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Shoot a love scene

 約束の5時半の前に、ジェイムの自宅に着いた
鑑識が入った後、まだ立ち入り禁止のテープが貼られている
それをまたいで、1階の玄関から入った
 なぜかケリーが向かえてくれて、リオカードだけ2階居間近くの小間へ連れて行かれる
 「 どういうこと? 」
訳が判らない
 「 わたしは知らないけど
あんたが来たら“フィーズベリ”に仕立ててくれって言われただけよ 」
ガイルの指示であることはすぐに解った
それで仕方が無く言われるままに、ドレスアップする
 実は最前から本当に気が進まない 不快といって良い程、気分は落ち込んでいた
 美しく長い髪をざっくりとまとめ上げる
遅れ毛やほつれ髪はそのままに、大きめの飾りのついたクリップで留める
 淡いピンクとモスグリーンのアイシャドウで物憂げに彩り、口紅は鮮やかなカンパリオレンジ
ふっくらとラインを取り、リップグロウでグラマラスな印象に仕上げる
 口紅と同じカンパリカラーの爪を着ける
シュレから貰ったダイヤのネックレスは、白銀のロマンティックスタイルのドレスに良く映えて、リオカードをさらに美しく飾る
 「 扇情的にしてくれってことだったわ 」
化粧を終えると、ケリーはどう?と訊いた
確かに、リオカード本人の意思とは関わりなく、鏡の中の“女”は妖艶に輝いていた
リオカードは銀色のハイヒールを履いて、立ちあがった
 胸の前で軽く腕を交差させる
そうしていないと肩からドレスがはずれて落ちてしまうからだったが、そのしぐさがまた妖しく美しい
リオカードは思わずため息をついた
 「 ‥‥なんだか、ねぇ 」
自分でも驚くほど艶めいて見える これはいったい何だろう‥‥?
ケリーもつられてうっとりとため息をついた
 「 ホントにすごく綺麗ね‥‥ 」
 ケリーは昼間と同じように、その姿をデジカメに収める
それからリオカードを、例の書斎へと案内した
 書斎の、銃弾を受けて壊れたドアは、取り払われていた
本部から呼ばれた映像処理センターのプロ達が出入りしている
今や奥の隠し部屋はミニ放送局と化していた

 「 あら、リオカード 綺麗にできたこと 」
 「 ‥‥イェシル 」
 リオカードは、はにかんだ風にその黒髪の女性を呼んだ
イェシル‥‥YesilとはTurkey語で“みどり”という意味だが、それはこのJapanese女性の“みどりこ”という名に由来したニックネームだ
清家(せいけ)緑子は映像処理センターの主任で、プロデューサー、ディレクターでもある
イェシルはリオカードをまじまじと見詰めると、満足した風に頷いた
 「 さすが、完璧だわ ケリー 」
ケリーは安心したように微笑んだ
 ガイルと打ち合わせをしていたシュレが振り返る
ふたりともリオカードを見て‥‥頭のてっぺんからつま先まで、見返って
 「 確かに、完璧だ 」
珍しくガイルが褒めた
 シュレはタキシードを着て、濃いめのブラウンのウィッグを着けさせられていた
ぱっと見、スタージェスに似て見える
 ドレスアップしたリオカードとシュレ
野性的Wildというより野郎的Guyなシュレは、目を引くような美男では無いが、人を逸らさないセクシーな魅力の持ち主だ
リアリティのないミステリアスな美貌のリオカードと並ぶと、何かの一対に見える
 「 なにをすればいいの? 」
 リオカードはシュレと繋いだ手を握り締めて、不安げに訊いた
 「 指示は全部、そこのお兄さんに伝える 」
ガイルが、シュレを指す
見るとシュレは、インカムを髪で目立たないように隠して着けている
イェシルはにっこりと笑う
 「 プロットを話しておくわ それで十分でしょ?
時間は深夜 “フィーズベリ”と“スタージェス”は何かのパーティから帰ったところ
玄関から入って階段を上って、3階のスタージェスの部屋でくつろいで頂戴 」
リオカードは小首をかしげる
 「 それだけ? 狙いはなに? 」
イェシルは、思わせぶりに頬笑む
 「 ‥‥この監視カメラの映像が、どこかに自動送信されているってことは知っているわね? 」
と、念を押して
 「 昨日の埋葬式の後、あなたとスタージェスが帰って来たところから、撃ち合いになって、あなたが階段を下りて行ったところで自動送信は終わっているわ 」
するとロビンソンや、シュレが屋敷内に入り込んだところまでは、伝わっているのだ
 「 その後は、誰かは特定できない人影が屋敷を出て行って、鑑識が入って捜査されている様子を編集して送っているの
つまりロビンソンが逮捕されたことや、スタージェスが撃たれたことは送信されていないのよ 」
けれど鑑識が入ったとなると、状況がどうなっているのか気になるところだろう
 「 だから‥‥何者か知らないけど“監視しているヤツ”に、その続きを送ってあげたらどうかしら?

更新日:2011-05-14 00:16:02

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