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「ハハハハー、言われて離す馬鹿がおるかー」
ヤケクソで私も彼女の演技に乗る。
「く、クリス!?」
肩の上でエリオットさんが驚いた声を出しているが、別に考え無くこんな事をしているわけではない。
彼女の演技に乗らずに二人でそれを否定すれば、エリオットさんは公衆の面前で『家出している事実』を晒すハメになってしまう。
それは、レイアさんを筆頭に、エリオットさんを大切に思ってくれている臣下の皆さんに対して申し訳無さ過ぎる。だったら攫われた方がまだマシというもの。どちらにしても失態には違いないが、王子に抜け出された間抜けな警備、よりはいいと私は思う。
私の演技に一瞬彼女が驚いて隙を見せたので、そこを突いて私は再度高く飛んだ。今度は着いてこられないくらい高く。
「甘いぞー、私を捕まえたければ今度は飛行竜でも持ってくるんだなー」
「おのれ……っ!!」
鳥人の小隊長は私を憎憎しげに見上げる。それを尻目に私はとにかく距離を伸ばそうと、方角も分からないままひたすら飛んだ。
街が見えなくなるくらい先に飛んでから、私とエリオットさんは何も無い平原の木陰で休む事にする。
変化を解き、翼のせいで破けた寝巻きをエリオットさんにうまく縛って着せ直して貰って、その上からレクチェさんの買ってくれたフードを被る。エリオットさんは元々普段着を着たままだったので、その上から同じようにフードを被った。
「見つかるの、早かったですね……」
リャーマに着いたのはつい昨晩の話である。
「いつから尋ね人にされてたのか分からないしな、リャーマに着くまでの間に情報提供されてて、その情報からリャーマに行くだろうと予測されてたのかも知れん」
「なるほど……」
宿に荷物をほぼ置きっぱなしにして来てしまったが、兵に取り上げられていなければきっとルフィーナさん達が回収しておいてくれるだろう、とそこは僅かな希望に賭ける。
というか、ここからどう彼女達と合流すればいいのかも分からないし、もしかしたら彼女達が捕まっている可能性も有り得なくは無い。部屋を別々に取っていたのが唯一の救いであり、それで何とか誤魔化せていたらいいけれど……
私の浮かない表情に、エリオットさんがポンと肩を叩いて慰める。
「ルフィーナ達なら何とかやれるさ。年の功ってか、肩書きだけならアクアよりは上だしな」
「アクア?」
「あー……さっきの怖いお嬢ちゃん」
思い出すだけで身震いしてしまう。あんな見た目なのに、中身はヤクザみたいな人だった。多分お城の人なのだろうに、エリオットさんをあわよくば殺してしまえみたいなノリ。
「あの女性に、何かしたんですか?」
怨恨の線を疑う私。
「直接何かしてるワケじゃないんだけどな……昔から目の敵にされてる」
最近ではなく、昔から、と。昔は良い王子様だったんじゃなかろうか。なのに目の敵にされるだなんて理由が思いつかない。
首を傾げる私の鼻先に、彼はずいっと指をさす。
「お前と同じだよ、シスコンなんだあの子」
「わっ、私はシスターコンプレックスではありませんよ!?」
「そうかぁ? 姉さんにつく虫は退治しないとって思ってんだろ?」
からかうように笑いながら言う。それは間違い無いけれど、そのゴミ虫をこうやって助けたのは私だと言うのに酷い言い草だ。
「もう……って事は、レイアさんの妹さんですか?」
「そそ。似てなくは無いだろ」
髪や目の色、そして鳥人、シスコン。これだけの情報が並べば私にだって分かる。
しかしいくらなんでも一国の王子相手に、軍の人間があんな暴言吐いちゃえるのだから凄い。
周囲に聞かれていたら大事だとは思うが、彼女もそれを分かっているのだろう。部下の前では気にしていなかったようだが、民衆の前で全くそんな暴言を吐いていなかったのだから、なかなか腹黒い。見た目は似ていても、レイアさんとはえらい違いだ。
「大方今回はレイアを困らせてる俺にブチ切れてきたんだろうよ。いやー、女って怖いねー!」
べちんべちんと私の背中を叩いて大笑い。そのおかげで私は完全にお尋ね者だという事を忘れているのか。というか女じゃなくてもお城の人ならば多少なり怒ると思う。
「笑っている場合じゃありませんよ、これからどうするんですか?」
「そうだなぁ……」
少しの間、上を見上げて考えるエリオットさん。
「都会に行くと見つかるかも知れないから田舎へ逃げよう、って常套手段はまずいから結局都会に行こう、と考えると思わせておいて裏かいて田舎に行こう」
「裏の裏、ですか」
それは表って言うと思います。
ヤケクソで私も彼女の演技に乗る。
「く、クリス!?」
肩の上でエリオットさんが驚いた声を出しているが、別に考え無くこんな事をしているわけではない。
彼女の演技に乗らずに二人でそれを否定すれば、エリオットさんは公衆の面前で『家出している事実』を晒すハメになってしまう。
それは、レイアさんを筆頭に、エリオットさんを大切に思ってくれている臣下の皆さんに対して申し訳無さ過ぎる。だったら攫われた方がまだマシというもの。どちらにしても失態には違いないが、王子に抜け出された間抜けな警備、よりはいいと私は思う。
私の演技に一瞬彼女が驚いて隙を見せたので、そこを突いて私は再度高く飛んだ。今度は着いてこられないくらい高く。
「甘いぞー、私を捕まえたければ今度は飛行竜でも持ってくるんだなー」
「おのれ……っ!!」
鳥人の小隊長は私を憎憎しげに見上げる。それを尻目に私はとにかく距離を伸ばそうと、方角も分からないままひたすら飛んだ。
街が見えなくなるくらい先に飛んでから、私とエリオットさんは何も無い平原の木陰で休む事にする。
変化を解き、翼のせいで破けた寝巻きをエリオットさんにうまく縛って着せ直して貰って、その上からレクチェさんの買ってくれたフードを被る。エリオットさんは元々普段着を着たままだったので、その上から同じようにフードを被った。
「見つかるの、早かったですね……」
リャーマに着いたのはつい昨晩の話である。
「いつから尋ね人にされてたのか分からないしな、リャーマに着くまでの間に情報提供されてて、その情報からリャーマに行くだろうと予測されてたのかも知れん」
「なるほど……」
宿に荷物をほぼ置きっぱなしにして来てしまったが、兵に取り上げられていなければきっとルフィーナさん達が回収しておいてくれるだろう、とそこは僅かな希望に賭ける。
というか、ここからどう彼女達と合流すればいいのかも分からないし、もしかしたら彼女達が捕まっている可能性も有り得なくは無い。部屋を別々に取っていたのが唯一の救いであり、それで何とか誤魔化せていたらいいけれど……
私の浮かない表情に、エリオットさんがポンと肩を叩いて慰める。
「ルフィーナ達なら何とかやれるさ。年の功ってか、肩書きだけならアクアよりは上だしな」
「アクア?」
「あー……さっきの怖いお嬢ちゃん」
思い出すだけで身震いしてしまう。あんな見た目なのに、中身はヤクザみたいな人だった。多分お城の人なのだろうに、エリオットさんをあわよくば殺してしまえみたいなノリ。
「あの女性に、何かしたんですか?」
怨恨の線を疑う私。
「直接何かしてるワケじゃないんだけどな……昔から目の敵にされてる」
最近ではなく、昔から、と。昔は良い王子様だったんじゃなかろうか。なのに目の敵にされるだなんて理由が思いつかない。
首を傾げる私の鼻先に、彼はずいっと指をさす。
「お前と同じだよ、シスコンなんだあの子」
「わっ、私はシスターコンプレックスではありませんよ!?」
「そうかぁ? 姉さんにつく虫は退治しないとって思ってんだろ?」
からかうように笑いながら言う。それは間違い無いけれど、そのゴミ虫をこうやって助けたのは私だと言うのに酷い言い草だ。
「もう……って事は、レイアさんの妹さんですか?」
「そそ。似てなくは無いだろ」
髪や目の色、そして鳥人、シスコン。これだけの情報が並べば私にだって分かる。
しかしいくらなんでも一国の王子相手に、軍の人間があんな暴言吐いちゃえるのだから凄い。
周囲に聞かれていたら大事だとは思うが、彼女もそれを分かっているのだろう。部下の前では気にしていなかったようだが、民衆の前で全くそんな暴言を吐いていなかったのだから、なかなか腹黒い。見た目は似ていても、レイアさんとはえらい違いだ。
「大方今回はレイアを困らせてる俺にブチ切れてきたんだろうよ。いやー、女って怖いねー!」
べちんべちんと私の背中を叩いて大笑い。そのおかげで私は完全にお尋ね者だという事を忘れているのか。というか女じゃなくてもお城の人ならば多少なり怒ると思う。
「笑っている場合じゃありませんよ、これからどうするんですか?」
「そうだなぁ……」
少しの間、上を見上げて考えるエリオットさん。
「都会に行くと見つかるかも知れないから田舎へ逃げよう、って常套手段はまずいから結局都会に行こう、と考えると思わせておいて裏かいて田舎に行こう」
「裏の裏、ですか」
それは表って言うと思います。
更新日:2012-08-28 17:03:16