• 42 / 125 ページ

第四章 迷いの摩天楼

■ ■ ■ ■ ■

「………………」
 社が目を開けると、見慣れない天井が映った。それに、社は彼にしては時間をかけて、状況の把握に努める。
 記憶を手繰る。確か自分は、妖夢の半霊と天子の間に割って入って斬られたのだと思い出す。顔も上げずに自分の体を確認すると、斬り裂かれたシャツはそこにはなく、入れ替わるように包帯が巻かれている。痛みはない。ひょっとしたら、もう完治しているのかもしれない。
「……よっ、と」
 と、そこで初めて社は上体を起こした。ゆっくりと体を動かすが、やはり痛みはない。本当にもう大丈夫なようだ。
「や、社!? 起きたの!?」
 起こした身の背後で、天子の声が聞こえた。社が身を捻って振り返ると、案の定そこには、驚いたように目を見開いた天子の姿。
「だ、大丈夫なの!?」
「ああ、そうらしい。ここは?」
 彼女の問いに短く答え、社は簡潔に問い返した。それに天子は、一瞬虚を突かれたような表情になったが、
「あ、ああここ? 命蓮寺よ。あのネズミ妖怪が連れて来てくれたの」
「そうか……じゃあ、あとで礼言っとかないとな」
 天子の言葉にそう応えると、社は布団をどけて、身を起こす。立ち上がる彼を見上げて、天子が慌ててそれを止めにかかった。
「ちょ、ちょっと! まだ安静にしてなきゃ駄目よ! あんたどんだけ大怪我してここに来たと思ってるの!?」
「言ってる場合じゃないんだっての。ちょっと急ぎの用があるん――ってこら、どこ掴んでんだ!」
 ズボンの裾を掴んで、頑として放さない天子に、社が鬱陶しそうに声を荒げる。
「行かせるか、ってば!」
 その隙に、天子の右手が社の脚を綺麗に掬った。体勢を崩し、布団に向かって落下する社の体。
「って、え……?」
「おお、危ない危ない」
 かと思ったが、社は右手一本で横向きの体を支えると、その体を跳ね上げて再び直立する。傍目には完全に常識を無視した動きに、天子が呆然と呟いた。
 きょとんとする天子。彼女の様子を好機と見て、社はそそくさと立ち去ろうとした。
「あ、ちょ! 待ちなさいコラッ!!」
 襖へと駆け足で向かう社の背に、天子が叫ぶ。だがそんなものに社が従うはずもなく、彼は伸ばした手を襖へかけて――

更新日:2011-03-06 15:25:08

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

東方二次創作 ~ 人工知能が幻想入り 伍