• 25 / 31 ページ

イメージ9

 ぼくは形を変えていた。

 というよりも、いままでぼくがぼくだと思っていた<ひと>の形ではなくなっていたんだ。

 だけど、ぼくは続いていたよ。ぼくはぼくのお腹のドアを開けたけど、そこは終わりではなかった。でも、その部屋はやっぱり真っ白で、いままでとなにかが変わるというものではなかった。

「ここも変わらないな。いや、ぼくの形は変わってしまったけれど」

 ぼくはそう言いながら真っ白な部屋をひたすら進んだ。

 まるで空中を泳いでいるような気分だった。こうして進んでいけば、きっとだれかに会うにちがいないだろうと思っていたんだ。そして、ぼくに会ったら、そのひとはぼくを見てどう思うのかなって、少しどきどきしていたよ。

 そしてしばららくして、ぼくはようやく<ひと>に出会ったんだ。それは、前のぼくと同じ形をしていた。

「やあ」
 ぼくはなんて声をかけていいのかわからず、そのひとことで、口をつぐんでしまった。

「やあ……って、きみはどこにいるの?」

 そのひとは、ぼくの声を聞いてとてもおどろいているようだった。ぼくは目の前で不安そうにきょろきょろとしている彼を見て、なんだかドアになった気分だった。

「もしかして、きみにはぼくのすがたが見えないの?」
 ぼくはおそるおそる、そう聞いてみた。

「見えないよ。きみどころか、ここにはなにもないじゃないか」

 ぼくは思わず「ようこそ」って言いそうになってしまった。

 だって安心したんだよ。なにしろ、ぼくには仲間がいたってことがわかったんだもの。でも、いまのぼくは彼とはちがう形をしている……それでもやっぱり、ぼくはひとりじゃなかったってことがうれしかったんだ。

 ぼくはドアがやったことと同じこと、つまり、彼にぼくのすがたが見えるようにする技を知らなかった。だから、どうやってぼくを信頼してもらおうか、考えていたんだ。

 そんなときだった。
 とつぜん、もうひとり、ぼくの目の前に<ひと>が現れたんだ。

 ふたりはまったく同じ顔、同じからだをしていたものだから、ぼくはあぜんとして見比べてしまったよ。その間にも、ひとり、またひとりと、彼らは次々とぼくの目の前に現れたんだ。

 顔はそっくりだけど、みんな表情や態度がちがう。おびえているもの、怒っているもの、目を輝かせているもの……

 だけどみんな、お互いが見えていないようだった。

更新日:2009-01-01 14:40:09

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

ぼくのはじまりとぼくのおわり(*α版)