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「何故、佐助は片倉殿が好きなのに何もしないのだ?」


 ある日、唐突に年若い主が聞いて来た。
 確か、おやつの団子を食べ終えたときのコトだったと思う。
「藪から棒になんです?」
 新しいお茶をと思って、畳の上の湯呑を持ち上げようとした手が微妙に手持無沙汰で、宙に浮いていた。
「いや、なんとなくな・・」
 この年若い主は・・・まぁ、つまりはウチの旦那は目下、奥州の独眼竜こと伊達政宗殿と遠距離恋愛中の身。けれども、早々会えるものでもなく、書状や用事で各地をふらふらしている俺の方がまだ独眼竜に会えているぐらいと言う状況だ。 
「この距離感がラクでいいの」
 やっと、その一言を口にして湯呑を盆に載せて、笑って見せた。
「好きなら・・・その、身体とか・・・」
 初々しく顔を朱に染める様が可愛らしい。
 ついつい、主というのを飛び越えて、兄のような気分になってしまう。
「い~や、そういうの面倒臭いって、ダンナらみたいに上か下かで騒いだりさ、相手が本気かどうかとか、相手がどうしたとか?一喜一憂すんのって面倒臭い。それに・・・身体貪りあっちゃったら、もうそれでおしまいでしょ~溺れるにしろ、飽きるにしろ・・これもまた面倒臭い」
 人と人の関係はとかく、踏み入れば踏み入るほど泥臭く、生々しい。唇を重ねれば、身体が欲しくなり、心が欲しくなり、それを相手と確かめあっても、まだまだ足りずに貪り、束縛し合わねばならなくなってしまう。

 そんなの、ごめんだ。

 忍びであればこそ、身軽にラクでいるのが一番。
 何より、武田と伊達が戦を交えることにでもなったら、これまた面倒が起こる。
「佐助・・・」
 旦那は酷く寂しそうな顔をして、俺の方を見つめた。
「会ったら話して、暇してたら一緒にいるぐらいのが心地いいんだよ。」

 お互いなにも傷つかない。

 深く踏みいれば心を揺らす何かに出くわして、思わぬ傷をつけかねないから。
「ま、ダンナらは若いんだからいろいろ楽しい頃だろうしさ、いろいろ一喜一憂して楽しみなさいな、」
 俺はもういいの、これぐらいでさ。

 大体、俺の一番はアンタなんだから、アンタが一番と思えなくなったら困るのは旦那だよ?

「でも、佐助よ」
 そう言いかけた旦那に、
「俺は・・・あれだ、右目のダンナのネコでいいの」
 俺は苦笑しながらそう言った。
「ネコ?」
 旦那は不思議そうにそう言葉を繰り返して、俺の方を見た。
「ふら~ってたまにすりよって、膝に乗っかって、昼寝して、メシもらって・・・それでいいの」
 それだけで十分幸せだ。
 ほんの一時で十分なんだ。

更新日:2011-02-09 09:36:10

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モノ思ウ、ネコ【戦国BSR 佐助×小十郎】