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間幕:あの日の次の一夜のこと
謝らなくちゃ。
それが、自分にできる最善のこと。
許してくれなくても構わない。
「ごめんなさい」と想いを伝えないと。
そう決意を決めて私は今夜も・・・
あの場所へ向かう。
黒く沈んだ夜の中。
蝙蝠でも似合いそうな、アンティークショップ風の建物の扉に手をかける。しかし、いくら押しても引いてもドアは開かない。鍵がかかっているようだ。
仕方ない・・・と、しゃがみこもうとした時―――
「灯月様・・・?今晩は」
「うわあぁ!!?」
背後からの声に私は声を上げる。
薄暗い真夜中の路地裏だと、些細なことでも怖く感じる。
「ク・・・クレナイかぁ、吃驚した」
「こんな時間に大声を出してはいけませんよ。近所迷惑でしょう?それに・・・」
振り返ると、かなり見覚えのある赤毛のオールバックの青年が心外そうに、美しいか顔をしかめていた。
「そんなに驚かれると、私も何だかショックですよ・・・でも、あんなことがあった翌日にもいらっしゃってくださるなんて、ありがとうございます」
「そんな・・・いいです。こっちこそ謝んないといけないことばっかなのに・・・」
「毒のことですか?」
俯く私のうなじに、冷たい体温が伝わってくる。安心させる為に置かれた吸血鬼の掌は、優しかった。
「私の体は既に美湖都さんのお陰で解毒されていますから。心配することはありませんよ。それより、貴方は御自身の女性としての魅力の無さを心配なさい」
「あは・・・そうかもね・・・」
今まで通りに振る舞ってくれるクレナイに心が痛む。
彼の嫌味に、言い返すことができなかった。
「元気を出してください。昨日はあんなに明るくしてくださったじゃないですか」
「うん・・・ありがと」
苦笑いの顔を上げる。
燕尾服を纏う、彼の細身の体。昨夜私が与えてしまった毒による爛れは残るものの、体調は健全そのものであった。
美湖都さんの治療の腕前にびっくりした。でも・・・
表情が少し辛そう?
無理をさせているのかと思うと、より一層心が痛んだ。
「さあ、寒いでしょうし中に入りましょう。それと、嬉しい話があるんです」
クレナイは慣れた手つきで扉に鍵を差し込む。すると、ガチャリと音が鳴って扉が開いた。
「弟のヨシアキのことなんですが・・・あれだけ大罪を犯してきた吸血鬼は大概極刑にされてしまうをですよね」
磔にされ、聖銀の刃で何でも何度も切り裂かれ続ける。
長い苦しみを与えて、じっくり殺すのが私たちの世界の死罪なのです、とクレナイは話す。
飛び散る血飛沫と罪人の発狂した悲鳴・・・
グロテスクな想像をしてしまい、ゾッとなる。
「それが、彼の場合処分を免れ、それどころか吸血鬼(ヴァンパイア)協会の研究医療チームに配属させていただけるようで・・・」
暖かみのある声色で嬉しそうに話すクレナイ。
「ただただ、感謝するばかりです」
「これで・・・彼も更正できるでしょうかね?
「できれば・・・いいんですけど」
微笑を浮かべるクレナイ。
兄弟として、心からヨシアキを想っているのだと伝わってくる。なのに・・・
『僕にとって、他の吸血鬼なんてのはただのモルモット。血が繋がってるからって何?それだけで特別視する理由は?』
残虐な台詞を残し、クレナイの気持ちを無下にし続けていた。
「ヨシアキを、見捨てようと思ったことはなかったの?」
「したくても・・・私の大切な、特別な弟でしたからね」
ギィィ・・・と扉が軋んで開いた。
内側の生暖かい空気が、こちらへ流れてくる。冬になりかけている外の温度との差を感じた。
「さあ、お入りください・・・私も用意をしますね」
上品な手つきで私を室内へ引き入れる。
ドアを閉めたクレナイは、私の肩を軽く叩いた。
「では、少しの間待っていてくださいね」
クレナイはコツコツ・・・と音を立てて螺旋階段を上がっていく。
窓からの月光が赤髪に反射している。
・・・綺麗。
静かに燃えるような美しさだ。
彼の姿を見送ると、私はゆっくりと歩き出した。
一言でも謝るために。
愛しき彼がいる部屋の前へ。
それが、自分にできる最善のこと。
許してくれなくても構わない。
「ごめんなさい」と想いを伝えないと。
そう決意を決めて私は今夜も・・・
あの場所へ向かう。
黒く沈んだ夜の中。
蝙蝠でも似合いそうな、アンティークショップ風の建物の扉に手をかける。しかし、いくら押しても引いてもドアは開かない。鍵がかかっているようだ。
仕方ない・・・と、しゃがみこもうとした時―――
「灯月様・・・?今晩は」
「うわあぁ!!?」
背後からの声に私は声を上げる。
薄暗い真夜中の路地裏だと、些細なことでも怖く感じる。
「ク・・・クレナイかぁ、吃驚した」
「こんな時間に大声を出してはいけませんよ。近所迷惑でしょう?それに・・・」
振り返ると、かなり見覚えのある赤毛のオールバックの青年が心外そうに、美しいか顔をしかめていた。
「そんなに驚かれると、私も何だかショックですよ・・・でも、あんなことがあった翌日にもいらっしゃってくださるなんて、ありがとうございます」
「そんな・・・いいです。こっちこそ謝んないといけないことばっかなのに・・・」
「毒のことですか?」
俯く私のうなじに、冷たい体温が伝わってくる。安心させる為に置かれた吸血鬼の掌は、優しかった。
「私の体は既に美湖都さんのお陰で解毒されていますから。心配することはありませんよ。それより、貴方は御自身の女性としての魅力の無さを心配なさい」
「あは・・・そうかもね・・・」
今まで通りに振る舞ってくれるクレナイに心が痛む。
彼の嫌味に、言い返すことができなかった。
「元気を出してください。昨日はあんなに明るくしてくださったじゃないですか」
「うん・・・ありがと」
苦笑いの顔を上げる。
燕尾服を纏う、彼の細身の体。昨夜私が与えてしまった毒による爛れは残るものの、体調は健全そのものであった。
美湖都さんの治療の腕前にびっくりした。でも・・・
表情が少し辛そう?
無理をさせているのかと思うと、より一層心が痛んだ。
「さあ、寒いでしょうし中に入りましょう。それと、嬉しい話があるんです」
クレナイは慣れた手つきで扉に鍵を差し込む。すると、ガチャリと音が鳴って扉が開いた。
「弟のヨシアキのことなんですが・・・あれだけ大罪を犯してきた吸血鬼は大概極刑にされてしまうをですよね」
磔にされ、聖銀の刃で何でも何度も切り裂かれ続ける。
長い苦しみを与えて、じっくり殺すのが私たちの世界の死罪なのです、とクレナイは話す。
飛び散る血飛沫と罪人の発狂した悲鳴・・・
グロテスクな想像をしてしまい、ゾッとなる。
「それが、彼の場合処分を免れ、それどころか吸血鬼(ヴァンパイア)協会の研究医療チームに配属させていただけるようで・・・」
暖かみのある声色で嬉しそうに話すクレナイ。
「ただただ、感謝するばかりです」
「これで・・・彼も更正できるでしょうかね?
「できれば・・・いいんですけど」
微笑を浮かべるクレナイ。
兄弟として、心からヨシアキを想っているのだと伝わってくる。なのに・・・
『僕にとって、他の吸血鬼なんてのはただのモルモット。血が繋がってるからって何?それだけで特別視する理由は?』
残虐な台詞を残し、クレナイの気持ちを無下にし続けていた。
「ヨシアキを、見捨てようと思ったことはなかったの?」
「したくても・・・私の大切な、特別な弟でしたからね」
ギィィ・・・と扉が軋んで開いた。
内側の生暖かい空気が、こちらへ流れてくる。冬になりかけている外の温度との差を感じた。
「さあ、お入りください・・・私も用意をしますね」
上品な手つきで私を室内へ引き入れる。
ドアを閉めたクレナイは、私の肩を軽く叩いた。
「では、少しの間待っていてくださいね」
クレナイはコツコツ・・・と音を立てて螺旋階段を上がっていく。
窓からの月光が赤髪に反射している。
・・・綺麗。
静かに燃えるような美しさだ。
彼の姿を見送ると、私はゆっくりと歩き出した。
一言でも謝るために。
愛しき彼がいる部屋の前へ。
更新日:2012-03-07 00:55:58