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エリオットさんがしゃがんで、地面に指で簡単な地図を書く。まず方位を書いた後、リャーマと書かれた円から東に三角をちょこん、と。
「今俺達がいるのが大体この辺だとして」
そしてそこから南に真っ直ぐのポイントに、中を塗りつぶした円を書く。
「ここにハダド。この村は農作が盛んだけれど軍の駐在も何も無い、リャーマよりずっと田舎だ」
「ハダド! 聞き覚えがあります!」
「砂漠を越えて作物を売ったりしているだろうからな、南方では馴染みのある名前かも知れん」
彼はそう言って立ち上がると、フードローブの裾についた砂を払って南の方角を見た。太陽の位置は既に南を過ぎて傾いている。
「どうせ急いでも着くのは夜になるしゆっくり行きたいところだけどよ、追っ手が本当に飛行竜で来たらヤバイから急ぐぞ」
そしてエリオットさんは両手を広げて俺の胸に飛び込んで来いのポーズ。この場合、飛び込んで来いではなくて『さぁ早く俺を掴んで飛べ』って事だと思うが……
「その持ち方、落としそうで凄く苦手なんですよね……さっきみたいに肩に担いだ方が私としては楽なんですけど」
「担がれると腹が圧迫されて気持ち悪いんだよ」
「じゃあ肩車にしましょうか」
「マジで言ってんの!?」
私は変化してうまく翼をローブから出した後、中腰になってエリオットさんが肩に乗るのをちょいちょいと手招きして促す。
彼は困った顔をしながら、恐る恐る私の首を跨いで肩に座った。
「……コレは子供じゃない、女でもない、そう、飛行竜だ。竜と思え、俺……」
「何ぶつぶつ言ってるんです? 飛びますよー」
エリオットさんがしっかり乗った事を確認してから、私はすっくと立って翼をはためかせる。あ、エリオットさんの身長が身長なだけに、何かすんごく不安定だ。
「エリオットさん、なるべく、頭下げて」
「お、おう」
彼の体は前に折られて、私の頭にしっかり付く形となる。肩で担いだ方がスピードは出せるけれど、まぁ仕方ない。この体勢で出来る限りの速さで私は飛び立った。
途中、休みながらもハダドにどうにか辿り着いた私達は、宿すら無いこの村にどうしたものかと考え込んでいる真っ最中。フードだけ外してお互いの顔を見合わせている。
多分食物は自給自足出来るからだろう、他に必要な物があれば外から調達でもしているのか、商店も一切無い。
「まさかここまで田舎だったとは……」
村はずれで畑の野菜を目の前にしながらエリオットさんが呟く。
「来た事は無かったんですね」
「流石にな」
追っ手は来ないかも知れないが、これではこちらも生活出来ない。野宿とほぼ変わらないこの状況に二人で深く溜め息を吐いた。荷物も無いのにこれは辛い。
一先ず変化を解いてぼやく私。
「ルフィーナさん達との合流もどうやってしたらいいのか……」
「ん、する必要あるのか? あっちはもう目的果たしてるようなもんだから、話を聞けた今は無理して俺達に着いてこさせる必要も無いだろ」
「ええっ!?」
彼のその言葉に私は驚く、がすぐに気付いて彼の考えを訂正させようとする。そういえば彼は知らないのだ。
「姉さんの持つ剣は、レクチェさんを狙ってくる可能性が高いんですよ」
……しばし無言。目を丸くしたまま固まったエリオットさんは、その後黙って頭を抱えたかと思えば腕を組んで悩む素振りを見せ、自らを落ち着かせるように大きく深呼吸。
そしてやっと喋った。
「何でそれを早く言わない!?」
「ご、ごめんなさい……もう何を伝えたのか伝えてないのか分かってないんです……」
「そうか、その槍もそんな感じだったよなレクチェに対して! うっわぁ、もうどうすりゃいいのかサッパリ分からん!!」
緑の髪を掻き毟って喚き散らす彼。情報交換が全くもって出来ていない事に申し訳なさしか出てこない私は、ただ縮こまる。
連絡をどう取るか考えていたところへ、そこまで夜更けでもないのに既に静まり返っているこの村はずれで、私達以外の声が響いた。
「こっち! 確かにこっちに何か大きなものが飛んで降りてきてたんだから!」
「怖いよやめようよお姉ちゃん~」
どうやらこの村の住人のようだ。獣人らしき女の子の影が見えたので、即座に私達は黙ってフードを被り直す。
流石にまだ指名手配は届いていないと思うが、あまり騒がれては困る。どうしようかと私が悩み始めた瞬間、エリオットさんが先に動いた。
のんきにこちらへ近づいてくるその子に、先手必勝と言わんばかりに駆け寄って、その首を片腕でいきなり絞めると低く静かな声色で脅す。
「……悲鳴を上げたら殺す」
賊が板についている王子だなんて、この人以外に誰がいるだろうか。
「今俺達がいるのが大体この辺だとして」
そしてそこから南に真っ直ぐのポイントに、中を塗りつぶした円を書く。
「ここにハダド。この村は農作が盛んだけれど軍の駐在も何も無い、リャーマよりずっと田舎だ」
「ハダド! 聞き覚えがあります!」
「砂漠を越えて作物を売ったりしているだろうからな、南方では馴染みのある名前かも知れん」
彼はそう言って立ち上がると、フードローブの裾についた砂を払って南の方角を見た。太陽の位置は既に南を過ぎて傾いている。
「どうせ急いでも着くのは夜になるしゆっくり行きたいところだけどよ、追っ手が本当に飛行竜で来たらヤバイから急ぐぞ」
そしてエリオットさんは両手を広げて俺の胸に飛び込んで来いのポーズ。この場合、飛び込んで来いではなくて『さぁ早く俺を掴んで飛べ』って事だと思うが……
「その持ち方、落としそうで凄く苦手なんですよね……さっきみたいに肩に担いだ方が私としては楽なんですけど」
「担がれると腹が圧迫されて気持ち悪いんだよ」
「じゃあ肩車にしましょうか」
「マジで言ってんの!?」
私は変化してうまく翼をローブから出した後、中腰になってエリオットさんが肩に乗るのをちょいちょいと手招きして促す。
彼は困った顔をしながら、恐る恐る私の首を跨いで肩に座った。
「……コレは子供じゃない、女でもない、そう、飛行竜だ。竜と思え、俺……」
「何ぶつぶつ言ってるんです? 飛びますよー」
エリオットさんがしっかり乗った事を確認してから、私はすっくと立って翼をはためかせる。あ、エリオットさんの身長が身長なだけに、何かすんごく不安定だ。
「エリオットさん、なるべく、頭下げて」
「お、おう」
彼の体は前に折られて、私の頭にしっかり付く形となる。肩で担いだ方がスピードは出せるけれど、まぁ仕方ない。この体勢で出来る限りの速さで私は飛び立った。
途中、休みながらもハダドにどうにか辿り着いた私達は、宿すら無いこの村にどうしたものかと考え込んでいる真っ最中。フードだけ外してお互いの顔を見合わせている。
多分食物は自給自足出来るからだろう、他に必要な物があれば外から調達でもしているのか、商店も一切無い。
「まさかここまで田舎だったとは……」
村はずれで畑の野菜を目の前にしながらエリオットさんが呟く。
「来た事は無かったんですね」
「流石にな」
追っ手は来ないかも知れないが、これではこちらも生活出来ない。野宿とほぼ変わらないこの状況に二人で深く溜め息を吐いた。荷物も無いのにこれは辛い。
一先ず変化を解いてぼやく私。
「ルフィーナさん達との合流もどうやってしたらいいのか……」
「ん、する必要あるのか? あっちはもう目的果たしてるようなもんだから、話を聞けた今は無理して俺達に着いてこさせる必要も無いだろ」
「ええっ!?」
彼のその言葉に私は驚く、がすぐに気付いて彼の考えを訂正させようとする。そういえば彼は知らないのだ。
「姉さんの持つ剣は、レクチェさんを狙ってくる可能性が高いんですよ」
……しばし無言。目を丸くしたまま固まったエリオットさんは、その後黙って頭を抱えたかと思えば腕を組んで悩む素振りを見せ、自らを落ち着かせるように大きく深呼吸。
そしてやっと喋った。
「何でそれを早く言わない!?」
「ご、ごめんなさい……もう何を伝えたのか伝えてないのか分かってないんです……」
「そうか、その槍もそんな感じだったよなレクチェに対して! うっわぁ、もうどうすりゃいいのかサッパリ分からん!!」
緑の髪を掻き毟って喚き散らす彼。情報交換が全くもって出来ていない事に申し訳なさしか出てこない私は、ただ縮こまる。
連絡をどう取るか考えていたところへ、そこまで夜更けでもないのに既に静まり返っているこの村はずれで、私達以外の声が響いた。
「こっち! 確かにこっちに何か大きなものが飛んで降りてきてたんだから!」
「怖いよやめようよお姉ちゃん~」
どうやらこの村の住人のようだ。獣人らしき女の子の影が見えたので、即座に私達は黙ってフードを被り直す。
流石にまだ指名手配は届いていないと思うが、あまり騒がれては困る。どうしようかと私が悩み始めた瞬間、エリオットさんが先に動いた。
のんきにこちらへ近づいてくるその子に、先手必勝と言わんばかりに駆け寄って、その首を片腕でいきなり絞めると低く静かな声色で脅す。
「……悲鳴を上げたら殺す」
賊が板についている王子だなんて、この人以外に誰がいるだろうか。
更新日:2012-08-28 17:15:26