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挿絵 400*400

 都会の街中ですら気付かれなかったエリオットさんの顔を、何故こんなド田舎ご在宅の奥さんがッッッ!!
 ショックを隠せない私とエリオットさんに、獣人の女性がにっこりと微笑む。

「とりあえず、中へどうぞ!」

 少なくとも警戒は解けているようである。私達は緊張しながら家の中へ招かれた。
 中もやはり田舎の割には綺麗な御宅で、むしろ都会にありそうな整った室内。お城や豪邸と比較しては劣るが、家具も結構高そうな物ばかりで花瓶など高級感が漂っている。
 の、農家じゃないのだろうか……

「お掛けになってくださいな」

 奥さんが上機嫌で私とエリオットさんへ着席を促した。ワンピースをふわりと揺らして彼女はキッチンへ歩いていく。

「コーヒーと紅茶、どちらがよろしいでしょう?」

 フフ、と愛想を振りまいて飲み物を尋ねてきた。

「コーヒーでお願いします!」

「お、お構いなく……」

 相変わらず余所行きの顔を張り付けたままのエリオットさんが答えると、ご機嫌でお湯を沸かし始めた奥さん。
 私はひそひそと小声でエリオットさんに話しかけた。

「王子だって分かったのにすんなり入れてくれるだなんて怪しくないですか?」

「美人に悪い人は居ない」

「そんなワケがありますか」

 あくまで小声でつっこんでます。
 エリオットさんは何かあっても後で暴れたらいいと思っているのかも知れないが、私としては何事も穏便に進めたい。こんな罠みたいな状況を疑いもせずに受け入れていいのか心配していたものの、それは杞憂となる。
 コーヒーを二つ用意してくれた獣人の女性は、向かいに座って笑顔を絶やす事なく話し始めた。

「わたくし、王子様の成人の式典に王都まで観に行かせて頂いておりまして。随分大きくなられましたけれども、すぐに分かりましたわ!」

 嬉しそうに話す婦人のその表情からは、少しの自己顕示と高慢さが見え隠れする。

「それは遠路遥々ありがとうございます」

 エリオットさんはというと、こちらも同じような感じで、下心の見え隠れする綺麗な笑顔でそれに対応していた。

「もう六年ほど前でしょうか? よく覚えております。娘が八つの時で、それはもうその華やかな式典に大喜びしていましたもの!」

 始まった世間話を、私は出されたコーヒーを飲んで聞き流す。
 何というか、こんな田舎には不釣合いな雰囲気の奥さんで、そう、言うなれば貴族や商人みたいな現金に直接縁のありそうな……家の雰囲気からしても、今不在であるこの家の主はそれなりの稼ぎをもつ商人等なのかも知れない。
 エリオットさんは猫を被ったまま、でっち上げの事情説明をする。
 とりあえず私達は、誰の差し金かは不明の暗殺者から逃げている王子とその御付きの者という事になった。よくある王族のトラブル内容に、疑いもせず信じる彼女。

「分かりました、誰が来ても知らぬ存ぜぬを通しましょう」

 王子に直接恩を売るだなんて機会、逃すはずも無い。先に礼金として出された金貨に目の色を変え、二つ返事で獣人の女性は了承してくれた。

「夫の部屋で申し訳ありませんが、こちらが空いておりますのでご自由にお使いになってくださいな」

 残念ながらベッドは一つ。私は御付きの者という設定なのだから床で寝るしか無い。
 食事を頂き、お風呂も借りて汚れを落としたところでいい時間になってきたので、さっさと寝る事にする。
 と、そこへ部屋の前で足音がトトトと聞こえた。
 音の軽さからして大人では無い。ある程度予想はしているが一応確認の為扉を開けると、部屋の前にはエリオットさんが首を絞めた女の子が居た。いや失礼、先程の母親の言葉を聞く限り、この子は私よりも年上で間違いない。しかも二つも。

「ちょっと入ってもいーい? 家来さん」

「えぇ、構いませんよ」

 身長は長い耳を除けば百五十も無いくらい。その体は小さくとも出るところが出ていて、将来はきっとお母さんのように美人になるのだろう。羨ましくなんか無い。
 彼女は手にアルバムを持って部屋の中に入ってきた。

「ココ、小さいけど王子様が入るように私を撮った写真なの!」

 そこに写るのは満面の笑みでVサインを手で作る女の子と、その遠く後ろの壇上で手を振っているエリオットさん。六年前ともなると流石に若くて、何だか笑える。

「王子様が実は性格悪いってのは秘密にしてあげるから、ココにサインちょーだいよ!」

「ガキってのはどうしてこうもまぁ要らん一言ばっかり言うんだろうな」

 ベッドの上であぐらをかきながら、彼がぼやいた。

更新日:2012-08-28 17:20:46

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