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「こっちに生きた人間がいるぞ!!」
そこへ、少し離れたところから男の声がする。大きい爆発音などがしなくなってから随分経っているのだ。多分様子を見にきた兵士だろう。
「……仕方ありませんね。見逃してあげますよ、ルフィーナ嬢」
そう言って掻き消えるセオリー。
「……っ」
実力差から、弄ばれていたに過ぎないルフィーナは、セオリーが消えてすぐに膝をつく。そしてその後すぐに、無事に生き延びていた連中がぞろぞろと、こちらの様子を伺いつつ近づいてきた。
「ッ来たら殺す!!!!」
俺は顔を上げて天に向かって大声で叫ぶ。
騒がしい連中が寄ってきて、ローズの声を掻き消されたらたまったものじゃない。
俺の言葉に、先程までの惨劇もあっての事だろう、それ以上不用意に近づいてこない兵士達。
ローズはだんだん焦点が合わなくなってきている目をしていた。けれど、まだ伝えるべき事がある、と言わんばかりに力を振り絞って言葉を紡ぐ。
「妹は、何も知らないの。だから、私が終わらせたかったんだけど……もう無理みたい」
「何か、俺に出来る事は?」
滑稽だな、死ぬ間際で思い残しているのはクリスの事。俺に言う事なんて、無いってか。けれど、それを言っちゃあ小さい男だ。最後までお前の忠実な下僕で居てやるよ。
少しだけクリスに嫉妬し、それを押し殺してからローズに問いかけた。
「私の盗んだ物を、見直して、繋げれば、妹を……」
「あぁ、全部言わなくていい、もう分かった」
ローズが盗んでいたのは、何だか知らないがとにかくクリスの為の物だった、って事だ。当時は分からずとも、クリスを知っている今、そう言われて考えれば想像がつく。
ローズの目の焦点がふいに合って、こちらを見た。苦しいだろうに呻く事もせずに、微笑みだけは絶やさない。その微笑の意味は色々だったが、思い起こすと彼女はいつも笑っていた。そして、今も。
「……その髪、いつもよりは、いいわよ」
目が合ったと思えば、失礼な事を言ってくれる。まるでいつもがイマイチみたいじゃないか。
「お前の妹も同じ事言ってたよ、酷い姉妹だな……」
俺の言葉を聞いて、最後にふっと笑ってから彼女は目を閉じた。
クリスは今頃あの大剣を壊しているのだろうか。
クリス、お前がどんなにローズに愛されていようが、お前に出来なかった事を俺は今やっている。これは俺のちっぽけなプライド。
見取ったのは、俺だ。ローズを諦めようとしたお前じゃない。そう心の中で一人呟く。
やがて動かなくなったローズに口付けをして、俺は俯き、声をあげずに泣き続けた。
◇◇◇ ◇◇◇
「あちらが騒がしくなってきましたね」
一生懸命掘っているのだがどうにも剣が見つからずに、だんだん萎えてくる。
事態が収束でもしたのだろうか、大きな音が聞こえないかわりに人々の声ががやがやと聞こえてきた。
しかし、収束したとなるとどういう事だろう。ルフィーナさんが無事にエリオットさんを止めた?
そこで槍の先に、突いても壊れない物が当たった感触がした。
「!!」
慌ててそこを掘り起こすと、あの大剣が見つかる。
「もう失敗しませんよ……!」
私は槍を振り上げて、大剣目掛けて振り下ろそうとした。そこへ頭へ響く声。
『君のお姉さんは元に戻してあげたよ』
「!?」
ダインの声も、持たなくても直接響いてきた。そういえば、姉もコイツに呼ばれて剣を手にした、と聞いた気がする。
『だから見逃してくれないかなぁ? ほら、折れちゃったら意味無いし、ボクとしてもこうするしか無かったんだよ』
「姉が目の前に居ない今、信じられるわけが無いでしょう」
『うー、信用無いなーボクー』
人を騙した事もあるくせに、よくこんな事が言えたものだ。
いや、これはもしかすると時間稼ぎなのかも知れない。ここでエリオットさんが駆け寄ってきたら、またどう転ぶか分からないでは無いか。
「お話はここまでです」
少しだけ距離を取って、また私は投げる構えを取る。やっぱり振り下ろすやり方では、何となく折れない気がして。
またあの黒いもやが出なければいいのだが、込める力を手加減すればいいのか? いや、手加減しては大剣を折る事は出来ない。
多少の被害がまた出たとしても、今度こそ外さずにやり遂げなくては!!
「いきますッ!!!!」
今度こそ全力で、投擲した。
【第十四章 戦火 ~再び起こる悪夢~ 完】
そこへ、少し離れたところから男の声がする。大きい爆発音などがしなくなってから随分経っているのだ。多分様子を見にきた兵士だろう。
「……仕方ありませんね。見逃してあげますよ、ルフィーナ嬢」
そう言って掻き消えるセオリー。
「……っ」
実力差から、弄ばれていたに過ぎないルフィーナは、セオリーが消えてすぐに膝をつく。そしてその後すぐに、無事に生き延びていた連中がぞろぞろと、こちらの様子を伺いつつ近づいてきた。
「ッ来たら殺す!!!!」
俺は顔を上げて天に向かって大声で叫ぶ。
騒がしい連中が寄ってきて、ローズの声を掻き消されたらたまったものじゃない。
俺の言葉に、先程までの惨劇もあっての事だろう、それ以上不用意に近づいてこない兵士達。
ローズはだんだん焦点が合わなくなってきている目をしていた。けれど、まだ伝えるべき事がある、と言わんばかりに力を振り絞って言葉を紡ぐ。
「妹は、何も知らないの。だから、私が終わらせたかったんだけど……もう無理みたい」
「何か、俺に出来る事は?」
滑稽だな、死ぬ間際で思い残しているのはクリスの事。俺に言う事なんて、無いってか。けれど、それを言っちゃあ小さい男だ。最後までお前の忠実な下僕で居てやるよ。
少しだけクリスに嫉妬し、それを押し殺してからローズに問いかけた。
「私の盗んだ物を、見直して、繋げれば、妹を……」
「あぁ、全部言わなくていい、もう分かった」
ローズが盗んでいたのは、何だか知らないがとにかくクリスの為の物だった、って事だ。当時は分からずとも、クリスを知っている今、そう言われて考えれば想像がつく。
ローズの目の焦点がふいに合って、こちらを見た。苦しいだろうに呻く事もせずに、微笑みだけは絶やさない。その微笑の意味は色々だったが、思い起こすと彼女はいつも笑っていた。そして、今も。
「……その髪、いつもよりは、いいわよ」
目が合ったと思えば、失礼な事を言ってくれる。まるでいつもがイマイチみたいじゃないか。
「お前の妹も同じ事言ってたよ、酷い姉妹だな……」
俺の言葉を聞いて、最後にふっと笑ってから彼女は目を閉じた。
クリスは今頃あの大剣を壊しているのだろうか。
クリス、お前がどんなにローズに愛されていようが、お前に出来なかった事を俺は今やっている。これは俺のちっぽけなプライド。
見取ったのは、俺だ。ローズを諦めようとしたお前じゃない。そう心の中で一人呟く。
やがて動かなくなったローズに口付けをして、俺は俯き、声をあげずに泣き続けた。
◇◇◇ ◇◇◇
「あちらが騒がしくなってきましたね」
一生懸命掘っているのだがどうにも剣が見つからずに、だんだん萎えてくる。
事態が収束でもしたのだろうか、大きな音が聞こえないかわりに人々の声ががやがやと聞こえてきた。
しかし、収束したとなるとどういう事だろう。ルフィーナさんが無事にエリオットさんを止めた?
そこで槍の先に、突いても壊れない物が当たった感触がした。
「!!」
慌ててそこを掘り起こすと、あの大剣が見つかる。
「もう失敗しませんよ……!」
私は槍を振り上げて、大剣目掛けて振り下ろそうとした。そこへ頭へ響く声。
『君のお姉さんは元に戻してあげたよ』
「!?」
ダインの声も、持たなくても直接響いてきた。そういえば、姉もコイツに呼ばれて剣を手にした、と聞いた気がする。
『だから見逃してくれないかなぁ? ほら、折れちゃったら意味無いし、ボクとしてもこうするしか無かったんだよ』
「姉が目の前に居ない今、信じられるわけが無いでしょう」
『うー、信用無いなーボクー』
人を騙した事もあるくせに、よくこんな事が言えたものだ。
いや、これはもしかすると時間稼ぎなのかも知れない。ここでエリオットさんが駆け寄ってきたら、またどう転ぶか分からないでは無いか。
「お話はここまでです」
少しだけ距離を取って、また私は投げる構えを取る。やっぱり振り下ろすやり方では、何となく折れない気がして。
またあの黒いもやが出なければいいのだが、込める力を手加減すればいいのか? いや、手加減しては大剣を折る事は出来ない。
多少の被害がまた出たとしても、今度こそ外さずにやり遂げなくては!!
「いきますッ!!!!」
今度こそ全力で、投擲した。
【第十四章 戦火 ~再び起こる悪夢~ 完】
更新日:2012-09-04 10:51:05