• 作品を探す:

小説

携帯でもPCでも書ける!

  • 247 / 328 ページ

番外編②: あなたがいたから

 全ての失敗は、きっとあの日に始まったのだろう。

 3月下旬。春の到来を押しのけて、その日はまた冬の寒空が頭上を覆っていた。

「あなたも、一人なの?」

 嘲ることも憂うこともせずに、彼女はただ、人に話しかけるのと同じように、答えの返ってくるはずもない質問を口にした。

 最初は、そんなわけないと思った。

「……なんて、ごめんね。こんな私と一緒にされたくない、か」

 けれど声のする方向へ首を傾けた瞬間、その疑問はあり得ないと信じていた可能性と重なった。

 隣に腰を下ろした彼女の視線は、やはり俺に送られたものだったのだ。……仕方なく貼り付けられた、その行き場のない笑みも。

「…………私、これでいいのかな……」

 彼女の口から漏れたその呟きは、多分不本意だ。少しでも風が吹いていたら聞き取れなかったというほど、低く囁かれた言葉だったから。

 俺の中で即座に結論が生まれた。
 
 キチガイだ。それでなければ、こいつには俺には見えない何かが見えている。それでもなければ、まだこの時代に、真剣に猫に話しかける女学生がいるとでもいうのか。

 それだけじゃない。こいつが着ているのは、俺の通う高校の制服だ。普段から他の奴らと交流が薄いという理由もあって、同学年かも判断し損ねたが。

 少なくとも、俺の知っているこの無関心な町には、こんな変な奴はいない。

 ……この女の存在を、とことん否定したくなった。

「ねぇ、過去に戻れるとしたら、どうする?」

 疑うことなど知りもしなさそうな幼びた声に、煩わしさを覚えた。

 猫に問いかけてくる女の隣に居座る趣味なんてない。理由もない。
 だが、彼女の話し方が、彼女の目に映った景色が、なぜか無性に突っかかった。

「私は……そうだな、まず期末試験の回答欄をずらさないように書くでしょー」

 そこで、やっと分かった。
 この女は、俺からはなんの返事も期待していないということ。

更新日:2012-02-09 23:01:31