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第一部終章 ~それでも前を向いて~
何の障害も無く、ニールはダインを貫いた。
パキィィン! と硬い音をたてて真っ二つに折れる大剣と、それを突いた先からヒビ割れ始める槍。ニールの本体は、やがてそのヒビが矛先全てに行き渡って、柄の部分を残しながら崩れ落ちる。
「そ、んな……」
そうだ、相打ちとはこういう事だった。
予め言われていたのにニールを、自分の半身を自ら壊した事に呆然としていると、崩れた剣と槍から黒いもやが出始めた。
「ま、まずい!」
先程のように周囲を暗雲で包まれるかと焦ったが、そのもやはふわりと宙で固まり、、そのまま私の身体に吸い込まれるように飛んできて、消えた。
「っ」
ドクン、と身体で脈打つ何か。
呪いなのか? 私の身体に入るように消えたソレは、私の鼓動を早くさせる。
「あ、う……」
私はコレを覚えている。
記憶には無いけれど、この感覚を身体は覚えている。
気分が悪くなってたまらず私はビシャリと地に吐いた。ほとんど水分の嘔吐物は、特に変わったところの無いものである。口の中に残った酸っぱい物をぺっと吐き飛ばして気分を落ち着かせると、深呼吸をし、容態が安定したのを確認してから私はとりあえず急いで戻った。
そこには荒れた街を片付けたりしている軍の兵士達が沢山居て、その中に手当てを受けているルフィーナさんも居た。だが、レクチェさんもエリオットさんも姉さんも居ない。
「クリス……」
「剣は折りました、こちらはどうなったんです?」
随分ぼろぼろになっているルフィーナさんに駆け寄って問いかけると、彼女は俯いて小さく答える。
「レクチェは……もうここにはいないわ。エリ君も、兵士に顔がバレる前にクリスのお姉さんのお墓作るって、行っちゃった」
姉さんはやはり精霊に解放される事は無かったのか。覚悟していたとはいえ、言葉として改めて聞くと苦い気分になる。最後まで姉さんが元に戻る事を願っていてくれたエリオットさんの事を思うと、申し訳なさで胸が詰まりそうだ。
「どこに作るって、言ってました?」
「故郷の教会って言えばクリスには分かる、って言ってたけど……」
「遠ッ!!」
馬車で何日かかる!? いやいや砂漠だって通るんだ、普通に行ったら死体なんて腐ってしまう。という事は飛行竜しか考えられない。
しかしどうしよう、私は今とてもじゃないが飛べそうには無い。お金も全部エリオットさん持ちだ。銀行で下ろせばいいだけの話なのだがこの時私はそこまで頭が回らず、ひたすら困っているとこちらに近づいてくる一つの足音。
「クリス、今回の件も君たち絡みな……」
茶髪のポニーテールに赤い鎧。声をかけてきたレイアさんに私は勢い良く飛びついた。
「飛行竜を貸してください!!」
竜を借りて私はすぐに王都を旅立った。今度こそもう旅は終わるし、エリオットさんも抜け出したりしないであろう事を告げて。
事情説明はルフィーナさんに任せたし、私は真っ直ぐ自分の故郷へと向かった。
小型とはいえ流石に竜は大きくて早い。私も一人で飛べば早いけれど、サイズの違いからくるこのスピードには多分勝てないだろう。半日程度でアガム砂漠の更に南にある故郷ムスペルに着いた。
街の人々はほとんど顔馴染み。とはいえ破けたワンピースで髪の色も違う私に、声をかける人などいるはずも無い。教会の中にはあえて入らずに私は裏の墓地へ向かって歩いていく。
広い墓地だけれど、後頭部で結わえた赤が濁った蘇芳の髪はとても目立った。それは風に吹かれながら昼の光に照らされて、こちらに存在を主張している。
「エリオットさん」
後ろから声をかけると、小さな墓の前で彼はゆっくり振り返った。泣き腫らした目、血の付いた頬や唇、そして彼の服の前面も真っ赤に染まっている。
「早かったな」
すぐに私から目を離して、また彼はお墓の方をじっと見つめて続けた。
「今まで俺達がやってきた事は、一体何だったんだろうな」
「それは……」
こんな形であっけなく終わった最後を、簡単に受け止められるわけが無い。彼の問いに答えられるはずもなく、私は口篭もる。
どこで私は、私達は、間違えてしまったのだろう。他に何か違う結末を迎えられなかったのか。
パキィィン! と硬い音をたてて真っ二つに折れる大剣と、それを突いた先からヒビ割れ始める槍。ニールの本体は、やがてそのヒビが矛先全てに行き渡って、柄の部分を残しながら崩れ落ちる。
「そ、んな……」
そうだ、相打ちとはこういう事だった。
予め言われていたのにニールを、自分の半身を自ら壊した事に呆然としていると、崩れた剣と槍から黒いもやが出始めた。
「ま、まずい!」
先程のように周囲を暗雲で包まれるかと焦ったが、そのもやはふわりと宙で固まり、、そのまま私の身体に吸い込まれるように飛んできて、消えた。
「っ」
ドクン、と身体で脈打つ何か。
呪いなのか? 私の身体に入るように消えたソレは、私の鼓動を早くさせる。
「あ、う……」
私はコレを覚えている。
記憶には無いけれど、この感覚を身体は覚えている。
気分が悪くなってたまらず私はビシャリと地に吐いた。ほとんど水分の嘔吐物は、特に変わったところの無いものである。口の中に残った酸っぱい物をぺっと吐き飛ばして気分を落ち着かせると、深呼吸をし、容態が安定したのを確認してから私はとりあえず急いで戻った。
そこには荒れた街を片付けたりしている軍の兵士達が沢山居て、その中に手当てを受けているルフィーナさんも居た。だが、レクチェさんもエリオットさんも姉さんも居ない。
「クリス……」
「剣は折りました、こちらはどうなったんです?」
随分ぼろぼろになっているルフィーナさんに駆け寄って問いかけると、彼女は俯いて小さく答える。
「レクチェは……もうここにはいないわ。エリ君も、兵士に顔がバレる前にクリスのお姉さんのお墓作るって、行っちゃった」
姉さんはやはり精霊に解放される事は無かったのか。覚悟していたとはいえ、言葉として改めて聞くと苦い気分になる。最後まで姉さんが元に戻る事を願っていてくれたエリオットさんの事を思うと、申し訳なさで胸が詰まりそうだ。
「どこに作るって、言ってました?」
「故郷の教会って言えばクリスには分かる、って言ってたけど……」
「遠ッ!!」
馬車で何日かかる!? いやいや砂漠だって通るんだ、普通に行ったら死体なんて腐ってしまう。という事は飛行竜しか考えられない。
しかしどうしよう、私は今とてもじゃないが飛べそうには無い。お金も全部エリオットさん持ちだ。銀行で下ろせばいいだけの話なのだがこの時私はそこまで頭が回らず、ひたすら困っているとこちらに近づいてくる一つの足音。
「クリス、今回の件も君たち絡みな……」
茶髪のポニーテールに赤い鎧。声をかけてきたレイアさんに私は勢い良く飛びついた。
「飛行竜を貸してください!!」
竜を借りて私はすぐに王都を旅立った。今度こそもう旅は終わるし、エリオットさんも抜け出したりしないであろう事を告げて。
事情説明はルフィーナさんに任せたし、私は真っ直ぐ自分の故郷へと向かった。
小型とはいえ流石に竜は大きくて早い。私も一人で飛べば早いけれど、サイズの違いからくるこのスピードには多分勝てないだろう。半日程度でアガム砂漠の更に南にある故郷ムスペルに着いた。
街の人々はほとんど顔馴染み。とはいえ破けたワンピースで髪の色も違う私に、声をかける人などいるはずも無い。教会の中にはあえて入らずに私は裏の墓地へ向かって歩いていく。
広い墓地だけれど、後頭部で結わえた赤が濁った蘇芳の髪はとても目立った。それは風に吹かれながら昼の光に照らされて、こちらに存在を主張している。
「エリオットさん」
後ろから声をかけると、小さな墓の前で彼はゆっくり振り返った。泣き腫らした目、血の付いた頬や唇、そして彼の服の前面も真っ赤に染まっている。
「早かったな」
すぐに私から目を離して、また彼はお墓の方をじっと見つめて続けた。
「今まで俺達がやってきた事は、一体何だったんだろうな」
「それは……」
こんな形であっけなく終わった最後を、簡単に受け止められるわけが無い。彼の問いに答えられるはずもなく、私は口篭もる。
どこで私は、私達は、間違えてしまったのだろう。他に何か違う結末を迎えられなかったのか。
更新日:2012-09-10 10:20:18