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ひろいもの


朝日が眩しく瞼を刺す。



あたしは上半身を起こした。



あー…なんか、すごくすっきりした気分…。



吐く息も白い。冬の冴えた冷たささえ、寝所で温まった体を覚ますには心地いい。



うーんと腕を伸ばして、固まった体を伸ばす。



ん?



お腹の上に違和感があって、衾(ふすま)をめくると、なにこれ、腕…。



ぼんやりとそのお腹の上に乗ってる腕をみて、それから衾を押さえる自分の腕を見た。



あたしの腕は、目の前にちゃんと二本ある。



とすると…これは!?



「きっ、きゃああああああああああ!?」



お化け!?いや、違う!



「瑠螺蔚(るらい)さん!?」



隣でがばっと飛び起きたのは、高彬(たかあきら)!



「あっ、ああああ、あ、あんた、な、な、なに、なになにを…」



あたしは咄嗟(とっさ)に衾ごと障子際に飛び退(すさ)った。



高彬はあわをくって手を顔の前で降り始めた。



「いや、ち、違う瑠螺蔚さん誤解!誤解だから!本当に!誤解だから!」



今の状況を理解したのか、高彬のその頬にさっと赤みが差したのが、なんかやだ!



目の前の高彬は、髪も結ってないし、着ているものも寝てたから当たり前なんだけど、寝乱れてて、なんか、なんか…。



まさか、こいつ、あたしに何かしたんじゃないでしょうね!?



混乱しながらも、膝を詰めようとした高彬に向かって、楯のごとく衾を突きだす。



「近寄らないで!あんた、なんでここにいるのよ!まさかとは思うけど…」



「ええ!?いや、違う、本当に!本当に違うから!瑠螺蔚さん昨夜のこと覚えてないの!?」



「ゆ、ユウベ、ですって!?」



意味深に聞こえたのが動転と興奮に輪をかけて、あたしは髪も呼吸も振り乱して叫んだ。



「瑠螺蔚さまっ!?」



いきなり、背にしていた障子がすぱーんと大きく開いた。



「由良(ゆら)!?いや違う!違うから誤解するな!」



あたしが振り返るよりもはやく、高彬が弁解する。



あたしは後ろを見た。由良が茫然としたように、高彬を見ていた。それからあたしに視線がうつる。



衾を胸元に掻き寄せるあたしの姿を上から下まで眺めると、その顔はみるみる真っ赤になり、瞳が潤む。そして由良は



「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」



叫んだ。あたしよりも遥かに大きい声で。



ゆ、由良そんなに大きい声も出せたのね…。



他人が自分よりも混乱していると、自分は落ち付いてしまうものなのか、さっきまで騒いでいたあたしは少し冷静になれた。



「兄上様、信じられません!わたくしは、確かに瑠螺蔚さまにはやく義姉上さまになっていただきたいと申しました。けれど、よもやこんな無体なことをされるとは!高彬兄上様は、こんなことをされるような人ではないとわたくし信じておりましたのに!見損ないました!瑠螺蔚さま!」



由良がくるんとあたしを向いた。



「あ、ハイ」



思わず敬語になったあたしに、由良はささっと寄ると、両手をしっかり握った。



「行きましょう」



「えっ行くってどこへ…」



「待て由良!ちがう誤解だ!落ちつけ!誤解、誤解なんだ!弁解させてくれ!」



「兄上様!」



由良が高彬を振り返った。にっこりと笑う。かわいい…じゃなくて。



「絶交ですわ」



由良はかわゆく微笑んだまま、ぴしゃりと言った。

更新日:2012-01-04 13:28:24

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