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「きみの責任を尊重して、とっておきのいいところへ連れていってあげよう」

 猫はそう言ってぼくの前に立った。ぼくはこっくりとうなずいて立ち上がった。ぼくは猫を信用していたし、ほかにあてもなかったからね。

 だけど、ずっと座っていたせいで、足がビリビリしてすぐには歩き出せなかった。猫はそんなぼくにおかまいなしに、どんどん先に行ってしまう。

 まったく! 
 ぼくは足を引きずりながら、必死に後を追った。

 歩いても歩いても、なにも現れない。真っ白な中をただ足踏みしているだけのようで、ぼくはだんだん退屈してきたんだ。

「ねえ、いいところって、まだ先なの?」

 ぼくは前を歩いている猫の背中にそうぶつけた。猫は振り向きもせずに言った。

「行くのやめる?」
「い、行くよ」

 その後、この短い会話はぼくが覚えているだけでも24回は続いたと思う。それでとうとう、ぼくは歩くのをやめてしまったんだ。猫はそんなぼくに気づきもしないで、どんどん進んでしまう。

 今度は不思議に、猫は遠くへいけば遠くへいくほど小さくなっていく。

 猫のすがたがこぶしぐらいの大きさになったとき、ぼくは不安になって、かけ足で猫の後を追いはじめた。でも、ぜんぜん近くならない。

 ぼくは大きな声で、「待って、待って」と叫び続けた。

 するととつぜん、ぼくの目の前に3つの大きなドアが現れたんだ。ぼくはびっくりしてドアの前で立ち止まった。

「やあ」

 ぼくは、3つのドアに向かって声をかけた。でも、3つのドアは沈黙したまま。

 ぼくはドアの後ろにまわろうとしたんだけど、どのドアもぼくの動きにあわせて動いてくるものだから、どうしてもその先に進めない。

「またきみのどこかを開けて、次の部屋に入らなければならないってこと? でも、前にきみは言ったじゃないか、ここにいたければいればいいって。ぼくはまだここにいたいんだよ」

 ぼくは猫の後を追いたかった。<いいところ>に行きたかったし、猫ともまだ別れたくなかったんだ。ぼくは3つのドアが憎たらしくてしょうがなかったよ。

更新日:2009-01-01 13:52:07

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ぼくのはじまりとぼくのおわり(*α版)