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2.


 月曜日に相沢さんに告白した。火曜日の朝にはぶっ倒れて、そのまま丸々二日間をほぼベッドの上で過ごした。木曜日には本調子とはいかないまでも、鉛のように重たかった身体が軽くなっていた。浮腫(むく)んでいた手足もすっかり元に戻り、その日の夜には三日ぶりに風呂にも入った。
 そして今日、金曜の朝は目覚まし時計よりも早くに目が覚め、身体の調子はすこぶる良好。勢いよくカーテンを開けて、いつもなら舌打ちが出そうな雨模様にウンザリすることもなく、階段を下りた。

「おはよ。今日は学校に行くよ」
 台所で味噌汁をよそってくれている母に言った。
 コップに水を入れ軽くうがいをして、口の中を湿らせた。残りの水を飲み干して、冷蔵庫にあった麦茶を注いだ。空っぽの胃袋が入ってきた水分によって動き出し、空腹感を覚えた。食欲も戻ってきている。
 病気の時には、いくらでも眠ることができる。身体が睡眠を欲してくれるから、考え始める前に思考が止まる。しかも寝ている間は、気に病むことからも解放されて、精神的にも安定していた。
 ほのかに湯気が立ち上るお椀に口をつけ、火傷をしないように味噌汁を口の中に流し込みながら考えた。

 張り切り過ぎた。後悔しているというよりは、恥ずかしいのと自分の不甲斐なさに苦笑してしまいそうだ。告白した次の日から学校には行けなくて、相沢さんの連絡先も知らない。彼女に知らせる義務はもちろんないし、彼女がどれだけ僕の事を気に留めていてくれるかも分からない。それでもちゃんと言いたかった。冷かしの告白ではなかったのだと、僕が彼女に知らせたかったんだ。それなのに、告白して次の日には音信不通。格好悪いにもほどがある。

 病み上りの身体で、雨の中を自転車で行くのは賢くない。面倒臭いがバスを乗り継いで通学することにした。バスに揺られている間、乗り継ぎ待ちの間、学校に行って相沢さんに会いたいのとは裏腹に、会ってどうしようかという不安が頭をもたげてきた。――いや、会ってちゃんと話せばいいんだ。携帯番号とメールアドレスも聞こう。不安感が軽減することはなかったが、できることをやらなくては、と自分自身に気合いを入れる。
 告白した時に「なぜ?」って答えた彼女のことだ。僕のことなんて何とも思っていない可能性の方が高い。

更新日:2010-12-10 10:44:17

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