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晴れない心 ~噛み合わない歯車~
「そろそろ出ようぜ……」
何故かげんなりしているエリオットさんがそう切り出した時。
私はズボンの裾を捲くって靴を脱ぎ、足を地底湖にちゃぷちゃぷ投げ出して寝っ転がって天井をぼーっと見ていた。
ちなみに小さめの岩に座っているルフィーナさんは、フナムシのような生き物をつっついて遊ぶレクチェさんをにこにこ眺めている。
いわゆるフリーダム状態。
「もう出るんですか?」
こんなに綺麗な場所、いつまで眺めていても飽きないのに。
「俺の体感時間は既に二十四時間を経過しているぞ!?」
「それはエリ君が興味無いから長く感じるのよ。私の体感時間は六時間ってところね」
私は思わず体を起こして叫んだ。
「えっ、そんなに経っているんですか!?」
そう思ったら途端にお腹が空いてきた。夕飯を食べていない気がするのに、もう朝ごはんになってしまうではないか。
湖に浸けていた足を上げて、ぶるぶる振ると飛沫が舞い散る。足の指はもうしわしわのふにゃふにゃで、足を地に着けた途端に違和感がした。確かに長居し過ぎたかも知れない。
そこへ、フナムシもどきを手でがっしり掴んだレクチェさんがこちらに寄ってくる。普通ならその手で虫が暴れてもおかしくないのだが、何故か大人しく掴まれたままでいて、まるで彼女に触れられる事を虫も嫌がっていないように見えた。
「多分日の出は過ぎてるかな」
「いやレクチェ、自然にソレを持ち歩かないでくれ頼むから」
予想時間を教えてくれたレクチェさんからずざざざっ、と距離を置くエリオットさん。私はフナ虫は食べられるくらいなので気にならないが、彼はあまり好きではないようだ。
「こんなに可愛いのに……」
「……嫌いじゃないですけど、流石の私も可愛いとは思いませんよ」
彼女の発言に、きっぱりと同意出来ない意志を伝えておく。いくらなんでもソレは無い。
「可愛いレクチェが、気持ち悪い虫を持って佇む……ギャップ萌えってやつね」
「違う!! それちがーう!!!」
ルフィーナさんのよく分からない発言に、エリオットさんが全力で否定した。
「そうだよルフィーナ。気持ち悪くないよ、こんなに可愛いよ」
だが、それに続いたレクチェさんの否定どころが完全に間違っている、という事はちゃんと私にも分かる。
どんなに可愛らしく胸元の前で両手で優しく包むように持っていても、虫の気持ち悪さは全く変わらない。むしろ違和感MAXで、その小さな生き物は大きな存在感をアピールしていた。
時間を言われた途端に襲ってきた睡魔に、私は大欠伸させられる。
「とりあえず、戻りますかね」
そんなこんなであの狭い梯子まで辿り着いた私達だが、肝心の天井の戸が開いていなかった。
「内側から開けるにはここを引けばいいのよ」
そう言ってルフィーナさんが梯子の一番上、戸の手前で何かを引く。というのも、暗くてあんまり見えない。
彼女が引いてから程なくして、戸が勝手に開いた。梯子の上から眩しいくらいの明かりが洩れ、最初に見えたのは優しく微笑む綺麗な女性。オーキッドの髪を羽根飾りの付いたターバンでまとめ上げ……ん?
「さ、早く上がってきなさーい」
先に上り終えたルフィーナさんが上で手招きしている。私は上る前に、隣にいたエリオットさんに聞いた。
「アレ、昨日の人ですか?」
昨晩と雰囲気が随分違うので一見女性かと思ったのだが、どうも身体的特徴が限りなく昨晩の男性と同一である。
「多分……」
エリオットさんも私と同じように困惑した表情で答えた。
全員無事上り終えた私達を確認すると、そのターバンの人はゆっくりと床の戸を閉める。
「お疲れ様です」
物腰柔らかに私達に労いの言葉を掛ける彼に、私とエリオットさんは思わず顔を見合わせた。そんな私達の様子に気付いたルフィーナさんが簡潔に説明を入れる。
「昼間は性格いいのよ、この子」
「恐れ入ります」
彼はその言葉を受けて、深々と頭まで下げてきた。
その変貌ぶりに私は思わず一歩下がってしまう。眠いと性格が悪くなるとかそういう感じだろうか。疑問は浮かぶが、深くは聞かないでおく。
挨拶は短く済ませて小屋を出ると、空気が澄んでいて気持ちがいい。外は雲ひとつなく晴れやかに青空が広がっていた。
「とりあえずどうします?」
「……フリータイム昼の部でご休憩だな」
エリオットさんが欠伸をしながら、読者が眉を顰めそうな単語で答える。それに釣られるようにレクチェさんも小さく欠伸。
「ふぁ……フリータイムにはまだ早いんじゃないかなぁ」
「そこ答えるのレクチェなの!? ルフィーナじゃないんだ!?」
何故かげんなりしているエリオットさんがそう切り出した時。
私はズボンの裾を捲くって靴を脱ぎ、足を地底湖にちゃぷちゃぷ投げ出して寝っ転がって天井をぼーっと見ていた。
ちなみに小さめの岩に座っているルフィーナさんは、フナムシのような生き物をつっついて遊ぶレクチェさんをにこにこ眺めている。
いわゆるフリーダム状態。
「もう出るんですか?」
こんなに綺麗な場所、いつまで眺めていても飽きないのに。
「俺の体感時間は既に二十四時間を経過しているぞ!?」
「それはエリ君が興味無いから長く感じるのよ。私の体感時間は六時間ってところね」
私は思わず体を起こして叫んだ。
「えっ、そんなに経っているんですか!?」
そう思ったら途端にお腹が空いてきた。夕飯を食べていない気がするのに、もう朝ごはんになってしまうではないか。
湖に浸けていた足を上げて、ぶるぶる振ると飛沫が舞い散る。足の指はもうしわしわのふにゃふにゃで、足を地に着けた途端に違和感がした。確かに長居し過ぎたかも知れない。
そこへ、フナムシもどきを手でがっしり掴んだレクチェさんがこちらに寄ってくる。普通ならその手で虫が暴れてもおかしくないのだが、何故か大人しく掴まれたままでいて、まるで彼女に触れられる事を虫も嫌がっていないように見えた。
「多分日の出は過ぎてるかな」
「いやレクチェ、自然にソレを持ち歩かないでくれ頼むから」
予想時間を教えてくれたレクチェさんからずざざざっ、と距離を置くエリオットさん。私はフナ虫は食べられるくらいなので気にならないが、彼はあまり好きではないようだ。
「こんなに可愛いのに……」
「……嫌いじゃないですけど、流石の私も可愛いとは思いませんよ」
彼女の発言に、きっぱりと同意出来ない意志を伝えておく。いくらなんでもソレは無い。
「可愛いレクチェが、気持ち悪い虫を持って佇む……ギャップ萌えってやつね」
「違う!! それちがーう!!!」
ルフィーナさんのよく分からない発言に、エリオットさんが全力で否定した。
「そうだよルフィーナ。気持ち悪くないよ、こんなに可愛いよ」
だが、それに続いたレクチェさんの否定どころが完全に間違っている、という事はちゃんと私にも分かる。
どんなに可愛らしく胸元の前で両手で優しく包むように持っていても、虫の気持ち悪さは全く変わらない。むしろ違和感MAXで、その小さな生き物は大きな存在感をアピールしていた。
時間を言われた途端に襲ってきた睡魔に、私は大欠伸させられる。
「とりあえず、戻りますかね」
そんなこんなであの狭い梯子まで辿り着いた私達だが、肝心の天井の戸が開いていなかった。
「内側から開けるにはここを引けばいいのよ」
そう言ってルフィーナさんが梯子の一番上、戸の手前で何かを引く。というのも、暗くてあんまり見えない。
彼女が引いてから程なくして、戸が勝手に開いた。梯子の上から眩しいくらいの明かりが洩れ、最初に見えたのは優しく微笑む綺麗な女性。オーキッドの髪を羽根飾りの付いたターバンでまとめ上げ……ん?
「さ、早く上がってきなさーい」
先に上り終えたルフィーナさんが上で手招きしている。私は上る前に、隣にいたエリオットさんに聞いた。
「アレ、昨日の人ですか?」
昨晩と雰囲気が随分違うので一見女性かと思ったのだが、どうも身体的特徴が限りなく昨晩の男性と同一である。
「多分……」
エリオットさんも私と同じように困惑した表情で答えた。
全員無事上り終えた私達を確認すると、そのターバンの人はゆっくりと床の戸を閉める。
「お疲れ様です」
物腰柔らかに私達に労いの言葉を掛ける彼に、私とエリオットさんは思わず顔を見合わせた。そんな私達の様子に気付いたルフィーナさんが簡潔に説明を入れる。
「昼間は性格いいのよ、この子」
「恐れ入ります」
彼はその言葉を受けて、深々と頭まで下げてきた。
その変貌ぶりに私は思わず一歩下がってしまう。眠いと性格が悪くなるとかそういう感じだろうか。疑問は浮かぶが、深くは聞かないでおく。
挨拶は短く済ませて小屋を出ると、空気が澄んでいて気持ちがいい。外は雲ひとつなく晴れやかに青空が広がっていた。
「とりあえずどうします?」
「……フリータイム昼の部でご休憩だな」
エリオットさんが欠伸をしながら、読者が眉を顰めそうな単語で答える。それに釣られるようにレクチェさんも小さく欠伸。
「ふぁ……フリータイムにはまだ早いんじゃないかなぁ」
「そこ答えるのレクチェなの!? ルフィーナじゃないんだ!?」
更新日:2012-08-26 14:20:33