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闇の中の光2「-人間- 訪れる運命(さだめ)」
柊斗は、黎亜の部屋で意識が飛んでから、重体に陥っていた。
これは一見、黎亜が企んだ罠のように思えたのだが、それは間違っていた。
そもそも、黎亜が柊斗を殺す理由なんて、一切思い当たらないのだ。
黎亜はあの後、悲鳴と共にすぐに119番通報をし、柊斗はすぐに名古屋市内の病院に搬送された。
これは、事故だった。淹れられたコーヒーは、あの日に開封した新しいインスタントコーヒーだった。
その次の日、ニュース番組で、中国から輸入されたコーヒーから毒物が検出されている、という情報が放送され、そのコーヒーから、全国で死傷者も多数出ているという報道もあった。
すぐに病院へ搬送されたため、柊斗は一命を取り留め、激しい中毒症状は認められたものの、翌日には意識を取り戻して食事が出来るようになるという、早い回復を見せた。
この日の午前中は、家族が駆けつけ、見舞いに来た。これから暫く入院しなければならないことになり、慣れないベッドの上で何をすることもなくボーっとしていたのだった。
少し前にも、国内で騒がれたことがある。中国で製造した食品に、強い毒性を持つ農薬が混入していた事件で、今の柊斗と同じように、大勢の人が中毒状態に陥ったという事件だ。
「はぁ~……。ついてないな……。でもまぁ、白霧さんが助けてくれて、本当に良かった……」
柊斗は呟く。彼女はあれ以降まだ一度も、柊斗の前に姿を現していない。
実は、昨日あの後に一度だけ見舞いに訪れたのだが、ずっと意識を失っていたせいで、病み上がりの柊斗の記憶には全く残っていないのだ。
ということは、昨日の午前中から今のこの時間までに、丁度一日程時間が流れたことになる。
柊斗も早く会って、礼を言いたかった。
だが、今はまだ月曜の午前中だ。黎亜もさすがに大丈夫だろうと仕事を優先し、出勤していたのだ。
せっかく手料理をご馳走してくれたのに、また気を遣わせてしまい、頭がもやもやする。
自分は何もしていないけど、という気持ちもあったが、彼女には迷惑をかけたと柊斗は思う。
ベッドの隅に、まだ真新しい自分の鞄が置かれていた。あの時、黎亜の家に持って行った鞄だ。
後々黎亜の部屋から持ち出され、誰かが態々病院の個室まで届けてくれたのだろう。
中身は、大して変わったものは入ってなく、財布と携帯電話くらいしか入っていなかった。
そして、手紙も入れていたことに、気が付いた。抜かれていないか心配になったが、さすがに何の変化もなかった。
唯一の変化と言えば、救急隊員や警察が駆けつけるというごたごたから、騒然となって慌ただしく扱われ、中身の手紙の存在など知られることもなく、封筒が結構折り曲がっていたという地味に残念なことだけだ。
「……見ないとな」
落ち着いた表情でそういうと、手紙を鞄から取り出し、封じていたシールを剥がすと、中身の便箋を取り出した。
開くとそれは、二十折りされた薄っぺらい一枚の紙だった。どんなに紙が薄っぺらくても、この一枚にどれだけの感情が篭っていることだろう。きっと、何回も何回も書き直して清書したのだろう。
手紙には、A4サイズもないくらいの可愛らしい便箋に、びっしりと細かい文字が記されていた。
それは正しく、自分の気持ちを伝える文章だった。前置きがかなり長いのが印象的だが、最終的には柊斗のことが気になりはじめて、毎日眠れないのだという正に告白の文章だった。
そして、柊斗の気持ちも、次に会ったときに聞きたいのだという。
最も、次に会うのは少なくとも夕方以降になるだろう。
柊斗も、黎亜のことは多少気になってはいた。毎日を変えてくれたのも仕事より彼女だったし、いつの間にか、彼女がいないときに、彼女のことを考える日々が続いていた。
こんな感情を経験したのは、ずっと昔だったから、忘れかけていた。これは、紛れもない恋愛感情だった。
「俺……、も……。気になっていたのか……?」
何もない病室で、充電が切れている携帯電話で誰かに連絡を取ることも出来ず、それからはじっと黎亜のことを考えていた。
もし自分が、黎亜の告白に応えたなら、自分たちはどういう関係になるのだとか、経験したことがないから、どう接していけばいいか分からないな、だとか、他愛無いことばかり考えていた。
これをピークに、柊斗の気持ちも頂点に達した。次に会うときには、黎亜にこのことを伝えて、気持ちをスッキリさせたい。
そう考えながら、手紙を何度も読み直し、長い時間、余韻に浸った。
これは一見、黎亜が企んだ罠のように思えたのだが、それは間違っていた。
そもそも、黎亜が柊斗を殺す理由なんて、一切思い当たらないのだ。
黎亜はあの後、悲鳴と共にすぐに119番通報をし、柊斗はすぐに名古屋市内の病院に搬送された。
これは、事故だった。淹れられたコーヒーは、あの日に開封した新しいインスタントコーヒーだった。
その次の日、ニュース番組で、中国から輸入されたコーヒーから毒物が検出されている、という情報が放送され、そのコーヒーから、全国で死傷者も多数出ているという報道もあった。
すぐに病院へ搬送されたため、柊斗は一命を取り留め、激しい中毒症状は認められたものの、翌日には意識を取り戻して食事が出来るようになるという、早い回復を見せた。
この日の午前中は、家族が駆けつけ、見舞いに来た。これから暫く入院しなければならないことになり、慣れないベッドの上で何をすることもなくボーっとしていたのだった。
少し前にも、国内で騒がれたことがある。中国で製造した食品に、強い毒性を持つ農薬が混入していた事件で、今の柊斗と同じように、大勢の人が中毒状態に陥ったという事件だ。
「はぁ~……。ついてないな……。でもまぁ、白霧さんが助けてくれて、本当に良かった……」
柊斗は呟く。彼女はあれ以降まだ一度も、柊斗の前に姿を現していない。
実は、昨日あの後に一度だけ見舞いに訪れたのだが、ずっと意識を失っていたせいで、病み上がりの柊斗の記憶には全く残っていないのだ。
ということは、昨日の午前中から今のこの時間までに、丁度一日程時間が流れたことになる。
柊斗も早く会って、礼を言いたかった。
だが、今はまだ月曜の午前中だ。黎亜もさすがに大丈夫だろうと仕事を優先し、出勤していたのだ。
せっかく手料理をご馳走してくれたのに、また気を遣わせてしまい、頭がもやもやする。
自分は何もしていないけど、という気持ちもあったが、彼女には迷惑をかけたと柊斗は思う。
ベッドの隅に、まだ真新しい自分の鞄が置かれていた。あの時、黎亜の家に持って行った鞄だ。
後々黎亜の部屋から持ち出され、誰かが態々病院の個室まで届けてくれたのだろう。
中身は、大して変わったものは入ってなく、財布と携帯電話くらいしか入っていなかった。
そして、手紙も入れていたことに、気が付いた。抜かれていないか心配になったが、さすがに何の変化もなかった。
唯一の変化と言えば、救急隊員や警察が駆けつけるというごたごたから、騒然となって慌ただしく扱われ、中身の手紙の存在など知られることもなく、封筒が結構折り曲がっていたという地味に残念なことだけだ。
「……見ないとな」
落ち着いた表情でそういうと、手紙を鞄から取り出し、封じていたシールを剥がすと、中身の便箋を取り出した。
開くとそれは、二十折りされた薄っぺらい一枚の紙だった。どんなに紙が薄っぺらくても、この一枚にどれだけの感情が篭っていることだろう。きっと、何回も何回も書き直して清書したのだろう。
手紙には、A4サイズもないくらいの可愛らしい便箋に、びっしりと細かい文字が記されていた。
それは正しく、自分の気持ちを伝える文章だった。前置きがかなり長いのが印象的だが、最終的には柊斗のことが気になりはじめて、毎日眠れないのだという正に告白の文章だった。
そして、柊斗の気持ちも、次に会ったときに聞きたいのだという。
最も、次に会うのは少なくとも夕方以降になるだろう。
柊斗も、黎亜のことは多少気になってはいた。毎日を変えてくれたのも仕事より彼女だったし、いつの間にか、彼女がいないときに、彼女のことを考える日々が続いていた。
こんな感情を経験したのは、ずっと昔だったから、忘れかけていた。これは、紛れもない恋愛感情だった。
「俺……、も……。気になっていたのか……?」
何もない病室で、充電が切れている携帯電話で誰かに連絡を取ることも出来ず、それからはじっと黎亜のことを考えていた。
もし自分が、黎亜の告白に応えたなら、自分たちはどういう関係になるのだとか、経験したことがないから、どう接していけばいいか分からないな、だとか、他愛無いことばかり考えていた。
これをピークに、柊斗の気持ちも頂点に達した。次に会うときには、黎亜にこのことを伝えて、気持ちをスッキリさせたい。
そう考えながら、手紙を何度も読み直し、長い時間、余韻に浸った。
更新日:2011-01-09 00:04:47