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挿絵 400*400

 
 
 
「絶品ホワイトチョコムースくださいっ!!」

 声高らかに水を持ってきたウエイトレスに注文するレクチェ。

「俺はアイスコーヒーで……」

 ウエイトレスのお嬢さんは手馴れた様子で二人の注文を書きとめると、オーダーを繰り返してから去っていく。
 店内はいかにもな薄暗い照明と、外からの光を存分に取り入れられる大きな窓、シックなテーブルと編み椅子に、高い天井には小さめのプロペラがいくつか回って風を送っていた。客層は女性がほとんど。

「全く、こんな我侭でいいのかよ神の使いってのは」

 俺のぼやきにレクチェはにこにことするばかり。
 都合の悪い事は喋らないつもりなのだろうか。氷が解けてカランと音を立てるグラスに目をやって、俺はレクチェから視線をあえて外した。
 彼女を見ていては怒る気も失せてしまうからだ。つまり、俺はこれから彼女を多少なり強い口調で問いただそうとしている。

「……レクチェ、聞きたい事が」

「お待たせしました、ホワイトチョコムースとアイスコーヒーになりまーす」

「わーい!」

 だああああああ。
 折角切り出したというのに、目の前にはデザート。上にピンクの花びらのチョコレートをあしらったそのムースは白と緑の交互で四層に作られており、春を連想させた。そんなのどうでもいい。
 ムースに早速手をつけようとするレクチェから俺はその皿を取り上げる。

「食べるのは俺の質問に答えてからだ」

「っ!?」

 親の突然の訃報を聞いたかのような顔をしてレクチェが俺を見た。それほどショックなのか? まぁコレが効くのであればそれはそれで良い。

「レクチェは神様を信じているのか?」

「うーん、何の神様っ?」

 と、予想していない返答が返って来た。だが彼女の問いは正しい。宗派だって色々あるのだから問いかけ自体にキチンと提示せねばならない、か。……だけど俺はレクチェにとっての神がどれなのか知らない。

「何って特定はしないよ、信じてる神様が居るか居ないか、でいい」

 問いかけを少しだけ変えて再度聞いてみる。すると彼女は俺に逆に尋ねてきた。

「何に対し、何をもって、神と呼ぶのですか?」

 普段の朗らかな印象は消し去り、毅然とした態度で俺を見据える。怒っているわけではない、ただただ真剣な目。
 彼女がそれをするだけで、俺は思わずゴメンナサイと言いたくなってしまう。でも言ったら負けな気がするから、それはグッと飲み込んだ。
 
「俺は信じてないから、答えようが無いかな……」

 喉が渇くのを感じながら、辛うじて答える。

「それでいいと思います」

 俺は彼女の言葉に、いつだったか同じような事を言われた気がしてハッとした。が、すぐに思考を元に戻して俺は考える。

「ムース、食べていいっ?」

「あぁどうぞ」

 緊張感の無い普段通りに戻った彼女のギャップにすらびっくりする事無く、俺は上の空でムースの乗った皿を彼女に渡した。

 何かが違っている、違っているんだ。彼女は確かに『誰かの命令を受けて行動している』のかも知れない。けれどそれは神などと呼べるものではない、と彼女は言っているように感じた。
 じゃあなんだ、少なくともレクチェは今の自分の境遇を、その命令を、喜んで聞き入れているわけでは無いのか。
 もし彼女がその為だけに造られた存在ならば、何故そんな風に思う?
 もし俺が何でも出来る神様みたいな奴だったとしたら、そんな面倒な人形を作ったりしないし、そもそも食事や睡眠なんて取る必要無く造るぞ。 

「なぁ、レクチェ……」

「ふぁい?」

 口いっぱいにムースを頬張りながら返事をする。ハムスターみたいな頬がこれまた可愛くて頭を撫でたくなるが、それは我慢。

「お前、元々は普通の人間だったんじゃないのか?」

 俺と同じようにどこかで人間として暮らしていて、でも俺のように何か周囲と違う力があって、そこを誰かにつけ込まれたのでは、と。これはあくまで俺の憶測でしか無いが……
 レクチェはもぐもぐと口の中の物を噛んで飲み終えると、俺に向かって微笑んだ。

「そんな事言われたの、初めてだなぁ」

「まぁあんな不思議な力があれば、そうかもな……」

「当たってます」

 俺は温くなりそうなアイスコーヒーを飲もうとした手を止めて、レクチェの言葉に静かに耳を傾けた。

「普通の人間、と呼べる頃は、私にもありました」 

更新日:2012-08-26 14:57:41

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