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シュレはリオカードの後ろへ近づくと、ボタンへ手を伸ばした
ひとつ、ふたつ‥‥と掛けてやる
だが
「 ‥‥! 」
リオカードの動揺 驚きが肌を伝わってくる
シュレは後ろからリオカードを、手荒く抱きしめていた
「 痛っ‥‥ 」
逆ねじされた両の手首が痛む
リオカードは小さな悲鳴をあげたが、シュレは委細構わない
「 仕事の話はしてないって 言ったでしょ 」
「 だからってずっと、あんな辛い顔させとくのか?
いい趣味だな 」
「 ‥‥放して 」
さらに締め上げられて苦しそうに息をつく
「 リオカード 」
「 手を、放せ 」
シュレは掴んだ腕の力を緩めた
ゆっくりと手を下げながら、リオカードは振り向いた
「 お察しの通り ぼくは母の連れ子だ
ザヴィニーの家にとっては、異端の者だと言うことを判ってほしい‥‥ 」
そう言いかけて、少し躊躇する
が‥‥それらのことは総て、まるきり意に介さない、とでも言いたげに
冷たく微笑みながら続ける
「 ‥‥ぼくがフォン・ザヴィニーを名乗っていられるのは、彼女のおかげなのさ
ぼくにはどうでもいいことだけど、義父の遺言でね 」
「 母が亡くなって‥‥母の家を出て、ここへ移ったのだけど
義父が亡くなったら、やはりちょっと居づらくなって‥‥
‥‥5年前、ここに戻ることになった時、叔母‥‥義父の妹に約束したんだ
ラトキュ・ダーヴィンを後見人にして‥‥ね
彼女を立派に成人させること
そして時が来たら彼女を妻に‥‥迎えること 」
「 ‥‥これが‥‥条件‥‥ 」
リオカードは微かな冷笑を浮かべたまま、居る
「 ‥‥ここに戻る‥‥? 」
肯定の印に頷いてみせる
「 義父が亡くなった時、ぼくは14歳で‥‥エイジャリーナは10歳だよ
だから、叔母が彼女を引き取って行った‥‥ 」
「 おまえは? 」
リオカードは軽く肩をすくめる
「 ぼくはザヴィニー家の者じゃない
叔母にぼくを養育する、義務はないからね 」
話の内容とは裏腹な、平坦な口調
口唇に冷笑を浮かべたリオカードから、彼の内面を伺うことは難しかった
「 ‥‥それでラトキュ・ダーヴィンに引き取られたって訳か?
ヤツとは? なんで知り合ったんだ? 」
一介のトラブルシューターと、良家のお坊っちゃん
その接点がシュレには想像できない
リオカードは首をかしげてしばらくの間、シュレを見詰める
シュレも結構冷静な表情で、何を考えているのか判らない
「 ‥‥母の家で 独りで暮らしてても 良かったんだけどさ‥‥
そうだね、母方の祖父母の所でも 良かったし‥‥ 」
とんちんかんな応えが返る
「 選択肢はいくつもあったはずなんだけど、ぼくちょっと
‥‥いろいろあって‥‥なんだかこんなことに 」
はぐらかされた、という感じはしなかった
シュレは、リオカードの左腕の傷跡はその頃のものではないかと推測した
自傷癖? 自殺未遂? それも1、2度でなく
「 ‥‥ラトキュにどんな勝算があったかは、知らないけどね
叔母があっさり妹を返してくれるなんて、思ってなかったよ 」
今度はシュレが首をかしげる番だった
エイジャリーナを自分の手に“返してもらう”という発想に
「 そんな条件をつけてまで、一緒に暮らしたい彼女に、なんで淋しい思いをさせておくんだ? 」
子供じみた独占欲?
リオカードは心の、緊張を解きほぐす穏やかな微笑み方をした
柔らかいだけでとらえどころのない、曖昧な笑み
困っているのか哀しんでいるのか‥‥
美しいが、リオカードの心持ちは伝わってこない
「 ‥‥今日行方不明になって、明日は死んでるかもしれない身の上を、心配させろっていうの?
それとも君の兄様は、平気で他人に銃口を向けられる人間だ‥‥って? 」
リオカードはふふっと、小さく息を吐くように嘲笑う
「 言える訳ない そんなこと 今のままのほうが、ずっといい 」
「 場合によっちゃあ 知らせない方がよっぽど残酷だぞ 」
「 ‥‥ぼく は ‥‥ 」
「 彼女に対して‥‥少し臆病になっている
彼女がいつまでも子供じゃないって判ってるけど、怖いんだ
今はだめ、話せない 」
リオカードがそう考えるのも無理は無い
けれど
「 エイジャリーナはいずれ おまえの奥方になるんだろう? 」
リオカードはきっぱりとそれを否定した 大きく首を横に振る
「 そんなつもりは無いよ 彼女はぼくの大切な妹だ
ぼくはエイジャリーナだけは、幸せにしてあげたいんだよ 」
そう言ったリオカードの言葉に、シュレは己の両親の姿を思い出してしまった
別れた母の、後姿を
それを感じ取ったのか、リオカードは緩やかに透き通る笑みを浮かべ、シュレに向ける
「 ねえ、初めて彼女に会った時 あの子が言ったんだ
ひとつ、ふたつ‥‥と掛けてやる
だが
「 ‥‥! 」
リオカードの動揺 驚きが肌を伝わってくる
シュレは後ろからリオカードを、手荒く抱きしめていた
「 痛っ‥‥ 」
逆ねじされた両の手首が痛む
リオカードは小さな悲鳴をあげたが、シュレは委細構わない
「 仕事の話はしてないって 言ったでしょ 」
「 だからってずっと、あんな辛い顔させとくのか?
いい趣味だな 」
「 ‥‥放して 」
さらに締め上げられて苦しそうに息をつく
「 リオカード 」
「 手を、放せ 」
シュレは掴んだ腕の力を緩めた
ゆっくりと手を下げながら、リオカードは振り向いた
「 お察しの通り ぼくは母の連れ子だ
ザヴィニーの家にとっては、異端の者だと言うことを判ってほしい‥‥ 」
そう言いかけて、少し躊躇する
が‥‥それらのことは総て、まるきり意に介さない、とでも言いたげに
冷たく微笑みながら続ける
「 ‥‥ぼくがフォン・ザヴィニーを名乗っていられるのは、彼女のおかげなのさ
ぼくにはどうでもいいことだけど、義父の遺言でね 」
「 母が亡くなって‥‥母の家を出て、ここへ移ったのだけど
義父が亡くなったら、やはりちょっと居づらくなって‥‥
‥‥5年前、ここに戻ることになった時、叔母‥‥義父の妹に約束したんだ
ラトキュ・ダーヴィンを後見人にして‥‥ね
彼女を立派に成人させること
そして時が来たら彼女を妻に‥‥迎えること 」
「 ‥‥これが‥‥条件‥‥ 」
リオカードは微かな冷笑を浮かべたまま、居る
「 ‥‥ここに戻る‥‥? 」
肯定の印に頷いてみせる
「 義父が亡くなった時、ぼくは14歳で‥‥エイジャリーナは10歳だよ
だから、叔母が彼女を引き取って行った‥‥ 」
「 おまえは? 」
リオカードは軽く肩をすくめる
「 ぼくはザヴィニー家の者じゃない
叔母にぼくを養育する、義務はないからね 」
話の内容とは裏腹な、平坦な口調
口唇に冷笑を浮かべたリオカードから、彼の内面を伺うことは難しかった
「 ‥‥それでラトキュ・ダーヴィンに引き取られたって訳か?
ヤツとは? なんで知り合ったんだ? 」
一介のトラブルシューターと、良家のお坊っちゃん
その接点がシュレには想像できない
リオカードは首をかしげてしばらくの間、シュレを見詰める
シュレも結構冷静な表情で、何を考えているのか判らない
「 ‥‥母の家で 独りで暮らしてても 良かったんだけどさ‥‥
そうだね、母方の祖父母の所でも 良かったし‥‥ 」
とんちんかんな応えが返る
「 選択肢はいくつもあったはずなんだけど、ぼくちょっと
‥‥いろいろあって‥‥なんだかこんなことに 」
はぐらかされた、という感じはしなかった
シュレは、リオカードの左腕の傷跡はその頃のものではないかと推測した
自傷癖? 自殺未遂? それも1、2度でなく
「 ‥‥ラトキュにどんな勝算があったかは、知らないけどね
叔母があっさり妹を返してくれるなんて、思ってなかったよ 」
今度はシュレが首をかしげる番だった
エイジャリーナを自分の手に“返してもらう”という発想に
「 そんな条件をつけてまで、一緒に暮らしたい彼女に、なんで淋しい思いをさせておくんだ? 」
子供じみた独占欲?
リオカードは心の、緊張を解きほぐす穏やかな微笑み方をした
柔らかいだけでとらえどころのない、曖昧な笑み
困っているのか哀しんでいるのか‥‥
美しいが、リオカードの心持ちは伝わってこない
「 ‥‥今日行方不明になって、明日は死んでるかもしれない身の上を、心配させろっていうの?
それとも君の兄様は、平気で他人に銃口を向けられる人間だ‥‥って? 」
リオカードはふふっと、小さく息を吐くように嘲笑う
「 言える訳ない そんなこと 今のままのほうが、ずっといい 」
「 場合によっちゃあ 知らせない方がよっぽど残酷だぞ 」
「 ‥‥ぼく は ‥‥ 」
「 彼女に対して‥‥少し臆病になっている
彼女がいつまでも子供じゃないって判ってるけど、怖いんだ
今はだめ、話せない 」
リオカードがそう考えるのも無理は無い
けれど
「 エイジャリーナはいずれ おまえの奥方になるんだろう? 」
リオカードはきっぱりとそれを否定した 大きく首を横に振る
「 そんなつもりは無いよ 彼女はぼくの大切な妹だ
ぼくはエイジャリーナだけは、幸せにしてあげたいんだよ 」
そう言ったリオカードの言葉に、シュレは己の両親の姿を思い出してしまった
別れた母の、後姿を
それを感じ取ったのか、リオカードは緩やかに透き通る笑みを浮かべ、シュレに向ける
「 ねえ、初めて彼女に会った時 あの子が言ったんだ
更新日:2011-05-05 22:35:49