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小説

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番外編①: あなたがいるから

 椿ちゃんが隣にいないと、やっぱりちがった。

「これは“シャペーン”、こっちは……えっと、……“シャシーン”……?」

「“シャーペン”と“シャーシン”、ですよ! なんの効果音ですか、シャペーン、シャシーンって」

 それは、倉浪神社でのどかに午後を過ごしていた日のことだった。

「わぁ難しいな……」

 完全に棒読みで呟かれたその台詞に、あなた実は全然覚える気ないでしょ、と突っ込みたくなる。呆れつつ身を乗り出した瞬間、

「あ、あれ?」

 見覚えのない一枚の紙切れが視界の端をかすめた。

「なんですか、こ――」

 手を伸ばして真っ白なそれを裏返してみると、自分の筆跡で文字が羅列されていた。

 真っ先に目に飛び込んできたのは、①、③、⑦。目を通してみると、露骨に誰かの意図が潜んだ悪質な内容だった。

「あぁそれ、記憶を失っている間に、椿さんが薺さんに協力して書いていたメモですよ、ほら。覚えてませんか? 薺さんの記憶を取り戻すために、って」

 記憶を取り戻すため、って。

 急に黙り込んだ私の手の中から、薄っぺらい紙が床へと静かに滑り落ちる。

「……な、薺、さん?」

(メモ① 私はドジだった、らしい)

 メモ③ “椿ちゃん”はコーチ的存在(?)だったらしい。

 メモ⑦ ずれてる……(なにがだ?)

「なにこれー!?」

 あなたは一体、私になにを思いだして欲しかったんだ、椿ちゃん。
 よりによってあの小悪魔の指導に素直に従うとは、なにやってたんだ私!!

 ③とか、そりゃ思い出せるわけないよね!? これ実在しないフィクションだよね!?

「今度会ったら査問してやる!!」

「まぁまぁ、彼女だって、一応真剣に考えていたんですし……」

「倉浪様、それを見ていながらも訂正しようとはしなかった。あなたも、同罪ですよ」

 キッと睨むと、彼は慌てふためきながら顔を真っ青にする。

「それに倉浪様、私が記憶を失っている間に、私に何か言いましたよね? ……私が絆創膏だとかなんとか」

「えぇ、なんで覚えてるんですか!?」

「時恩に絆創膏貼っているときにふと思い出したんですよ! ったく、毎日口寄せを教わっている身とは言え、あなたの腕についたその市販薬と同じ価値しかないんですか、私は!!」

 言いたい放題にも程ってもんがある。というか言ってもいいけど、本人に面と向かって“あなた絆創膏ですよ”とかよく言えるな、まったく!

「いや、別に、そんなつもりで言ったんじゃ――!!」

 騒々しい私の日常。

 変わったのは、あなたが隣にいないこと。

「椿ちゃんも倉浪様も、私に対する敬意が足りないと思いますっ!」

 心地の良い私の日常。

 変わらないのは、今でもあなたがその中にいること。

 あなたと歩んだ月日が、私たちを、後ろから照らしてくれること。

更新日:2012-02-05 14:58:04