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やっぱりか、と心の中で俺は呟く。
そしてそれと同時に自分の身に不安を感じた。彼女の言う通りならば、俺だって他人事では無いのでは、と心配せざるを得ないからだ。
「じゃあ何で……今みたいになっちゃったんだ?」
なるべく少しずつ、一歩一歩紐解いて行こうと俺はゆっくり質問を進める。が、
「色々あったから」
「はぐらかすのか?」
これ以上は答えるつもりは無いと言うような内容の無い回答に、俺は強い口調で追求した。レクチェはそんな俺と目を合わせようとせず、憂いを帯びた瞳でテーブルに視線を落とす。
「いつか、分かります」
そう言ってスッ、と彼女は席を立った。
「ちょっ、待てよ、それって……」
嫌な予感しかしないレクチェの言葉に俺は焦りを隠せずにガタンと椅子を後ろに倒す。勢いよく手をついたテーブルの上のコーヒーが倒れ、零れた飲み物は床にまで滴り落ちていった。
無論会計は俺が出すと決まっているのだが、レクチェは会話を切り上げてさっさと店外に出てしまう。もしこれがデートならば酷い扱いだ。せめてご馳走様くらい言え、と。
慌てて零れたコーヒーの後始末に来た店員の声など、俺の頭には全く入って来ない。
レクチェから聞いた情報は役に立たないどころか、新たな気がかりだけを心に重く残していったのだった。
◇◇◇ ◇◇◇
何事も無かったかのようにレクチェさんが部屋に戻ってきたのが十分前。
エリオットさんがフードを持っているから使ってね、っと言われて出かけていた理由が買い物であった事をそれで把握した私は、自分の部屋に戻ってそれを受け取ろうとした。
が、エリオットさんは部屋には居らず、そのうち戻ってくるかな? と待っていて今丁度彼が戻ってきたところである。
「…………」
彼は私のベッドにローブ二着を放り投げると、そのまま自分のベッドに今朝のように倒れ込む。まだ眠いのだろうか。
「レクチェさん、こっそり私達から逃げたわけじゃなかったですね」
私の声掛けに、エリオットさんの返事は無い。
「寝たふりしてもダメですよ、そんな寝転がって一秒で眠れるような特技、無いでしょう?」
てくてくとうつ伏せに倒れているエリオットさんに近づき、肩を揺すってその眠りを妨げようとした。
けれどもそれに大して怒る事もせずにゆさゆさ揺らされっぱなしの彼の態度は、普段の性格を考えると少しおかしい。いつもなら何するんだ馬鹿、とか言われるのに。
「……何かあったんですか?」
そう言って彼の体をゴロンと転がして顔を見る。
「ってうわ、何ですかその顔は」
目は虚ろ、頬や口元も力無く、まるで合格発表を見に行ったものの自分の番号が無くて茫然自失しているような表情だ。
何がどうしてこんな放心状態になっているのかさっぱり分からない。レクチェさんはちゃんと居たじゃないか。
「……息をするのも面倒臭い」
「死ぬ気ですか!? 一体何があったんです、言わないと分かりませんよ?」
するとエリオットさんはガバッと起き上がって、虚脱していた体に力を入れてこちらを強く見据えて叫ぶ。
「言わないと分からないんだよ!」
「そ、そうですよ……」
聞いているのはこちらだというのに、エリオットさんが何か聞きたいかのような言い方。何だか色々と理不尽過ぎるが、彼の切迫した雰囲気と表情に怒る事など出来やしない。
「わ、私が何かしました?」
心当たりが全く無いのでとりあえず聞いてみる。
「お前じゃない、レクチェだ」
「! 何かレクチェさんから気になる事でも聞いたんですか?」
私に一人で行くなと言いつつ、エリオットさんが一人で話をしていたらしい。とはいえ私もルフィーナさんと色々話したので文句は言えない。
彼の話を聞いてからこちらの話も伝えよう、と私はエリオットさんの次の言葉を待つ。
だがそれは部屋の戸を叩くノックの音によって阻まれた。
『いらっしゃいますか?』
「はー……んぐっ」
返事をしようとした私の口は、エリオットさんの手で塞がれる。扉の外から聞こえた声は、聞き覚えの無い男性の声だった。
「……居留守するぞ……」
口が塞がれているので私は返事も出来ずに、ただ目が丸くなる。居留守って何でまたそんな事を……と思ったのも束の間。
外から鍵がカチャリと開けられる音と共に部屋のドアは豪快に開いた。
【第十二章 晴れない心 ~噛み合わない歯車~ 完】
そしてそれと同時に自分の身に不安を感じた。彼女の言う通りならば、俺だって他人事では無いのでは、と心配せざるを得ないからだ。
「じゃあ何で……今みたいになっちゃったんだ?」
なるべく少しずつ、一歩一歩紐解いて行こうと俺はゆっくり質問を進める。が、
「色々あったから」
「はぐらかすのか?」
これ以上は答えるつもりは無いと言うような内容の無い回答に、俺は強い口調で追求した。レクチェはそんな俺と目を合わせようとせず、憂いを帯びた瞳でテーブルに視線を落とす。
「いつか、分かります」
そう言ってスッ、と彼女は席を立った。
「ちょっ、待てよ、それって……」
嫌な予感しかしないレクチェの言葉に俺は焦りを隠せずにガタンと椅子を後ろに倒す。勢いよく手をついたテーブルの上のコーヒーが倒れ、零れた飲み物は床にまで滴り落ちていった。
無論会計は俺が出すと決まっているのだが、レクチェは会話を切り上げてさっさと店外に出てしまう。もしこれがデートならば酷い扱いだ。せめてご馳走様くらい言え、と。
慌てて零れたコーヒーの後始末に来た店員の声など、俺の頭には全く入って来ない。
レクチェから聞いた情報は役に立たないどころか、新たな気がかりだけを心に重く残していったのだった。
◇◇◇ ◇◇◇
何事も無かったかのようにレクチェさんが部屋に戻ってきたのが十分前。
エリオットさんがフードを持っているから使ってね、っと言われて出かけていた理由が買い物であった事をそれで把握した私は、自分の部屋に戻ってそれを受け取ろうとした。
が、エリオットさんは部屋には居らず、そのうち戻ってくるかな? と待っていて今丁度彼が戻ってきたところである。
「…………」
彼は私のベッドにローブ二着を放り投げると、そのまま自分のベッドに今朝のように倒れ込む。まだ眠いのだろうか。
「レクチェさん、こっそり私達から逃げたわけじゃなかったですね」
私の声掛けに、エリオットさんの返事は無い。
「寝たふりしてもダメですよ、そんな寝転がって一秒で眠れるような特技、無いでしょう?」
てくてくとうつ伏せに倒れているエリオットさんに近づき、肩を揺すってその眠りを妨げようとした。
けれどもそれに大して怒る事もせずにゆさゆさ揺らされっぱなしの彼の態度は、普段の性格を考えると少しおかしい。いつもなら何するんだ馬鹿、とか言われるのに。
「……何かあったんですか?」
そう言って彼の体をゴロンと転がして顔を見る。
「ってうわ、何ですかその顔は」
目は虚ろ、頬や口元も力無く、まるで合格発表を見に行ったものの自分の番号が無くて茫然自失しているような表情だ。
何がどうしてこんな放心状態になっているのかさっぱり分からない。レクチェさんはちゃんと居たじゃないか。
「……息をするのも面倒臭い」
「死ぬ気ですか!? 一体何があったんです、言わないと分かりませんよ?」
するとエリオットさんはガバッと起き上がって、虚脱していた体に力を入れてこちらを強く見据えて叫ぶ。
「言わないと分からないんだよ!」
「そ、そうですよ……」
聞いているのはこちらだというのに、エリオットさんが何か聞きたいかのような言い方。何だか色々と理不尽過ぎるが、彼の切迫した雰囲気と表情に怒る事など出来やしない。
「わ、私が何かしました?」
心当たりが全く無いのでとりあえず聞いてみる。
「お前じゃない、レクチェだ」
「! 何かレクチェさんから気になる事でも聞いたんですか?」
私に一人で行くなと言いつつ、エリオットさんが一人で話をしていたらしい。とはいえ私もルフィーナさんと色々話したので文句は言えない。
彼の話を聞いてからこちらの話も伝えよう、と私はエリオットさんの次の言葉を待つ。
だがそれは部屋の戸を叩くノックの音によって阻まれた。
『いらっしゃいますか?』
「はー……んぐっ」
返事をしようとした私の口は、エリオットさんの手で塞がれる。扉の外から聞こえた声は、聞き覚えの無い男性の声だった。
「……居留守するぞ……」
口が塞がれているので私は返事も出来ずに、ただ目が丸くなる。居留守って何でまたそんな事を……と思ったのも束の間。
外から鍵がカチャリと開けられる音と共に部屋のドアは豪快に開いた。
【第十二章 晴れない心 ~噛み合わない歯車~ 完】
更新日:2012-08-26 15:00:44