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そしてされるがまま、私の髪は菖蒲のような淡い紫に染まる。旦那さんの白髪染め用だと言う明るい薄紅の染め粉を使った結果、こんな色になってしまったのだ。
髪型も少し整えて貰って、鏡を見ても自分だとは思えない。
あの尋ね人の張り紙が隣にあっても、流石に同一人物だと気付かれる事は無さそうだ。
「違和感やべー」
同じように染め粉を使って緑の髪を染めたエリオットさんは、少し赤みがかかって濃くなったくらい。大きな色の変化はそれほど無いが、それでもパッと見た印象は随分変わっている。
「これなら街を歩いていても大丈夫そうですわ!」
奥さんがやや大袈裟に拍手をしながら太鼓判を押してくれた。
「まぁクリスは間違いなくバレなさそうだな」
「ううっ、スースーする……」
最初は変装なんかじゃなくて単に着る服を頂くだけだったというのに。
しかし逃げているのだから、変装しておいて損は無い。我慢我慢、と自分に言い聞かせて、私は丸めていた背をグッと伸ばした。
「お世話になりました、今は無理ですがいつか城に遊びに来てください、ご招待しますよ」
エリオットさんが奥さんの白い手を握って、何か言っている。
子供の前だと言うのにどうしようも無い男だ、と思って呆れて見ていた私は、私と同じような顔をして母親を見上げている娘を見つけた。
彼女の場合は喜んでいる自分の母親に対してその目を向けている。本当に恥ずかしい人達だ、ああはなりたくない。
あまり私達と打ち解けられていない息子さんは、もう少し離れた位置でこちらを覗いていた。
「夜はあんまり出歩かないようにね」
私は少しそちらに近寄って声を掛ける。
「うん……お兄ちゃんも頑張って……」
わー、全く頑張れる気がしない応援を頂きました。
そして私達はその家を後にする。
まだ太陽はそこまで高くない。この時間から動ければどこへ行くにしても余裕がありそうだ。
「さ、どうします?」
スカスカして落ち着かない足元を気にしながら私はエリオットさんに問いかける。ルフィーナさん達と合流する手立ては、申し訳ないが私には思いつかない。
「そうだな……」
彼は少し考えて、ふと立ち止まる。
「王都へ戻るか」
「ええっ!?」
私は全く予想だにしていない行き先に思わず叫んだ。
「レクチェは狙われるかも知れないんだろ? 今襲われたら手が足りずに不利だし、俺なら人に紛れ易い場所に移動する。って事で王都」
「で、でもそんな、王都に戻ったらエリオットさん見つかっちゃうんじゃ……」
「それまでにもっとキチンと変装出来るような物を買わないとな!」
アッハッハ、と大笑い。
そんな変装程度でどうにかなるのかと私は不安で仕方が無いが、リャーマから逃げたばかりだと言うのに城のすぐ近くに戻って来るとは普通思わない。アリかも知れない。
「エリオットさんに似合うスカート、ありますかねぇ」
「いやいやいやいや、女装は無理だぜ!?」
断固拒否する構えのエリオットさんの背中を、ぽんぽんと叩いて私は優しく言ってあげた。
「私でも出来たんです、大丈夫ですよ」
にっこり笑って、有無を言わさぬ表情で。
「ほんと、無理だから……ね?」
人の困った顔って、意外と面白いものだ。
私はにやけてしまった顔を彼に見せないように、背を向けて歩き出す。
【第十三章 リチェルカーレ ~逃げ切れ私! ~ 完】
髪型も少し整えて貰って、鏡を見ても自分だとは思えない。
あの尋ね人の張り紙が隣にあっても、流石に同一人物だと気付かれる事は無さそうだ。
「違和感やべー」
同じように染め粉を使って緑の髪を染めたエリオットさんは、少し赤みがかかって濃くなったくらい。大きな色の変化はそれほど無いが、それでもパッと見た印象は随分変わっている。
「これなら街を歩いていても大丈夫そうですわ!」
奥さんがやや大袈裟に拍手をしながら太鼓判を押してくれた。
「まぁクリスは間違いなくバレなさそうだな」
「ううっ、スースーする……」
最初は変装なんかじゃなくて単に着る服を頂くだけだったというのに。
しかし逃げているのだから、変装しておいて損は無い。我慢我慢、と自分に言い聞かせて、私は丸めていた背をグッと伸ばした。
「お世話になりました、今は無理ですがいつか城に遊びに来てください、ご招待しますよ」
エリオットさんが奥さんの白い手を握って、何か言っている。
子供の前だと言うのにどうしようも無い男だ、と思って呆れて見ていた私は、私と同じような顔をして母親を見上げている娘を見つけた。
彼女の場合は喜んでいる自分の母親に対してその目を向けている。本当に恥ずかしい人達だ、ああはなりたくない。
あまり私達と打ち解けられていない息子さんは、もう少し離れた位置でこちらを覗いていた。
「夜はあんまり出歩かないようにね」
私は少しそちらに近寄って声を掛ける。
「うん……お兄ちゃんも頑張って……」
わー、全く頑張れる気がしない応援を頂きました。
そして私達はその家を後にする。
まだ太陽はそこまで高くない。この時間から動ければどこへ行くにしても余裕がありそうだ。
「さ、どうします?」
スカスカして落ち着かない足元を気にしながら私はエリオットさんに問いかける。ルフィーナさん達と合流する手立ては、申し訳ないが私には思いつかない。
「そうだな……」
彼は少し考えて、ふと立ち止まる。
「王都へ戻るか」
「ええっ!?」
私は全く予想だにしていない行き先に思わず叫んだ。
「レクチェは狙われるかも知れないんだろ? 今襲われたら手が足りずに不利だし、俺なら人に紛れ易い場所に移動する。って事で王都」
「で、でもそんな、王都に戻ったらエリオットさん見つかっちゃうんじゃ……」
「それまでにもっとキチンと変装出来るような物を買わないとな!」
アッハッハ、と大笑い。
そんな変装程度でどうにかなるのかと私は不安で仕方が無いが、リャーマから逃げたばかりだと言うのに城のすぐ近くに戻って来るとは普通思わない。アリかも知れない。
「エリオットさんに似合うスカート、ありますかねぇ」
「いやいやいやいや、女装は無理だぜ!?」
断固拒否する構えのエリオットさんの背中を、ぽんぽんと叩いて私は優しく言ってあげた。
「私でも出来たんです、大丈夫ですよ」
にっこり笑って、有無を言わさぬ表情で。
「ほんと、無理だから……ね?」
人の困った顔って、意外と面白いものだ。
私はにやけてしまった顔を彼に見せないように、背を向けて歩き出す。
【第十三章 リチェルカーレ ~逃げ切れ私! ~ 完】
更新日:2012-08-28 18:06:59