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「薺!! 薺!!! 早く起きなさい!!」

 部屋の窓から月の瞬きが覗く頃、私は菫伯母さんの声で目を覚ます。
 
「……あ……あれ? ……私何して――」

「何して、じゃないでしょ!? 勝手に家とび出してって…まったく、何考えてるの!?」

 ――あ……あの時、私家とび出して……。それから? 私、どこかへ行ったような……。

 つい、私と菫伯母さんの間に気まずい空気が漂っていたことを忘れていた私は、いつもの調子で話していた。


「あれ? そのあと、私どうやって戻ってきた?」

「は? 何言いだすのかと思ったら急に……。普通に帰ってきたでしょ?」

 え? 私まさか、記憶喪失!? 全然覚えてないんですけど……。

 でも、一つだけ明らかに覚えていたことがある。

 【1位に見事当選された貴女への"豪華賞品"は、この神社です】
 
 この言葉は、もう何度も反芻して頭に焼き付けていたから、これだけははっきりと覚えている。
 
「あ、あの、菫伯母さん……私、この家出て行ったほうがいいかな?」

「もう、さっきから何わけのわからないこと言ってるの? それにこの家出て行って、行く宛てもないでしょ」

「……あ、あの、それが実はあるんだ……」
 

 私はもう一度菫伯母さんのほうを見て、自信なさげに言ってみる。


「実は……ハガキが、当選して……それで、すぐそこにある倉浪の神社が当たっちゃって……」

 菫伯母さんは目を大きく見開く。

「倉浪……?」

「う、うん」

 彼女は少し不自然な反応を見せると、またいつものように戻った。

「何言ってるの? 神社が賞品なんて、聞いたことないわよ」

「嘘じゃないの! 本当!」
 
 呆れた彼女は、「じゃあ証明書とか、あるでしょ」と聞いてくる。
 

更新日:2011-08-09 16:46:04

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