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リチェルカーレ ~逃げ切れ私! ~
数人の兵士達がぞろぞろと入ってくる。
やや軽装ではあるがきちんと鎧や兜を見に着けて、戦闘準備は万端な彼等の後に、一人の女性がピリッとした雰囲気とそれに見合う毅然とした態度で部屋に立ち入った。
女性は腰より少し上くらいの長さの茶色の髪で、後ろ髪はそのまま下ろしているが、両サイドの髪は後頭部で括って垂らしている。
いわゆる上半分だけポニーテール状の髪型で、その両サイドには黒い名残羽。綺麗な白いレースのリボンで髪を飾り、着ている鎧は胸当てと左側の肩当てだけ。そこからベルトで繋がれているなめした革の簡易な防具が膝丈スカートの上で頼りなくも彼女を守っていた。
お嬢様がショートドレスの上に鎧を可愛く着こなしたらこんな感じになるであろう。
「ッブチ殺すぞこの糞王子が!!!!」
しかし彼女は両腕を胸の前で組みながら、その清楚な見た目を一瞬で壊す暴言を吐いた。元々はきっと高く可愛らしい声を最大限に低く轟かせてドスをきかせており、それがまた上手く出来ていて物凄く怖い。
口を塞がれたままエリオットさんをちらりと見ると、その表情はとにかく恐れ戦いている。
「小隊長、我々の目的は王子を連れ戻すだけか……とっ!?」
彼女に異論を唱えた兵士の一人が、思いっきり腹を殴られた。最後まで言わせて貰えずに殴られた。
「え~、糞王子様、大人しく来て頂けないと手が滑ってこのレイピアで心臓を刺してしまうかも知れませ~ん。ご同行お願い出来ますか~?」
腰に装着されていた小剣をすらりと抜いて、その琥珀の瞳が鋭くエリオットさんを睨む。口元だけは笑っているが声色はドスをきかせたまま、その綺麗な顔からは想像もつかない迫力でこちらを脅してきた。
「……クリス、今すぐ変化しろ」
ぼそりとそう言って、私の口から手を離す。その要求はつまりそういう事。
「私、寝巻きのままなんですけど……」
とはいえ状況が状況なので、仕方なく私は変化を始める。黒い角や尻尾がメキメキと伸び生えてくる光景と室内に巻き起こる風に、兵士達が一歩後ずさって様子を伺っていた。
一人、それに怯む事無く立つのは小隊長と呼ばれた女性だけ。
「大人しくしていれば糞王子に人質にされていた子供、で済んだものを……」
「ニール!!」
私の呼び声に反応して、壁に立てかけられていた槍がふわりと浮き上がり、私の手元へ飛んでくる。
この時意識はしていなかったが、私はもうニールを使いこなせていた。自然と彼の使い方が分かる。
私は風圧で飛びそうになるほど捲れている寝巻きを気にする事無く、槍を構えて切っ先をその女性へと向けた。
「楯突くなら、王子を連れ去る悪魔として指名手配になるがいいのか?」
「どうぞお好きなように」
私はベッドの上のローブを手に取ると、即座にエリオットさんを抱きかかえて背後へ飛ぶ。その先は、窓。
「追えッ!!」
女性の手が指示し、兵士達をこちらへ向かわせるが、一歩遅い。
私達は彼等の手の届かない位置まで飛んでいる。窓の外は店の立ち並ぶ人通りの多い道。私とエリオットさんが作る影に気付いた下の人々が、こちらを見上げてざわついた。
「どこに行きましょう?」
追えない位置まで飛んだので安心した私は、肩に担いでいるエリオットさんに尋ねる。そこへ飛んできた怒声。
「逃がすか!!」
窓際であたふたしている兵士を踏み台にして、鳥人の女性が大ジャンプしてくる。人間に進化した鳥人はもはや鳥のように飛ぶ翼は無いが、その身軽さだけは侮れない事をすっかり忘れていた。
「わあああっ!?」
彼女は私の腰に飛びついて、しっかり掴んだまま離れない。ていうか、飛んでいる最中にこんな事されたら……
「しっ、死ぬううううううう!!」
私の肩の上でエリオットさんが絶叫。二人分の重さプラス飛びつかれてバランスを崩した私は、うまく飛べずに真っ逆さまに落ちていった。
「くううぅっ……ッ」
地上に着く寸でのところで、私はうまく羽ばたいて落下の衝撃を和らげる。
ドスン、と軽く尻餅をつくだけで済んだが、周囲は人だかり。肩にはエリオットさん、腰には鳥人の女性。四方八方塞がっている。
すると小隊長の女性が即座に私から飛び退いて、小剣をこちらに向けて啖呵を切った。
「王子を離せ、人攫いの悪魔めが!!」
構図的に、もはや言い訳のしようが無い。
その瞬間、私は周囲が完全に認めるお尋ね者にされてしまったのだ。
やや軽装ではあるがきちんと鎧や兜を見に着けて、戦闘準備は万端な彼等の後に、一人の女性がピリッとした雰囲気とそれに見合う毅然とした態度で部屋に立ち入った。
女性は腰より少し上くらいの長さの茶色の髪で、後ろ髪はそのまま下ろしているが、両サイドの髪は後頭部で括って垂らしている。
いわゆる上半分だけポニーテール状の髪型で、その両サイドには黒い名残羽。綺麗な白いレースのリボンで髪を飾り、着ている鎧は胸当てと左側の肩当てだけ。そこからベルトで繋がれているなめした革の簡易な防具が膝丈スカートの上で頼りなくも彼女を守っていた。
お嬢様がショートドレスの上に鎧を可愛く着こなしたらこんな感じになるであろう。
「ッブチ殺すぞこの糞王子が!!!!」
しかし彼女は両腕を胸の前で組みながら、その清楚な見た目を一瞬で壊す暴言を吐いた。元々はきっと高く可愛らしい声を最大限に低く轟かせてドスをきかせており、それがまた上手く出来ていて物凄く怖い。
口を塞がれたままエリオットさんをちらりと見ると、その表情はとにかく恐れ戦いている。
「小隊長、我々の目的は王子を連れ戻すだけか……とっ!?」
彼女に異論を唱えた兵士の一人が、思いっきり腹を殴られた。最後まで言わせて貰えずに殴られた。
「え~、糞王子様、大人しく来て頂けないと手が滑ってこのレイピアで心臓を刺してしまうかも知れませ~ん。ご同行お願い出来ますか~?」
腰に装着されていた小剣をすらりと抜いて、その琥珀の瞳が鋭くエリオットさんを睨む。口元だけは笑っているが声色はドスをきかせたまま、その綺麗な顔からは想像もつかない迫力でこちらを脅してきた。
「……クリス、今すぐ変化しろ」
ぼそりとそう言って、私の口から手を離す。その要求はつまりそういう事。
「私、寝巻きのままなんですけど……」
とはいえ状況が状況なので、仕方なく私は変化を始める。黒い角や尻尾がメキメキと伸び生えてくる光景と室内に巻き起こる風に、兵士達が一歩後ずさって様子を伺っていた。
一人、それに怯む事無く立つのは小隊長と呼ばれた女性だけ。
「大人しくしていれば糞王子に人質にされていた子供、で済んだものを……」
「ニール!!」
私の呼び声に反応して、壁に立てかけられていた槍がふわりと浮き上がり、私の手元へ飛んでくる。
この時意識はしていなかったが、私はもうニールを使いこなせていた。自然と彼の使い方が分かる。
私は風圧で飛びそうになるほど捲れている寝巻きを気にする事無く、槍を構えて切っ先をその女性へと向けた。
「楯突くなら、王子を連れ去る悪魔として指名手配になるがいいのか?」
「どうぞお好きなように」
私はベッドの上のローブを手に取ると、即座にエリオットさんを抱きかかえて背後へ飛ぶ。その先は、窓。
「追えッ!!」
女性の手が指示し、兵士達をこちらへ向かわせるが、一歩遅い。
私達は彼等の手の届かない位置まで飛んでいる。窓の外は店の立ち並ぶ人通りの多い道。私とエリオットさんが作る影に気付いた下の人々が、こちらを見上げてざわついた。
「どこに行きましょう?」
追えない位置まで飛んだので安心した私は、肩に担いでいるエリオットさんに尋ねる。そこへ飛んできた怒声。
「逃がすか!!」
窓際であたふたしている兵士を踏み台にして、鳥人の女性が大ジャンプしてくる。人間に進化した鳥人はもはや鳥のように飛ぶ翼は無いが、その身軽さだけは侮れない事をすっかり忘れていた。
「わあああっ!?」
彼女は私の腰に飛びついて、しっかり掴んだまま離れない。ていうか、飛んでいる最中にこんな事されたら……
「しっ、死ぬううううううう!!」
私の肩の上でエリオットさんが絶叫。二人分の重さプラス飛びつかれてバランスを崩した私は、うまく飛べずに真っ逆さまに落ちていった。
「くううぅっ……ッ」
地上に着く寸でのところで、私はうまく羽ばたいて落下の衝撃を和らげる。
ドスン、と軽く尻餅をつくだけで済んだが、周囲は人だかり。肩にはエリオットさん、腰には鳥人の女性。四方八方塞がっている。
すると小隊長の女性が即座に私から飛び退いて、小剣をこちらに向けて啖呵を切った。
「王子を離せ、人攫いの悪魔めが!!」
構図的に、もはや言い訳のしようが無い。
その瞬間、私は周囲が完全に認めるお尋ね者にされてしまったのだ。
更新日:2012-08-28 16:57:55