?」
「……お前にやろうと思ってたローズの形見だよ」
そしてエリオットさんは頭をぽりぽりと掻いて、申し訳無さそうにこちらを見る。
「そんな死にそうな顔してたか、俺」
私が無言でコクコクと頷くと、彼は少し伏目がちになって溜め息を吐いた。そして姉のものだと思われる墓へ視線をやって呟く。
「死にたくても死ねないっつの、やらなきゃいけない事が出来たからな」
その顔は少し悲しそうで、でもどこか嬉しそうにも見えた。
「やらなきゃいけない事、ですか?」
想像のつかない彼の今後の目的とやらに疑問符を投げかけると、エリオットさんは笑みを浮かべてこちらを見やる。その表情は、姉が昔私によく見せていたような、優しくて、それでいて何かもう一つ深く強い意志が込められているような笑み。
「遺言でお前のお守りを頼まれたんだよ」
その言葉で、何故エリオットさんが姉さんと同じような顔を私に向けたのかすぐに理解できた。
そしてそんな顔をして見るという事は、エリオットさんはもう既に姉さんと同じような気持ちでいる、と言う事になる。
つい先刻まで敵意を向け合ったりしていた仲だと言うのに心からそこまで出来るだなんて、どれだけ姉さんの事を想っていたのだろうか。
「……エリオットさん……」
「どうした? 嬉しくて涙が出るか?」
私は心に浮かんできた言葉を言うべきか一瞬迷ったが、ここは敢えて言葉に出す事を選んだ。
「いえ、私のお守りを出来るほど大人になれていない人が、よくそんな顔でそんな事を言えたものだと思っただけです……」
「殊勝な顔をして言うようなセリフじゃねーぞ!?」
勢いよくツッコミを入れてくるエリオットさんに、私はにっこりと笑顔を返す。
「ありがとうございます、気持ちだけは頂いておきますよ」
「それもそんな屈託の無い笑顔で言うようなセリフじゃねーから!!」
こみ上げてくる気持ちに素直になって、ふふふと笑った。でも少し気恥ずかしくて、風に靡く髪を掻き揚げてからエリオットさんに背を向けると、彼は私に向かって呟く。
「……おいクリス、服が後ろから見ると凄い事になってるぞ」
「気にしたら負けです」
私達は、お互いの足を引っ張り合いながら、本当に失敗ばかりしていた。目的を同じとしていながら、何ていう様なのだろう。
「ようやく見出せた光も目の前で消えた。馬鹿馬鹿しい話だよな、俺の生きてきた道には今何も残って無いんだぜ」
「そんな事……」
無い、と言いたい。けれど言えない。残っていないわけでは無いが、その残った物は彼にとって全く価値の無い物なのだと思う。それはきっと、残っていないのと同意だ。
風を遮るような大きな建物の無い墓地は、強く風が吹き荒れる。備えてあった花の花弁が少しずつ宙へ散って行った。
「これじゃ俺は、生きてたのに死んでたのと変わらないじゃないか」
そう、乾いた声で吐き捨てる。
「そ、それは違いますよ!」
「そうか? 俺はそうは思えない」
そう言って彼は短剣を懐から取り出した。綺麗な装飾のなされた鞘と柄が太陽の光で輝いている。エリオットさんが短剣なんて持っていた記憶は無いけれど、何故ここでそれを出す……と思った瞬間脳裏に最悪の考えが過ぎった。
私は思わず彼の手から短剣を取り上げていた。
「なっ!」
驚くエリオットさんに次の言葉を投げかける。
「今止めても結局後で自殺されては困ります。それならいっそ……」
短剣を鞘からスッと抜き、私は溢れる涙を必死に堪えて、波打った剣身を彼に向け構えた。
「大罪を犯させるくらいなら、私の手で楽にしてあげましょう……っ!」
「何かよく分からないけど、殺される!?」
猛ダッシュで逃げ出したエリオットさんを、私は刃物片手に追いかける。ちょこまかと逃げ回る彼に大きな声で呼びかけた。
「一瞬で済みますから!!」
「いや、待てよ! 誰が自殺するんだよ! 逃げてんだろ俺!!」
と、あれ?
「……それもそうですね、何で逃げるんです?」
「むしろ俺はどうしてお前がそんな事をしようとしてるのか聞きたいわ!」
散々追いかけられて息を切らすエリオットさん。私も少し疲れて、逆に頭が冴えてきた。
あの状況で刃物が出てきたから思わず行動に出てしまったけれど、じゃあ自殺する気では無いとしたらコレは?
「えーっと、この短剣は何ですか?」
「……お前にやろうと思ってたローズの形見だよ」
そしてエリオットさんは頭をぽりぽりと掻いて、申し訳無さそうにこちらを見る。
「そんな死にそうな顔してたか、俺」
私が無言でコクコクと頷くと、彼は少し伏目がちになって溜め息を吐いた。そして姉のものだと思われる墓へ視線をやって呟く。
「死にたくても死ねないっつの、やらなきゃいけない事が出来たからな」
その顔は少し悲しそうで、でもどこか嬉しそうにも見えた。
「やらなきゃいけない事、ですか?」
想像のつかない彼の今後の目的とやらに疑問符を投げかけると、エリオットさんは笑みを浮かべてこちらを見やる。その表情は、姉が昔私によく見せていたような、優しくて、それでいて何かもう一つ深く強い意志が込められているような笑み。
「遺言でお前のお守りを頼まれたんだよ」
その言葉で、何故エリオットさんが姉さんと同じような顔を私に向けたのかすぐに理解できた。
そしてそんな顔をして見るという事は、エリオットさんはもう既に姉さんと同じような気持ちでいる、と言う事になる。
つい先刻まで敵意を向け合ったりしていた仲だと言うのに心からそこまで出来るだなんて、どれだけ姉さんの事を想っていたのだろうか。
「……エリオットさん……」
「どうした? 嬉しくて涙が出るか?」
私は心に浮かんできた言葉を言うべきか一瞬迷ったが、ここは敢えて言葉に出す事を選んだ。
「いえ、私のお守りを出来るほど大人になれていない人が、よくそんな顔でそんな事を言えたものだと思っただけです……」
「殊勝な顔をして言うようなセリフじゃねーぞ!?」
勢いよくツッコミを入れてくるエリオットさんに、私はにっこりと笑顔を返す。
「ありがとうございます、気持ちだけは頂いておきますよ」
「それもそんな屈託の無い笑顔で言うようなセリフじゃねーから!!」
こみ上げてくる気持ちに素直になって、ふふふと笑った。でも少し気恥ずかしくて、風に靡く髪を掻き揚げてからエリオットさんに背を向けると、彼は私に向かって呟く。
「……おいクリス、服が後ろから見ると凄い事になってるぞ」
「気にしたら負けです」
更新日:2012-09-10 10:23:44