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5.術(すべ)と術(じゅつ)

-1-
 ふと、時計に目をやる。もう夜中だ。明日はカルドキアで長時間の捜索となりそうなので、早めに寝床についたのだ。何に対してなのかはわからないが、ボクは動揺していた。が、体は疲れているのだろう、しばらく寝ころんでいると、眠気が襲ってきた。ゆりかごのように揺れる船体と、遠くから響く子守歌のような潮騒のせいもあって、知らず知らずの間に、ボクは眠っていた。
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 ここは、ボクん家のダイニングだ。僕はいつもの席で座っていて、目の前に母さん、隣には父さんもいる。
 食卓には、僕や母さんの好きなおかずや、父さんお気に入りのオードブルなんかが並んでいた。三人で食卓を囲むのなんて、何年ぶりだろうか。そう言えば母さん、三人で一緒にメシ食おうって言ってたよね。
 ボクは食事に手をつけようとしたが、動かない。椅子に縛り付けられたみたいだ。
 母さん、これは一体、と言ってみる。が、言葉が目の前でしょぼしょぼと消えていってしまう。声帯が震えているのはわかるし、自分で言った言葉が聞こえる。でも、この食卓の反対側にまで、声が響かない。
 今度は叫んだ。でも、すぐに声がしぼむ。聞こえていない。食卓を隔てた先にいる僕の両親はというと、食事にも手をつけず、残念そうな、悲しそうな顔で話しているだけだった。
 ぼくは、あらん限りの大声で叫んだ。
「父さん! 母さん! ボクは、ボクは帰ってくるから! 絶対に!!」
 弾かれたように父さんと母さんがこっちを見るのと、ボクが夢から引きはがされるのは同時だった。
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「―っ!」
 ベッドから跳ね起きる。部屋は、しんと静まりかえっていた。タンスも、シーナビが置いてあるチェストも、窓から差す柔らかな日光と、それに照らされゆっくりと落ちていく埃も、全部が全部、ボクをしらけた目で見ている。そんな感じがした。
「夢―」
 ぼんやりとボクがつぶやくと同時に、チェストの方から、通信が入った。
『チェリー! カルドキアに到着したぞい! 起きろー!』
 チェストの上に置いてあるM.E.N.U.から、ハカセの声が響く。
 はぁ、とボクは息をつくと、ベッドから出てM.E.N.U.を腕にはめ、ラボへと向かった。

更新日:2011-02-14 17:16:05

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