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挿絵 400*400

 手渡されたアルバムを、エリオットさんはパラパラ捲る。一緒に覗くと三ページ丸々が式典の写真で埋まっていた。沢山の人を背景にして少女が写っている写真達は、どれも極彩色。式典がそれほど華やかなものであった事をその絵が物語っている。
 少女の指定した一枚に借りたペンでさらりとサインを済ませると、彼はアルバムを閉じた。

「これで皆に自慢出来るー!!」

「いやいや俺達の事は喋んなよ!?」

 母親からまだ口止めされていないのか、獣人の少女は大喜びでアルバムを手に取る。エリオットさんが叫んだものの、話を聞かずにさっさと部屋を飛び出して行ってしまった。

「どうするんです? あれ」

 私の小さな声に、彼は溜め息を吐いて顔に手を当てる。指の隙間から見える目は半眼で気の抜けた様子。

「後でもっかい忠告しといてやってくれ……」

 それだけ言って布団を被る。
 が、何か思い立ったように彼はすぐに布団から体を起こし、こちらに眠そうな顔を向けて口を開いた。

「可哀想だから布団に入れてやってもいいぞ」

 一応私が座っている床には薄い布だけ敷かれているが、それでも寝心地が悪いのは間違いない。他に意図があるわけでもなく、単純に眠りにくかろうと私に提案したのはその何も考えてなさそうな表情からも明白だ。
 けれど、

「お気遣いありがとうございます、それは嫌です」

 きっぱり拒否。眠りにくい方を選ぶに決まっている。

「すんげームカつくけど、眠いから相手なんてしてやらねーよ!」

 そんな捨て台詞だけ残して、エリオットさんは再度布団を被った。



 そして朝。外の光が瞼の中を刺激して、私は目が覚める。
 硬い床でもよく眠れたものだ、と思ったが私は自分の下に柔らかさと生温かさを感じて、何でだろう? と目を擦りよく見た。
 どうやらふかふかの布団の上で私は寝ていたらしい。布団の中、ではなくあくまで上。床に敷いていたはずの布を被って、布団の上で一晩過ごしたようだった。
 全く記憶は無いが、やはり眠りにくくて移動したのかも知れない。そう、エリオットさんの布団の上へ。何度も言うが、上である。
 一晩潰されていたのかも知れないエリオットさんはというと、布団の中で苦しそうな表情をしたままでまだ眠っていた。彼が起きる前にここから退かなくてはいけない。
 私は体を起こそうと腕に力を入れる。

「ぅぐえっ」

 すると、カエルの潰れたような鳴き声が下から聞こえた。
 手をついた場所が悪かったのだろう、寝ていて力の抜けている腹を押されて呻くエリオットさん。

「あ、ごめんなさい!」

 慌ててついていた手を離すと、上半身を起こした私の体重は大体お尻のあたりに偏る。私のお尻は大体エリオットさんの下腹部あたりに乗っていた。

「うっ、ぐ……」

 またしても呻き声。苦しそうな表情でようやく目を薄らと開く彼。その目と目が合ってしまい、私は思わず目を逸らしてカーテンの隙間の空を見る。

「いっ、いい天気ですねぇ」

「どうでもいいから、そこをどけぃ!!」



「娘にはきちんと申しておきました、失礼をお許しください」

 場所は移って、今は獣人の奥さんの部屋。
 彼女はそう言って私に服を出してくれた。昨晩のお嬢さんの話をして、奥さんから言って貰えるようお願いしたのだ。
 ついでにもう少しお金を手渡して、私に服を売って貰った。私の身長は奥さんと大体同じくらいなので、服も奥さんの持ち物と思われる物を手渡される。 
 スカート部分に明るい緑の花柄が描かれ、バストの部分にはシャーリングが施されている、ふわふわした白いシフォンワンピース。

「ほ、他に何かありませんか……」

 こんな女性らしい衣類を着るのは、憚られる。

「控えめなデザインのほうなのですが、もっと鮮やかな物がお好みですか?」

「いや! これでいいです!」

 私は諦めてコレを着る事にした。宿を飛び出した時にそのまま履いてきていたお城で貰ったサンダルに似合うのは不幸中の幸いか……
 そこでそのまま着替えてから彼女の部屋を出ると、傍の階段の影からピンクの髪の少女が言った。

「悪い奴らに気付かれないように、変装して出るんだ!?」

「正解だぞ、頭がいいじゃないか!」

 何故か少女と仲良くなっているエリオットさんが、その後ろからにやにやしながら答える。

「何が正解ですか、嘘を教えないでください」

「まぁまぁ、その格好ならまず気付かれないぜ。髪を染めればもっと良さそうだな」

「そうですわね、では染め粉も用意しましょうか!」

 こうして私は着実に変装をさせられていった。

更新日:2012-08-28 17:24:04

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