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「真面目に考えてくださいよ!」
「大真面目だよコッチは」
怒鳴った私を冷めた目で見るエリオットさん。
「いつだって宗教は不安要素だ。まともな理論なんて通じないからな。妄信している人間が一番やっかいなのさ。ルフィーナが俺に話そうとしなかったのも、その虚像を否定されるのがオチだったからじゃないか?」
そう言っておどけたように彼は笑った。
「レクチェを研究して、その力をもし自分達に取り込めれば、自分達がレクチェに代わって信仰対象として立ち上がる事も出来る。辻褄は合うぞ」
「合いません、合いませんよ……」
私は、言葉に詰まりながらもそれを否定する。
もしエリオットさんの言う通り宗教絡みだったとするならば、じゃあ何故私とレクチェさんは本能的な部分で相容れないのか。
「私は、出会った時からずっとレクチェさんが恐ろしいんです……」
「何?」
引かれるのを覚悟でずっと言えなかった心の内を、彼に打ち明ける。そうしなければ、信じて貰えないような気がして。
「彼女の近くに居ると首を絞めたくなります。触れると憎悪に近い感情が湧きあがります。凄く優しくていい人だと頭で分かっているのに、心がいつも落ち着かないんです。少なくとも彼女と私が相容れない種族だというのは間違いありません」
彼女を見て首を絞めたくなるなど、私の他に誰がいるのか聞きたいくらいだ。自分の事でも気持ちが悪いのだ、他人からみればもっとだろう。
「普通に接してるように見えてた俺の目が、節穴だったって事か」
壁にもたれかかっていた体を真っ直ぐ起こし、エリオットさんがこちらに歩いてきた。テーブルに手をついて、彼は正面から私に顔をずいっと近づける。
「……俺は?」
息がかかるくらいの距離に、思わず私は椅子の上で出来る限りその距離を離す。
「えっ、どういう事です?」
「俺の首も絞めたいか?」
「はい!? いや常日頃思っているといえば思っていますが、そういうのとは違うんですよ。レクチェさんに感じるのはもっと寝るとか食べるとかそういう次元の感覚なんです」
その答えを聞いてエリオットさんは、私にのめりこむように近づいてきていた顔と体を離して、テーブルの対になる位置に普通に立った。
「じゃあ大丈夫なんじゃねえの」
そう言って彼は右の手先から光を発して、自らの左手の指をスッとなぞる。
「ちょっ……」
どうやら魔力で自分の皮膚を切ったらしい。結構深くまで切ったようで、その指から真っ赤な血がぽたぽたと流れ出す。
彼の血を見るとあの時の光景が頭に浮かんできて、意識がくらりとするのを感じた。
けれどその指は、彼が再度右手でなぞると、綺麗に血が止まる。
「!?」
エリオットさんは切った指の血を舐め、その指をこちらにしっかり見せてくる。その指に、傷跡などもうどこにも無い。
……それは魔術ではなく、魔法のように行われた。
「レクチェの力を間近で見た時、俺にも出来るような感じだったから地下で暇だった時間に練習してみたんだ。で、これくらいの傷ならとりあえず出来た。どういう事か分かるな?」
「エリオットさんとレクチェさんは、同じ種族、だと?」
「いや、それだと俺のところの王族皆同じになるだろう。そもそもこんな魔力を持っているのは兄弟の中でも俺だけだ」
ううん、という事は……
「種族に関係なく、そういう力を持って生まれてくる事がある、ですか?」
「分からんが、種族という言葉では括れない事になる」
切ったはずの指を眺めながら、彼は椅子に腰掛けた。
「俺としては神だの宗教だの以前に、精霊のほうがよっぽど怪しいね」
ギィ、と彼の椅子が鳴る。その目は指に向けられているが、言葉は私に突き刺さるように響いた。
「ま、お前はそこの槍がお気に入りのようだからこれ以上は言わないけどな」
両手を頭の後ろで組んで背伸びをしながら、暗に私に自分で考えろ、と彼は言う。
壁に立てかけてあるニールは、この声も聞こえているのだろうか。私は何気なく槍に目をやった。エリオットさんも一緒に私の視線の先を見る。
姉さんがあんな事になっている元凶の剣と同じ、精霊の宿った不思議な槍。
私は彼から聞いている内容とルフィーナさんの話が大筋一致していたのですんなり信じていたが、片側、しかも私という間を介して話を聞いているエリオットさんからすれば、信じられないのも無理は無いかも知れない。
「ローズさえ元に戻れば、神とか宗教だとか連中の都合だとか、そんなのどうでもいいさ」
エリオットさんは目的が迷走しかかっている私に、再度念を押すようにそう付け加えた。
「大真面目だよコッチは」
怒鳴った私を冷めた目で見るエリオットさん。
「いつだって宗教は不安要素だ。まともな理論なんて通じないからな。妄信している人間が一番やっかいなのさ。ルフィーナが俺に話そうとしなかったのも、その虚像を否定されるのがオチだったからじゃないか?」
そう言っておどけたように彼は笑った。
「レクチェを研究して、その力をもし自分達に取り込めれば、自分達がレクチェに代わって信仰対象として立ち上がる事も出来る。辻褄は合うぞ」
「合いません、合いませんよ……」
私は、言葉に詰まりながらもそれを否定する。
もしエリオットさんの言う通り宗教絡みだったとするならば、じゃあ何故私とレクチェさんは本能的な部分で相容れないのか。
「私は、出会った時からずっとレクチェさんが恐ろしいんです……」
「何?」
引かれるのを覚悟でずっと言えなかった心の内を、彼に打ち明ける。そうしなければ、信じて貰えないような気がして。
「彼女の近くに居ると首を絞めたくなります。触れると憎悪に近い感情が湧きあがります。凄く優しくていい人だと頭で分かっているのに、心がいつも落ち着かないんです。少なくとも彼女と私が相容れない種族だというのは間違いありません」
彼女を見て首を絞めたくなるなど、私の他に誰がいるのか聞きたいくらいだ。自分の事でも気持ちが悪いのだ、他人からみればもっとだろう。
「普通に接してるように見えてた俺の目が、節穴だったって事か」
壁にもたれかかっていた体を真っ直ぐ起こし、エリオットさんがこちらに歩いてきた。テーブルに手をついて、彼は正面から私に顔をずいっと近づける。
「……俺は?」
息がかかるくらいの距離に、思わず私は椅子の上で出来る限りその距離を離す。
「えっ、どういう事です?」
「俺の首も絞めたいか?」
「はい!? いや常日頃思っているといえば思っていますが、そういうのとは違うんですよ。レクチェさんに感じるのはもっと寝るとか食べるとかそういう次元の感覚なんです」
その答えを聞いてエリオットさんは、私にのめりこむように近づいてきていた顔と体を離して、テーブルの対になる位置に普通に立った。
「じゃあ大丈夫なんじゃねえの」
そう言って彼は右の手先から光を発して、自らの左手の指をスッとなぞる。
「ちょっ……」
どうやら魔力で自分の皮膚を切ったらしい。結構深くまで切ったようで、その指から真っ赤な血がぽたぽたと流れ出す。
彼の血を見るとあの時の光景が頭に浮かんできて、意識がくらりとするのを感じた。
けれどその指は、彼が再度右手でなぞると、綺麗に血が止まる。
「!?」
エリオットさんは切った指の血を舐め、その指をこちらにしっかり見せてくる。その指に、傷跡などもうどこにも無い。
……それは魔術ではなく、魔法のように行われた。
「レクチェの力を間近で見た時、俺にも出来るような感じだったから地下で暇だった時間に練習してみたんだ。で、これくらいの傷ならとりあえず出来た。どういう事か分かるな?」
「エリオットさんとレクチェさんは、同じ種族、だと?」
「いや、それだと俺のところの王族皆同じになるだろう。そもそもこんな魔力を持っているのは兄弟の中でも俺だけだ」
ううん、という事は……
「種族に関係なく、そういう力を持って生まれてくる事がある、ですか?」
「分からんが、種族という言葉では括れない事になる」
切ったはずの指を眺めながら、彼は椅子に腰掛けた。
「俺としては神だの宗教だの以前に、精霊のほうがよっぽど怪しいね」
ギィ、と彼の椅子が鳴る。その目は指に向けられているが、言葉は私に突き刺さるように響いた。
「ま、お前はそこの槍がお気に入りのようだからこれ以上は言わないけどな」
両手を頭の後ろで組んで背伸びをしながら、暗に私に自分で考えろ、と彼は言う。
壁に立てかけてあるニールは、この声も聞こえているのだろうか。私は何気なく槍に目をやった。エリオットさんも一緒に私の視線の先を見る。
姉さんがあんな事になっている元凶の剣と同じ、精霊の宿った不思議な槍。
私は彼から聞いている内容とルフィーナさんの話が大筋一致していたのですんなり信じていたが、片側、しかも私という間を介して話を聞いているエリオットさんからすれば、信じられないのも無理は無いかも知れない。
「ローズさえ元に戻れば、神とか宗教だとか連中の都合だとか、そんなのどうでもいいさ」
エリオットさんは目的が迷走しかかっている私に、再度念を押すようにそう付け加えた。
更新日:2012-08-26 14:31:48