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閃光を放つ物体は何だったのか・・・

 甚八は朝露にぬれる林の中で意識を回復した。

 ハッとして半身を起こした甚八は、岩木家郎党の襲撃に備え、あたりに目を配った。しかし岩木の邸内とはあきらかに様子が違う。まわりに人の気配がない。広い屋敷が消えている。
 
 甚八は自分の身なりに目を移した。切裂かれた衿、袖、袴は、返り血と泥に汚れ、さながらぼろ雑巾をまとっているようだ。起き上がり、手足を動かしてみると尋常に動く。

 ぼろ屑のような身なりながら、躰には切傷も打撲もないのが訝しい。

 さらに訝しいのは、あの閃光を放つ物体だ。渦潮のように自分を吸い込んだ巨大なあやつは、いったい何だったのか・・・
 
 いきなり疲労と空腹と渇きが襲ってきた。甚八はあれこれ詮索するのをやめ、夏草におおわれた大地を確かめながら歩いた。空井戸の罠に易々と嵌ったのが忌々しく思い出される。
 
 うっそうと茂る樹木の間から朝日が射しこんできた。その朝日の下、左前方に一軒家が現れた。

 岩木の屋敷とは似てもにつかぬ小さな町屋だった。それでいて、造りは全体に金物らしきものを多数使っていて、朝日に鈍く光っている。

 甚八は山茶花の生垣を囲む柵に触れてみた。丈夫そうだが、木肌の温もりはない。

更新日:2009-01-03 13:14:36

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